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にぎやかな図書室

また大量発生。


 放課後になり再び図書室にやって来れば、ギャラリーが増えていた。



「あっ! 来たよ! ボクたちの白雪姫!」


「へー、どうでもいい」


「ホンマやぶえっくしゅんッ!!」


「んー……?」


「可愛い女の子だねー」


「……」


「こらこら、みんなバラバラに言っては挨拶ができないでしょう」


「…………あはは」


 いつもと少し違う光景を目の当たりにして、なんて反応すればいいかわからなかった。

 さすがの私でも、扉を開けたら部屋に二頭身の小人達がわらわらといたらびっくりして言葉が出ない。

 授業中はずっと寝てしまっていたから、まだ寝ぼけてるのかな。


「何そこでぼんやり突っ立ってるの? さっさと入りなよ」


「高雅さん」


 白雪姫の本を片手に、高雅さんが訝しげな視線を向ける。その冷たい視線を見ていると、さっきの栗谷先生との会話コイバナを思い出して思わず顔を逸らしてしまった。

 今のはちょっとあからさますぎたよね。変に思われてないといいけど……。


 

「やっと来たか、桃香。これで全員揃ったな」

 

 足音を聞きつけて、本棚の奥から白馬先生が顔を出す。彼のその手にも何冊かの本がある。

 白馬先生も意外と本を読むんだと感心していたら、コソコソと高雅さんに近づいて何やら耳打ちしている。


「な、なぁ、高雅。この本ちょっと借りていいか?」


「……ふーん、まぁいいよ」

 

 ちょっとしか見えなかったけど、本のタイトルは愛なんちゃらと書かれている。高雅さんは一応頷いたけど、絶対楽しんでいる。

 そんな彼の腹黒いものも露知らず、白馬先生は借りられた本をカウンターにいそいそと持っていく。その足取りは軽快だ。

 きっと少女漫画から恋愛を学ぶほど的外れなことだとは思うけど、そっとしておいた。



 

「殺す……殺してやるわ。白雪姫あなたなんていらない……この世で一番美しいのはこの私よおおおおおお!!」


 スッと気配を感じて、次の瞬間には死人のように冷たい手が私の首元にあてがわれる。

 そりゃあもう飛び跳ねた。盛大に。そしてとりあえず近くにいた高雅さんの腰に屈んでしがみつく。


「そうはさせるか! これでも食らえぇッ!!」


「ぎゃあああああああああ!!」


 いきなり黒装束の女の人と屈強な身体の男の人が出てきたかと思えば、猟銃で撃たれた!? 突然のバイオレンス!?


 もうこの世の終わりだと高雅さんの腰回りにしがみつくと、それを呆れた様子の高雅さんが宥めた。


「少し落ち着きなよ。バカでも彼らに見覚えはあるだろう」


 そして鬱陶しそうに私を引き剥がした。

 どさくさに高雅さんの腰に抱き着いたけど、めちゃくちゃウエスト細い。

 出会って間もない小人達にも周りを囲んで慰めてもらう。少し癒されたところで高雅さんのくれたヒントで察しがついた。

 彼らも恐らく小人達のように、高雅さんによってこちらへと誘われた登場人物キャラクターなんだ。

 

 撃たれたはずの女の人の身体がむくっと起き上がる。顔に垂れた黒く長い髪が、日本で定番の女幽霊のようですごく怖かった。また彼の腰に泣きつくかと思ったが堪えた。

 魔女にも見えなくない風貌の彼女は、確か白雪姫を恨んでいた継母の……あと、その隣の男の人は猟銃持っているし白雪姫を助けた猟師のおじさん……だったかな?


 記憶をたどりながら、振り乱した髪を整えるその義母に気軽に挨拶をされてしまう。

 

「どうも、白雪姫。やっと会えて光栄だわ。私は劇中であなたに毒林檎を差し出す意地悪な継母よ。どうぞよろしく」


「俺はその継母の目を盗んで、白雪姫のピンチを颯爽と救う紳士な狩人だ。お手柔らかに頼むぞ」


 二人とも物語の中で見るより気さくな雰囲気だ。バカだからこの状況にすぐに対応することができなくて、ぼーっと彼らの顔を見ていた。


「そうそう、余興にと思ってね、せっかく会うなら猟師とホラーティックな演出をしてみたのよ。そこの高雅さんからあなたがオカルト好きだと聞いてねえ。喜んでいただけたかしら?」

 

 ……今、聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。

 隣にいるその人をじと目で見上げる。私の視線に気づかないわけがない。


「僕は()()()()()()()()()()()()()()()()と彼らに言ったまでだ」


「それだよ!!」


 結局お前じゃねえか! ふざけんな! ちょっとウエスト細いからって調子に乗るなよ!

