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戦う意味(3)

 アームドスキンの指はグリップセンサーに連動している。なので、その気になれば人間と変わらない動作をさせるのは容易だ。

 実際に30cm四方の梱包を摘み上げて手の平の上に並べて、置き場所へと配分していく。そんなこともできてしまう。

 ゆえに構造は大きく変えずにメンテナンス性だけを上げたアームドスキンが建設機械として当たり前に使用されている。汎用性の高さが人間社会に大きく作用し、欠かざるべきものへと変わってしまっていた。


「あら、ユーゴ。まだ帰っていなかったの?」

 横合いからペリーヌに問い掛けられた。

「うん、エヴァーグリーンに帰ろうとしたらちょうど搬入が始まったから手伝ってた」

「そんなことしなくていいのに」

「俺もそう言ったんだがよー、坊主がやるって聞かなくてな」

 エックネン整備班長は言っているがユーゴが手伝っているのを喜んでくれている。その笑顔が見たかっただけだ。

「協定機に作業を手伝わせるなんて班長くらいのものですよ?」

「いいだろ? 戦艦の連中に自慢できるぜ。早く終わるしな」

「もう終わっちゃうよー」


 気紛れにレクスチーヌにやってくる彼をクルーは歓迎してくれる。今日も突然来ただけなのに、艦長フォリナン以下、マルチナやリムニーなどの艦橋(ブリッジ)要員と昼食会みたいな形になり、おしゃべりをしていたのだ。

 その後に帰ると告げて格納庫(ハンガー)に戻ると搬入作業が始まったのでリヴェリオンで運搬を手伝うことにした。


「しかし、どこに隠れやがったんだ、連中は?」

 ザナストの戦力の行方は判明していない。

『図面上では相応の大きさの宇宙要塞であったが、島宇宙の中に浮かべれば極めて小さいものだ。発見するのは容易ではなかろう』

「ボッホ艦長も調査中としか聞いてないっておっしゃってらしたわ。この規模の艦隊で探し回るよりは、調査艇を出したほうが効率的ですもん」

「リヴェルでも見つけられないんだ」

 それだけ難しいと言いたいだけでも、彼には少し不満らしい。

『これほどにターナ分子が濃くては敵わぬ。際限なく使ったものだな』

「大戦当時は派手にドンパチしてたからな。申し訳ない」


 ゴートの公転軌道より内側は、他の惑星の重力圏に捉われたり、恒星ウォノの重力に引かれたり逆に恒星風で吹き上げられたりと、拡散したターナ(ミスト)が舞い続けている。そこへ大量のデブリまで加われば、どれだけ出力をあげようが広範囲レーダー走査など受け付けない。


『これでは、この銀河の観測も進んでいないのではないか?』

 リヴェルはユーゴの頭の上で腕組みしている。

「はい、電波観測はもう長期にわたってほとんど行われていません。光学観測では限界がありますし」

「資源採取船が外宇宙近くまで行った時に取ってきたデータを分析している程度だよな」

「ええ、そもそもあまり興味が抱かれていない分野だと思いますので」

 彼は顔の前にまで降りてきて首をひねる。

『なぜだね? 人類は更に活動範囲を広げることに野心はないというのか?』

「だって私たちは自由に超光速航行をする技術を持っていません。探索できる範囲はジャンプグリッドで繋がっている星系に限られてしまうんですよ」

『むう……。良かれと思ったものが、汝らには枷になっておるか』


 そのジャンプグリッド探索も行き詰まりを見せて久しい。それこそ新たな超光速航行技術が開発されない限りは、もう人類圏は拡大しないといわれている。

 もっとも現に発見されている星系でも、未だ未開拓のものが多数存在する。現在開拓を進められている惑星や、これから開拓しようという惑星を含めれば、人類はまだまだ増加に余力があるとも考えられていた。


「良かれって、やっぱりジャンプグリッドはゼムナ文明の人たちが作っておいてくれたものなんだね?」

 言動からユーゴは察した。

『その通りだ。エネルギー効率の良い通路として設置した』

「便利なものをありがとう」

 素直に感謝を伝える。

「ずっと訊きたかったんだけど訊いていい?」

『何をだ?』

「これだけ高度な文明を築いたゼムナの人はどこに行っちゃったの?」

 訊いていいものか迷っていた疑問をこの機会にぶつけてみる。

『創造主は、滅んだ。好戦的なラギータ種との不幸な邂逅が戦争へと発展し、激化した挙句に互いの寄る辺とする惑星を破壊し、共倒れとなったのだ。もう八千年以上前のことになる』

「おお、俺たちの祖先がまだ言語らしい言語も持っていなかった頃の話か……」


 リヴェルの表情は読めない。彼の身の内に感傷が渦巻いているのかなどユーゴには想像もできなかった。


『汝がゼムナ環礁と呼んでいるのが創造主の故郷である』

 事実が告げられる。

「あの研究結果は正解だったのですね?」

「うん、定説だよね」

『間違えようのないくらいに痕跡が残っていようからな。それ以来、我らは主を求めてやまなかった。そう造られた知性であるのを痛感した。我らにとって寄る辺は惑星(ほし)でなく人なのだ』

 リヴェルは吐露する。

『人なくば存在価値を示せない。従属物なのだろう』

「ううん、リヴェルは友達だよ」

 伝えたい思いを真摯な視線で表す。

「八千年に比べたら一緒にいられる時間は遥かに短いだろうけど、僕にとってはそれが全部の時間なんだ。少しは寂しさを紛らわせるかな?」

『汝との思い出は我にとって大切なものになろう。それだけは確実だ』

「良かった」


 彼との絆をどれだけ大事に思っているか伝えられてユーゴは喜びを感じていた。

次回 (えー、まだ暇なんだ……)

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