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愉快な仲間と魅惑のフルーツゼリー


 小人達が高雅さんにしっかり監視されながら本を片付けている横で、私は結局一人でお茶の支度をする羽目になり、それもちょうど済ませた頃に紫帽子のドーピーちゃんがスカートの裾をちょんちょんと引っ張った。



「モモカ〜。高雅に働かされてボクお腹空いたよ。おやつ食べないと死んじゃう〜」


 最年少の魔性の可愛さよ。ついお持ち帰りしたくなってしまうじゃない。

 その奥から高雅さんがこちらを睨んでるのはちょっと怖いけど。


「あら、ドーピーちゃん。えらいのねえ。今日はお姉さんがフルーツゼリーを作ってきたからみんなで食べましょうね」


「わーい! モモカのフルーツゼリー楽しみ〜!」


 ドーピーちゃんが素直に喜んでいる。子供とは純粋だ。高雅さんがギラギラした眼でこちらを睨んでいることを、きっと笑顔の彼は知らない。世の中知らなくていいこともある。


 さてお茶の支度も大方済ませると、白雪姫持参の花柄のレジャーシートを広げ、フルーツゼリーが入ったバスケットを真ん中にみんなで囲んだ。最近は人数が増えてきたから、こうして大勢で囲んでいると、ピクニック気分でなんだかワクワクする。

 最初は大人数に抵抗があった高雅さんも、少し慣れたのかマイペースに本を読んでいることが多い。そして彼に構ってほしい小人達にいつも邪魔されている。

 そんな彼の姿は新鮮で、その光景を微笑ましく見守りながら、自分のことのように嬉しく思っていることは彼に内緒だ。



「モモカが作ったゼリーおいしい〜!」


「ほんまいろんなフルーツが入っとるなあ」


「それによく冷えていますねぇ」


「うま……い……」


「……寝るか食べるかはっきりしろよ」


 お手製のフルーツゼリーも、みんなに好評のようだ。わちゃわちゃしながらこうしてみんなと食べるのもいいものだ。高雅さんの紅茶ともよく合う。


「彼らは上手く騙せたようだね」


 せっかくほのぼのとしたティータイムだったというのに、横からそんな野次が飛ぶ。


「な、なんですか。高雅さん」


「人数が増えたから、手を抜きたくて手っ取り早く冷やし固めたことが透けて見える」


 心臓を後ろから矢でぶっ刺されたような気分だ。

 バレたか。ちょっと手を抜きたいときだってたまにはあるじゃん。


 膝の上にバッシュフルちゃんを乗せている高雅さんが、また意地の悪いことを言うものだから、たまには仕返しをしたくなる。


「……ちょっと、それ僕の食べかけなんだけど。返しなよ」


「そんなこと言うなら、無理に食べなくていいですよ」


 彼の手から、食べかけのカップを横取りする。じろりと彼の目が、何かを訴えかけてくる。なんだその目は。


「……不味くはないと思うよ」


「おいしいって普通に言えんのかあなたは!?」


 そりゃあなたとの約束だから毎日こんなことやってますけど、白雪姫の稽古でくたくたなんですからね! 少しは労ってくれたっていいじゃん!


 いい加減この人の皮肉に黙ってはいられなくなり、私もあれこれと日頃の鬱憤をぶちまけた。

 言い合いがデットヒートするにつれ、彼の膝の上にいるバッシュフルちゃんがこちらを見上げて困惑している。



「け、けんか……よくないよ……」


 小鹿のようにプルプルと小柄な身体が震えながら、バッシュフルちゃんはその言葉を投げかける。その目が今にも泣き出しそうだ。


「……君のせいだよ」


「ちょっと、丸投げですか。もういいですよ。ごめんね、バッシュフルちゃん」


 バッシュフルちゃんを高雅さんから引き剥がして、宥め役を買って出る。高雅さんはともかく、こんなに心細くする幼い子を見て見ぬふりはできない。しかし潤んだ大きな目が何とも愛らしい。

 ピンクの帽子をよしよししながら、私の分のゼリーも掬って食べさせてあげる。ほんの少し顔を赤くしつつもバッシュフルちゃんがもぐもぐしていたら、それを見ていたドーピーちゃんが横から割り込んでくるのであたふたする。

 その様子をオロオロとドックさんが傍らで見守り、またその隣でハッピーちゃんがサイコパス的な表情で面白可笑しく見ている。

 その一方ではスリーピーちゃんがコクコクしながらもスプーンにゼリーを掬っているが、ゼリーを危うく落としかねない。でもそっちはスニージーちゃんが見てくれているからきっと大丈夫……と、鼻水がどういうわけかスニージーちゃんのゼリーに……。


 ああもうてんやわいやだ。



「……ねぇ、僕のこと、忘れてないかい」


 そんなところに今度は高雅さんの機嫌の悪そうな声がするのだから、何事かと思う。

 彼の目が言わんとしていることが、私のそばにある彼の食べかけのゼリーを見て察しがつく。


「え、あ、ちょうど今言おうかなって思ってたところで……」


「へえ、そうかい。いい度胸だね。何枚に下されるのが本望だい?」


 すっかり放ったらかしにされていたことに腹を立てたらしく、どこから取り出したかわからない刺身包丁が鈍色を放っている。ひいいいっ!

