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秘密を語ろう


 そんな難しい表情を見せるものだから、こちらも聞き漏らさないように少し構えてしまう。


 いつか彼は包み隠さず話すと言ってくれた。

 自分の門外不出の秘密トップシークレットを……それがこの瞬間のことなのかもしれない。



「君はこの能力を僕が自由自在に操っていると思うかもしれないけど、そんな融通が利くものでもない。不便もあるし、ある程度の条件やリミッターは存在するようだ」


 高雅さん曰く、その不思議な能力については不完全なものらしい。彼自身も多くは把握していない部分がほとんどだと言う。

 そして今から話すことは、すべて彼の経験談から明かされたこの能力の()()()()だと前置きした。


「まず、そうだね……発動の条件だけど、君も知っているように僕がこの本にキスをすることで、現実世界にまるで実在するような現象や物を引き出すことができる。一種の召喚術と考えればいいんじゃないかな」


 そう言いながら、その手にあるやけに表紙を着飾った本のページをめくり口づけを落とす。

 次の瞬間、ふわりと風がページを揺らし、淡い光とともにそれが飛び出してくる。満月のようにくりくりとした瞳を向ける黒猫は、そのまま彼の肩に飛び乗った。飼い主にすり寄る姿が愛らしい。



「次に召喚するものの条件だけど、対象がはっきりしていることかな」


「対象?」


「こちらの世界に引き寄せたいものの形、イメージ……輪郭がはっきりしていないと、どうやらこちらへは来てくれないらしい。それも紙面に描かれたものに限定される。認識の一致が要なのか……だから基本的には、その輪郭やイメージがはっきりとあるものしか引き出せない」


 ということは、本とは言っても受け取り方が曖昧な文章ではその能力は発動されないとのことらしい。そんな細かいルールがあるなんて驚きだ。


「ちなみに、このこ達はルネサンス期のフランスの画家によって描かれたもので、彼の生涯で描かれた画をこの一冊に収めている。こちらへ召喚されている間は、この通り彼らのシルエットは白塗りされて切り取られたように処理される」


 そして彼に促されて覗いた本のページには、黒猫が描かれていたであろう場所がそこだけ浮いたように白塗りされていた。俄かには信じがたいけど、この目で疑いようもなく鈴の音を鳴らす黒猫と目が合う。

 まあ、この目で何度も見ていることだし、今更この目を疑うなんて野暮なことだ。



「言い忘れてたけど、その対象に当てはまるのは創造物がメインかな。実在する人物やたとえば写真とか、この次元と重複してしまう対象は無効になる」


 たとえば写真に映る猫ちゃんは無効だけど、模写などしてこちらの次元と切り離すことで有効になるらしい。

 そう言われたら同一人物がこの世に二人もいたら混乱してしまうかも。単純にドラえもんとはいかないものだ。



「これの発動には、少なからず能力者のエネルギーを消耗するようでね。実際に極度にフラストレーションがたまっていたり、コンディションが優れないと発動しないことや暴走することがある。あの白八木は、この能力を酷使することで僕の身体に害が及ぶことはないと言っていたけど、違う。この得体のしれない力は、僕の意識と一本の線で繋がっている気がする……」


 その人はいつも淡々と言葉にするけれど、この時の彼の言葉には少し力が込められていた。

 彼の中の負の感情が渦を巻くような、ここではない遠くを見据えて何かを訴えかけているようだ。


 多くを語らない彼の隠された部分は、きっと私には到底計り知れないことだけど、これまで彼が人を遠ざけてきた理由が少しわかるような気がする。初めて彼の秘密を目の当たりにした時だって、まったく彼の存在を恐れなかったわけじゃない。彼の見透かすような目が、たまに怖いと思うこともある。


 だからこの人が見てきた世界に飛び込もうとする勇気は、まだ少し届かない。



「……じゃあ、あんまり無茶をすると高雅さんの身体に影響があるんですか?」


「まあ、初めの頃はこの力が暴走する度に意識をなくしていたけど、耐性がついたのかな。身体も頑丈なのか、この程度じゃ特に害はないよ」


 そんなことをあっけらかんとした態度で見せる。こんな時ばかりは無頓着というか、この人は他人の心配など跳ねのけて生きてきたのだとよくわかる。つまり人の話を聞かない。

 その人の肩に乗っかっている小動物を慌てて拾い上げ、その飼い主の眼前に突き出すのを見て、また呆れたように高雅さんは呟く。


「……何そのポーズ。ギャグ?」


「で、でもきっとまったく影響がないわけじゃないんですよね? 自分の身体をもっと大事にするべきですよ! 猫ちゃん達に会えないのは少し寂しいですけど……」


「……だから、猫一匹くらいなら特に問題はない。それにあのネイティブかぶれのトラブルメーカーが持ち込んだ野暮な件で、どの道僕は奴隷のように働かされるんじゃないのかい」


「うっ……」


 それもそうだ。実際には言っていることと、彼にやらせていることが大きく矛盾している。

 そりゃ高雅さんから胡散臭い目で睨まれても仕方ない。今しがた聞かされた衝撃の内容とはいえ、彼の身体を酷使させるようなことをしていたのはバカでも胸が痛む。


 ……などと一瞬思ったが、よくよく考えてみれば後輩の私に舞台を押しつけて自ら裏方に回ったのは紛れもないこの人だ。同情の余地などなかった。黒猫ちゃんはいい加減小脇を抱えられて宙ぶらりんを何とかしてほしそうに鳴いている。



 ちゃっかり黒猫ちゃんを自分の胸に抱き寄せると、こちらをじと目で見据える彼にひとつ咳をして、話を仕切り直す。


「そ、それで他にまだ何かあるんですか。そのややこしい能力については」


「わかっていることは一通り話したけど、君の方が何か言い足りないような顔をしているように見受けられるけどね」


 まあ、言い足りないことなど常日頃からあるのだけれど、ここで鬱憤など吐いても切りがない。そして返り討ちに遭うのが目に見えている。

 だから、ここでは違う角度から切り返してみることにした。


「あの、ところでひとつ気になっていることがありまして」


「まさかとは思うけど、こんな話をしておいて君まで僕を利用しようなんてクズなことは考えてないよね」


 そんなことを言われたら、気になっていることも聞けないのだが、こんなチャンスも今しかないと思うと、ダメもとで彼にお願いしたくもなる。

 だってこんなに素晴らしい能力があるなら、山羊とかチェーンソーなんかよりもっと大勢の人が喜ぶために使いたいじゃない?



「あ、あの、これは一生のお願いということで、高雅さんにしかきっと頼めないことなんですが……どうかお願いします!!」


 桐嶋高雅という人物を見込んで、頭を深々と下げて頼んでみる。

 私に突き付けられたそれと交互に視線を配りながら、高雅さんには大仰な溜息を吐かれた。



大体の設定は盛り込んだけど今後の展開で補足するやも。

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