 わけのわからない愚痴を漏らしながら、高雅さんに詰め寄ろうとしたけど彼からは欠伸が返ってくるだけだった。

 そんな彼と怒り心頭の私との間に、お花畑から帰ってきた白馬先生が何事かとすかさず間に入る。


「まあまあ、落ち着けって桃香。そういえばまだお互いに自己紹介もしてなかっただろ? ここは一旦堪えて、まずは本の奴らと互いについて語り合おうぜ、なっ?」


 もう高雅さんとしばらく口を聞かないと固く心に誓って、少し彼との距離を置く。



「ハイハイ! じゃあじゃあ、ボクからっ! ボクはドーピー!」


「ウチはスニージーや。何卒よろしゅうなっへっくしゅん!」


「ふあぁ……スリーピーでーす」


「ハハッ、ハッピーだよー」


「グランピーだ」


「……バッシュフル」


 やいのやいのと自分をアピールする赤や緑やらカラフルな小人達。私の周りを囲んで跳ね回っている。可愛い。その中でも黄色いとんがり帽の小人が前に出てくる。


「初めまして、新しい白雪姫。このような場でのご無礼、彼らの世話係であるドックより深くお詫び申し上げます」


「は、はあ……」


 彼らのまとめ役(リーダー)であるドックさんが、眼鏡をズラす勢いで頭を床に擦りつけているので、こちらもつい深々と頭を下げてしまう。なんか苦労が多そうだ。


「次は桃香の番だぜ」


「えっ? 藤澤桃香です……?」


「何故に疑問系?」


 あ、そうか。自己紹介する流れだったのか。キャラの濃い小人達に気後れしてしまった。会ったばかりの赤い小人にまで突っ込まれるし。

 しかしそこは白馬先生が持ち前の明るさでこの場を取り仕切ってくれる。


「よしっ。桃香の次は高雅――つっても、自己紹介なんて自分からするような奴じゃねえか。代わりに俺から紹介すると、本からメインのキャラクターたちを出す主に裏方担当の桐嶋高雅だ」


「勝手にあなたの滑舌悪い日本語で紹介しないでくれる? 態々しなくても、彼らは知っている」


「そうかよ。じゃあ最後に監督及びナレーションを担当する白馬蜜弥だ。全員よろしく頼む」


 こちらは仲がいいのか悪いのかという反応だ。白馬先生が高雅さんの肩を腕で掴んで引き寄せたかと思えば、高雅さんが引き剥がして火花をバチバチと散らす。

 こんな感じで大丈夫だろうかと彼らを前に不安の色は濃厚になる。今のところ白雪姫というより保育園みたいだ。


「まだだよ」


 本のページを捲り、高雅さんがキスを落とす。

 たちまち本からは淡い光が差し込んで、やがて光は人のシルエットを浮かび出す。



「ご機嫌麗しゅうございます。皆さん」


 黒髪に青いドレスに身を包んだその女の人が、ぺこりと膝を折る。この場にいる高雅さん以外のみんなが、その人の登場に呆気に取られている。


「まあ! あなたがお噂の白雪姫ね! 初めまして、白雪姫と申します」


 白雪姫から白雪姫と言われることがあるだろうか。こんなに可愛い本物の白雪姫を前に堂々と白雪姫を名乗れる器なんかない。

 そんな物語からリアルに飛び出した白雪姫にサインを求められる勢いで迫られ、その美しさに圧倒される。


「君、少し落ち着きなよ。彼女が引いてる」


「あらっ、私ったらいけない」


 暴走する白雪姫を私から引き剥がすように高雅さんが制する。さっきのことがあったばかりなのに、高雅さんに助けられてしまった。


「何拗ねてるの?」


 結局お礼を言い損ねて、高雅さんの顔をじっと見ているのも気まずくてぷいっと逸らしたら、目敏く指摘されてしまった。

 あと別にこれは拗ねてなんかいない。あなたのせいで機嫌が悪いだけだ。子供じゃあるまいし。

 

「高雅様、女の子には優しく接してあげませんと。愛想を尽かされてしまいますわ」


「そうだぞ、高雅。素直にならねえと桃香でも焼いちゃうんだぜ」


 白雪姫と白馬先生はそう言って高雅さんにちょっかいをかけている。ちょっと高雅さんも黙ってないで何とか言ってくださいよ。あらぬ誤解を招くじゃないですか。


 それにしてもこんなに可愛い白雪姫本人がいるならば、私はお役御免ではないか。できることならそうしてほしい。

 でもあれ、委員会の代表一人は舞台に上げなきゃいけないんだっけ? じゃあどうして態々白雪姫をこちらに呼んだんだ?


「それは無論君の演技指導のためだよ」


「なるほど〜! コーチがいれば確かに心強いですねえ……って、また人の心を読まないでください!」


「顔にそう書いてあったから」


「んなわけありますか!」

 

 乙女の心を読むなんて心外だ。いや侵害だ。

 そんな冗談は今は置いといて、本の中の人物とは一変してパワフルな白雪姫が、何やらやる気を漲らせてこちらに迫り来ようとしている。全力で逃げたい。

 

「事情はわかりました。では早速、私が演技の指導を――」


 こちらに躙り寄る白雪姫の気迫にこちらはじりじりと後退りで退行するが、そのとき彼女の肩を後ろから高雅さんが抑える。


「もう少し待ってね。まずは僕からの指導だよ」


「「はい?」」


 そこでまさか白雪姫と二人でハモるとは思わなかった。それよりも白雪姫も彼の意図することを知らないなんて、嫌な予感しかしない。


「君は彼女の演技指導担当。そして彼女ににわかな台本の台詞を覚えさせるのは、彼女の特別講師である僕の役目だよ」


 どこから持ち出したのかハリセンを手に慣らし、迫りくる脅威のランクが格段に跳ね上がった。こういう時の彼の表情はいきいきとしている。


 

「グランプリまであまり時間もねえから早急に台本は覚えてくれ。ちなみにグランプリは二週間後だ」


「……あなたはまた情報伝達に欠けている」

 

 また急な話を持ち出されて絶望感に打ちひしがれる。二週間しかないのにこんなバカが主役で舞台が完成するのだろうか。

 

「でもまあ、心配はいらないよ。あの老いぼれから頼まれた役目は果たすつもりだから。

 ……今日中に、その腐った頭に一言一句漏らさず叩き込む」

 

 心配は杞憂のようだ。彼はやると言ったら本気でやる人だ。相手に構わずどんな手段に出ても確実に目的を成し遂げる。

 絶望感の打ちひしがれる猶予もなく、私の寿命は今日も縮まる。



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