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その1 プロローグ

男、東出栄介ひがしで えいすけ

僕は今、女子の着替えを覗いているが、断じてイヤラシイ気持ちはないと誓える。

着替えている女子がデブドブスだから? そんなことはない。

第一、そんなものを見たら目が爆散する。

今もなお白い肌を露わにして着替えている女の子は、むしろ校内の人気者だ。

僕も可愛いと思っている。


右目のまぶたから頬にかけて大きな傷があって、多少背が高いだけで「大魔王」とか「諸悪の根源」とか言われる僕でも、この状況でイヤラシイ気持ちがないのは、健全な高校2年生として自分でもどうかと思う。


だが、待ってほしい。

今僕は校舎の4階、専門教室やら空き教室が並ぶ一角の廊下に居る。

もちろん覗き目的で来たわけではない。

今、ここからよく見える人気ひとけのない1階の教室で着替えをしている女子と、昼休み中に顔を合わせないために、僕はここに来たんだ。

そして、その子は普通の女子とはちょっと違う。


名前は菫屋奏音すみれや かなと

ウチの学校には女子向けにもスラックスの制服が用意されているが、それは彼女のためにあるとすら言われている。

(実際にはもっと昔からあったが、着用する女子がいなかっただけらしい)

校内で唯一スラックスを着用する女子。

気さくな性格と耽美な容姿に男女問わず人気がある。

休み時間は何人かの女子を従えて移動する。通称・菫屋ハーレムだ。

一人称は「オレ」。


某歌劇団の男役ってこんな風なんだろうなーと、僕は遠目に見ているだけだったんだ。

それがある日、急に絡んでくるようになった。

不良だと思われているんだろう。顔を近づけ、顎をしゃくってガンのくれあいとばしあい……いや、僕はただ困ってるだけなんだ。


だってそうでしょ?

どんなに男っぽくてもスラックスはいてても、菫屋は女の子よ? 女子高生よ?

髪はショートだけどそんなに接近したらちょっといい匂いするよね。

菫屋ハーレムの面々は僕を見て「こわぁーい」なんて言ってるけど、怖いのはこっちだから。

「これ、どんな状況?」って。


……で、そんな菫屋が今、着替えている。

()()()()()


おわかりいただけただろうか。(オカルト番組風に)

僕がイヤラシイ気持ちそっちのけで「なんで!?」となっている理由を。

あのスラックス女子の菫屋が、なにやら人目を忍んでスカートをはいて、何かやっているのだ。


あッ! 見てください! 今、菫屋選手が黒タイツにメガネ……ロングヘアーのウイッグまで着用しました! これは周到だッ!

おぉっと! 何やら壁にもたれかかった! 細かい表情までは読み取れませんが……うっとりだ! 肩を壁につけ、あの菫屋奏音がうっとり! うっとりしているッ! うっとりしていってねーーーッ!


……そりゃ僕も急に実況口調になるよね。びっくりだよ。

一体、菫屋はあそこで何をしているんだ。幸い、ここは昼休みでもほとんど人通りはないけど、あんなところで着替えるなんて、あまりにも不用心だろ。

そういうことも気にしないくらい男らしい性格、ということなのかもしれないが。

だとしたらなぜスカートを?

謎は深まるばかりだ。


そうこうしていると、午後の授業前の予鈴が鳴った。

どうやら菫屋も目的は達成されたらしく、スカートから着替え始めた。

そこで始めてカーテンが開けっ放しだったことに気がついたらしい。

着替えの途中、脱いだ制服で胸元を隠し、慌ててカーテンを引こうとする菫屋と……目が合ってしまった。


多分、目が合ったのは1秒にも満たないわずかな時間だったと思う。

僕は何事もなかったように目を逸らし、とんでもない棒読みスティックリーディングで「さーて、午後の授業はー?」と、次回予告のようなトーンで独り言を言いながら自分の教室に歩き出した。


もちろん背中には滝のように変な汗をかいているし、メタルバンドのバスドラムかと思うくらいに心臓がドコドコ鳴っていた。

その日、教室では「大魔王が昼休み中に世界を一つ滅ぼしてきた」という噂がたったそうな。

そのときの僕は、かなりヤバい顔をしていたらしい。

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