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協定者(9)

 いまだかつてないほど顔を歪ませているユーゴ。彼のそんな様子を見るのはラティーナも初めてだ。


(あー、このメカフェチに自機を任せるとか正気じゃないとか思われているんでしょうねぇ)

 彼女の感想は正鵠を得ている。


 リヴェルも理解不能だといわんばかりの視線を送ってきていた。思わぬ窮地に汗が噴き出し、スキンスーツが冷却の唸りをあげる。


「うーんと……、リヴェリオンも担当してもらおうかと思っていたん……」

「嫌だ!」

 食い気味に拒否された。

「班長に見てもらうからいい」

「でも、ほら。エックネン班長も忙しいし、リヴェリオンをひと通り見たのに解らない所だらけだっておっしゃっていたでしょう?」

「それでも嫌だ」


(完全に引いちゃってる。これは困ったわね)


「そんな殺生な! 僕はプリンセスにあの戦闘映像を見させていただいてから、この時を心待ちにしていたというのに!」

 余計に傷を深めていると分からないらしい。

「重たいし……」

「黙ってなさい、ヴィーン。……あのね。技量で言えば彼が適任なの」

『技量はさほど意味を為さない。どうせ我が指南せねば整備など不可能』

 判断を覆す一言までもが投下される。

「そうなのですね。諦めなさい、ヴィニストリ・モリソン一金宙士」


 整備士で金線標章を授かるのはそれだけの評価を得ているのを意味するのだが、いかんせん性癖に難がある。純真な少年には刺激が強いかもしれない。


「この人はー?」

 隅で小さくなっている女性整備士を指す。

「リズ? 彼女はリズルカ・アリステッド。ヴィーンの見習いだけど。……そうね。そろそろ独り立ちしてもいい頃だって聞いてる」

「じゃあ、お姉さんでいい」

「でも、いきなりゼムナの遺志の機体とか荷が重いかも?」

 本人も頬に手をもっていって驚愕の表情。

「そうだよ! やはりここは僕がより美しく仕上げるしかなーい!」

「機体に頬擦りされるの気持ち悪い」

「あなたは接近禁止」


 怒ったチルチルに体当たりの振りをされ逃げ惑う金髪男。自分で落とし穴に落ちに行くのだから処置無しである。


『特に卓越した技能は不要。余計な知識が無いほうが良いかもしれん』

「基本はできているはずだけど、いきなり触れるには特殊過ぎませんか?」

 リヴェルも賛同し、ラティーナも思案する。

「そうです! あたしには無理です!」

『アームドスキンはヒュノスをベースに作り上げているのだ。リヴェリオンは基本の塊である。目新しい技術も用いているが、それは一部でしかない』

「それでも無理かな?」

 少年の困り眉が炸裂する。

「あうっ!」

「頑張ってみなさい。独り立ちには良い課題になりそうだし」

「……はぁ」

 不承不承という感じでも首を縦に振るリズルカ。

「僕の芸術品がー!」

「エド!」


 速やかに拘束される。性懲りも無いとはこのことだろう。


「ヴィーン、あなたは教育係としてしっかりと指導しなさい。リヴェルが許可した時だけはリヴェリオンに触れてもいいから」

「……了解です、プリンセス」

 承服しかねるも希望を見せられ同意した。


(整備一つでこんなに苦労させられるの? 協定者っていうのは扱いに気を遣うものなのね)

 今後の気苦労が思いやられる。


 それでもユーゴが傍らに居れば彼女の心が安らぐのに違いはない。


   ◇      ◇      ◇


「アル・ゼノン、調整いいのか?」

 スチュアートもつい大声を張り上げてしまう。

「行けます! どうぞ!」

「出撃してから確認しろってのかよ!」

 忙しそうに駆け回る担当SEに吠え返した。


(それでも実戦形式の慣熟訓練ができるのはありがたい話だな)

 そんな意識が働いてから彼はハッと気付く。


 フォア・アンジェとして活動中ならともかく、この規模の艦隊で奇襲を受けるのは考えにくい。哨戒ついでに慣熟をやる機会は十分に作れるはず。


(慣れた機体のようにピタリとは填まらないだろうけどそれなりには戦える)

 感触を確認しつつ計算する。

(どうせ勝っても負けてもいい演習だ。どっちでも収穫がある。もしかしたら負けたほうが今後の関係性が良くなるくらいと思えるしな)

 実力のほどを十分に見せてから花を持たせるくらいがちょうどいいと思っている。隊員たちにしてみれば見返してやるという意識が強いかもしれないが、勝ってしまうと反発のほうが大きいだろうと感じるのだ。


「演習用ビームカノン、これでいいのか?」

 ラックにずらりと並ぶ銃器型カノンに腕を伸ばす。

「いいぞー! 全部俺が見た!」

「ありがとうございます、班長!」

「これ、使うの?」

 金色をあしらわれた紺色ベースの自機アル・ゼノンの腕とは別に、白い腕がラックへと伸びている。

「ああ、ユーゴ。初めてだろうが、これが演習用のカノンだぞ」

「はい」

 何とか少年は自陣営に組み込んだ。これでいい勝負ができるはずだと考える。


 そのビームカノンはいつもの実戦用のものよりは小型だ。耐久性や冷却機構の簡素化で二回りくらい小さくできている。

 発射されるのは俗にロウワービームと呼ばれている弱体化されているビームである。実戦用のように重金属が素材ではなく、ヘリウムを軽イオンビームとして射出する。エネルギー量はそこそこなので黄色く発光するが直撃しても装甲にダメージを与えるほどではない。ビームコートが溶けるくらいの力しかないのだ。


 ブレードの代わりに使うのも同様にヘリウムジェット。還流磁場の出力を上げて干渉力を強めることで斬り結ぶのも可能になっている。


 それらの専用武器を初めて目にするユーゴは物珍しそうにしていた。

次回 「狙いは間違いなくリヴェリオン」

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