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その11 僕は嫌な奴

「ねえ見た!? 見てたでしょ!? 私に壁ドンされてたときの優くんの顔!」


まあ……見てたけども。


「普段は『よう! 奏音!』なんてスナック感覚で密着してくるくせにさ、女子の格好して壁ドンしてやったら顔赤くしてやんの!」


いや、スナック感覚ではないだろうけども。

それにしても酷い言い草だ。

暮内くんが気の毒すぎる。


「パンツ丸出しで美人に壁ドンされたら、僕だってきっと赤面するぞ」

「試して……みる?」

「誰がやるかい」


正直、含みのある言い方に少しドキッとしてしまった。


「で、どうだった? 明日からスカートはけそう?」

「さ、さすがにそれは……結局誰からも気づかれなかったし」

「そうか。でも、自信はついただろ?」

「うん、ちょっとね」


ちょっとの自信で壁ドンできたのかよ。

もっと自信がついたらなにしでかすかわからないな。


「ところでさ、一直線に暮内くんのところに行ったけど、最初から決めてたのか?」

「ううん、途中で思いついたの。皆の反応が良さげだったから。早くしないと優くん部活に行っちゃうから、急いで向かったんだ」

「で、なんで壁ドンだったんだ?」

「それは……自分意外が壁ドンされてるとこ、見てみたくて……ほら、それに優くんにはいつか反撃してやろうと思ってたから、いい機会だなって」


そんな理由で暮内くんはパンツ丸出し公開壁ドンされたのか……。


「照れてたっぽいけど、普段から暮内くんは面食いってわけでもないよなあ?」

「そうなのよ! いつも私が嫌なことされてる気持ちがわかったか! って言ってやりたかったわ」

「それって別に、『触るのやめて』って普通に言えばいいんじゃ……」

「昔はね、別に触られるのも嫌じゃなかったのよ……まあ、子供だったし。でも、言えないでいるうちに高校生になっちゃって、余計に言いづらくなって……」


奏音は暮内くんに人前でベタベタされるのは嫌だけど、関係は壊したくないのだろう。

仮に暮内くんが奏音を一人の女性として意識した場合、つられて奏音も暮内くんのことを色々意識しだすかもしれないな。


奏音がスカートをはくようになれば、全てが一気に解決しそうな気がしてきた。

そうなれば、きっと僕と奏音の関係は終了だ。

今はこうして、ほぼ毎日放課後に顔を合わせているけれど、クラスも違う奏音とはもう接点がなくなる。


「はは……」


つい、乾いた笑いがこぼれてしまった。


「どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」


奏音と接点がなくなってしまうのは、少し――いや、はっきりと「寂しい」と思ってしまった。

結局は「奏音にスカートをはいて欲しい」なんて気持ちは建前で、自分自信が奏音と一緒にいられるのが楽しいから関わっていただけなんだ。


奏音のことが本当に面倒だと思ったのなら、いくらでも無関心を貫くことができたはずなんだ。

なのに、僕はそれをしなかった。

ということは、そういうことなのだ。


「ね、ねえ……大丈夫?」

「ああ、ごめんごめん。奏音と一緒にいると、本当に楽しいなと思ってさ」

「なっ!? え? そんな、急に正面からそんなこと言われると照れる……」


照れているのは可愛いのだが、ウイッグの後ろ髪を前に持ってきて顔を隠すのはやめてくれ、怖い。

井戸とかテレビから出てきそうだ。


「キミといると楽しい」なんて、本人に正面きって言えたのは、もう半ば投げやりになっているからかもしれない。


奏音にはどう思われてもいい。

ただ、思ったことは伝えておこう、と。


「今まで、学校でこんなに人と関わることって、あんまりなかったからさ」


奏音以外に交流があるのは通信技術愛好会の二人と、乙華先生くらいだろうか。

ただ、僕はそれで十分だ。

対して、奏音は「本当はスカートがはきたい」と思っている。


そして今日、スカート姿で校内を歩き回って、大きな一歩を踏み出した。

奏音はどこか抜けていて放っておけないところはある。

けれど、猛勉強して北坂高校に入ったように、これと決めたら目標に向かって一生懸命頑張れる素直さもある。


“変われる”力を持っている。


そう、その変わりゆく様を特等席で見ていられるのが、楽しくて仕方ないんだ。

僕は主演女優と偶然つながりができて、たまたま関係者席で舞台を見ることができているだけ。

公演が終われば、奏音との関係もおしまい。


「着替えるでしょ? じゃあ、今日はこれで」

「あ……うん。またね」


帰り道、自転車に乗りながら思ってしまった。


奏音はあんなに楽しそうにしてたのに、ありがとうって言われなかったな。


僕は嫌な奴だ。

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