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ジレルドット攻略戦(1)

 ザナスト討伐艦隊は、敵本拠地である巨大地下施設ジレルドットの特定位置へと向けて移動中である。旗艦エバーグリーンを中心に、逃亡を許さないよう目的地を曖昧にする軌道をとりつつの接近を試みていた。


 判明したジレルドットは試験移住地チムロ・フェンの北800kmの場所であり、度重なる牽制攻撃や資源採掘はこの本拠地の存在を示していたのだと判明した。レクスチーヌの副艦長マルチナの危惧は的を射ていたのだ。


 今後はチムロ・フェンの常駐艦を始めとした基地戦力も加え、攻略を進める計画になっている。そのために今はゴート本星の静止軌道から特定位置の最終確認を行っている最中。それが終わり次第、まずはチムロ・フェンへと直接降下する。


「ユーゴの遺伝子データも必要だって言ってきているの」

 彼を自室に招いてラティーナは告げる。

「フィメイラさんの遺伝子を分析しているんだけど、普通の人との相違点だけを調べるだけじゃ分からないんだって。だから、ユーゴの遺伝子との相似点を調べれば、主にどこに改変が加えられているのか分かるみたい」

「事態究明に必要な手順なんだよね?」


 改変点の究明が必要なのではない。レイオットを中心とした調査部が破壊神(ナーザルク)タイプのパイロットを欲しているのではないのだ。

 ただ闇雲に遺伝子研究者を探るよりは、改変点部分を研究テーマにしている人間をピックアップしたほうが真相に近付けると考えている。御者神(ハザルク)メンバーをあぶり出すための近道として少年の遺伝子を必要としているという話だ。


『運動能力を司る遺伝子は多岐に及ぶぞ。一概にここという部位があるわけではない』


 チルチルは物珍しげにラティーナの部屋を眺めまわしているが、リヴェルは会話に加わってくる。ユーゴのσ(シグマ)・ルーンから聞こえる言動に、彼の口元までが連動しているのをラティーナは面白いと感じる。


「人類は遺伝子情報の全てを解析できているのではないのです。おっしゃられたように運動や反射を司る情報が書き込まれている部分が全体に及んでいると理解はできても、全体をデザインしようとすればフィメイラさんのような失敗をしてしまうのですから」

『改変点を重点テーマにしている人物を割り出そうとしているのだな?』

 人類を超越した知性だけあって理解も早い。

「危機感を覚えているのです。少しでも早くこの馬鹿げた研究をやめさせないと、最悪ガルドワは社会的な信用をすべて失ってしまうような気がして」

『懸念は分からなくもない』

「決して協定者である彼の能力を解明しようとしているのではないと理解ください」


 疑念を抱かれては困るのだ。リヴェルの存在は、現在の事態にこの上ない助力となる。絶対に見放されるようなことになってはいけない。


『案ずるな。新しき子(ネオス)の能力は我らにとっても未知数』

 意外な言葉に驚く。

『我らの創造主に近いこの能力、現人類に定着するような潜在能力なのかも測れていない。解明できるとは思えぬ』

「そうでしたか」

「理由は分かったんだけど……」

 今度はユーゴが首を傾げている。

「僕の遺伝子の採取をわざわざラーナがしなくてもいいんじゃないかな?」


 自分に突き出されようとしている採血キットを見つめながら少年が尋ねる。それは注射器でなく、ペンの形状をした微細針採血器具とはいえ、医療行為に類するものに思えたのだろう。


「いい? 君の遺伝子情報はもう最高機密レベルなの。万が一にも外に漏らすわけにはいかないから、関わる人間は最小限にしないといけないわけ」

 本人に自覚は無いのだろう。

「そんなものなのかなぁ」

「そうなの。さすがに輸送艇のフィメイラさんのご遺体とかには手を出せなかったみたいだけど、ツーラに送信したデータ類には何度もアタックした痕跡が確認されたわ。隠蔽したい内容が多いんじゃないかしら?」

 そう言いつつ器具をユーゴの腕に押し当てる。

「だからこれも私が直接発送することになってるの。はい、あーん」

「あーん」


 キットの中には口腔粘膜採取器具も入っていた。その採取棒を彼の口の中にいれ、覗き込みながらこすり取る。


「どうして赤くなってるの?」

 ラティーナはすぐに気付く。

「だって顔近いんだもん」

「別にキスしようとかそんなのじゃないでしょ?」

 いたずらっぽく返す。

「ユーゴの年頃なら興味津々でも仕方ないけど」

「…………」

『経験済みであろう? フィメイラとは口付けていたではないか』

 リヴェルによって爆弾が放り込まれた。

「あっ!」

「へっ!?」

「…………」

「へー……」

 ラティーナの半目がユーゴを透かし見る。

「君ってそうなんだー。知り合ったばかりの女性とでもキスできちゃうんだー。ふーん、知らなかったー」

「ち、違うよ! あれはお願いされたから!」

 そうは言ったが、少年は思い直したようだ。

「ううん、たぶん好きだった。フィメイラがすごく大切に思えたからしたんだ」


 彼女との接触ということは、もう死を自覚してからになる。彼は誠実に向き合った結果、フィメイラの望みに応えたのだろう。


「その時のこと、思い出したの?」

 こくんと頷く。

「わたしともキスしたい?」

「いいの?」

 途端に少年が男の顔になり、ラティーナは驚いた。

「駄目。フィメイラさんと比べられるのは嫌」

「そんなんじゃないよ」

「また……、ね」

 意図的に期待を持たせる。


(今度こそ私がこの子を繋ぎとめる枷になる。そのためにはぐだぐだな関係は駄目)

 心も身体も何でも使うと誓った。彼女の想いにも沿うので罪悪感も無い。


「ところでジレルドット攻略なんだけど、ユーゴはどう……?」

「お願いがあるんだ。僕一人の判断では済まないような」


 ラティーナは少年の提案に耳を傾けた。

次回 (愚かしいものだ)

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