 つい当たり前のように頭を下げてしまったけれど、ちょっとバカな頭でも考えろ。そもそも全面的に高雅さんが悪い!


「こ、高雅さんが悪いんですよ! こんなにがんばってあなたのためにお菓子作ってるのに、全然褒めてくれないじゃないですか! もう高雅さんの分も私が食べちゃいますからね!」


「……ふーん。君にそんなことできるのかな」


「うん?」


 高雅さんの顔が妙に穏やかだ。後先考えず何を口に出してしまったんだっけ。

 今一度自分が言った言葉を反芻する。


「アハハ。間接き――」


「ハッピーちゃんストップううう!」


 寸止めでとどまった。あと少しで何かの間違いが起こるところだった。


「何もたもたしてるの。自分が言ったことの責任くらい果たしなよ」


「ちがっ、さっきのは何かの間違いで……」


「何? よく聞こえないな。モタつくのなら、食べさせてあげようか?」


「ふあ!?」


 真っ赤なトマトみたいに反応した私を、高雅さんがからかうように見ている。意地の悪い顔も文句なしにカッコいい。

 貴重な桐嶋高雅の微笑みは、いつも悪魔のようだ。高みの見物をしているかのような捻くれた性格が滲み出ている。


 そんな相手に、あれをされたくなければ早く自分で食べろと、その目が訴えてくる。どっちのルートも拷問じゃねえか。

 自分がバカなことをこのときは一番後悔した。





 波乱のお茶会がようやく幕を下ろそうとしたけれど、その頃姿を見せない人物が、物陰に隠れてせっせと何やら手を動かしていた。



「そこで何してるの?」


 ――と、少し離れた場所からは、高雅さんの声がしている。

 そこで不意打ちに声をかけられた人物は、肩をびくりと震わせながらその方向に振り返る。


「こ、高雅様!」


 人目を避けた場所で床に座り込んで何をしていたのかと、白雪姫に問いかける。彼がそれをすると拷問に近いけど、それよりも白雪姫の視線が彼より奥の本棚へと向けられる。


「モモカ様……」

 

 こっそりのつもりが、普通にバレてしまった。なんてこった。

 


「いいえ、大したことではありませんわ。休憩の合間に読書でもと、ここの書物を拝見させていただいておりました。そろそろ練習を再開致しましょう」


 白雪姫は、何ともないように言った。

 そしてその後もスタコラサッサと踵を返し、稽古場へと一目散に逃げていく。一冊の本を抱えて。


「覗きか。趣味が悪い」


「ち、違いますよ!」


 白雪姫のよそよそしい態度が引っかかったけど、それより高雅さんの失敬なその言い回しにすかさず反応してしまった。

 結局あの後も小人達とともにいじり倒され、つい勢いで一口くらいは食べてしまった。だから今はちょっと彼と顔を合わせづらい。

 我ながら上手く作れたともしゃもしゃしていたら、高雅さんはつまんなそうに真顔に戻ったけど。


 間接キス、か……。

 いや、意識しなけりゃいいんだ。ちょっとしたおふざけじゃない。別に意識なんかしてないもん。



わちゃわちゃしてるので簡略に小人達のプロフを。


ドック(先生)

黄色帽子の小人。リーダーというより、みんなの保護者兼お世話係という苦労するポジション。白髪で鷲鼻に眼鏡をかけている。


グランピー(おこりんぼ)

赤帽子の小人。 ちょいツンデレです。「べ、別に桃香の作るお菓子が好きとかじゃないんだからな!ぷんぷん!」とか言わせたい。


ハッピー(ごきげん)

黄緑帽子の小人。当初の設定だったくいしんぼキャラの座をドーピーに持っていかれ、空気のような能天気キャラとなった。ちょいサイコパス。


スリーピー(ねぼすけ)

緑帽子の小人。大体寝てる。小人の誰かに足蹴りを食らわない日はずっと寝ていることもある。


バッシュフル(てれすけ)

ピンク帽子の小人。いつも誰かの背中の後ろに隠れている。控えめな性格で、何かと気にかけてくれる高雅に懐いてる。高雅の膝の上がお気に入り。


スニージー(くしゃみ)

青帽子の小人。いつもパワフルなくしゃみをしている。主にスリーピーがその被害を被っている。何故か関西弁。こう見えて面倒見がいい。


ドーピー(おとぼけ)

紫帽子の小人。最年少。素直で甘えんぼ。ハッピーやスニージーを差し置いてダントツのトラブルメーカー。

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