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狂える神(8)

 艦橋(ブリッジ)は程よい緊張感に包まれている。実戦部隊である彼らには慣れた空気感であり、誰も慌てたりはしない。


「映像解析は?」

 マルチナが観測員(ウォッチ)に問い掛ける。

「もう少し……、出します!」

「グエンダル。二機か」


 拡大された2D投映パネルに望遠映像が出される。

 山影に捉えられた僅かな熱源反応をレクスチーヌの観測員(ウォッチ)は逃さない。重力場レーダーにも反応がある。カメラが捉えた映像を解析するとそこから監視していたと思われる敵アームドスキンの姿が浮き彫りにされた。


「追えてる?」

 重力場レーダーの反応を問う。

「山向こうの地表ぎりぎりを移動しているようでノイズに紛れてしまってロストしました」

「仕方ないわ。監視続けて」


 こちらを確認した敵が戦力を繰り出してくる可能性は否めない。警戒は続けさせなくてはならない。


「どういたしましょうか、艦長?」

 調査対象は発見できたが、対処は現場に任されている。

「この地で何をしていたのか気になる。尋問したいところだが、確保は難しいと思うかね?」

「方法によります。目標がこのまま隠密行動を取り、こちらが発見できれば作戦も立てられましょうが」

「うむ、どうやってだね?」

 そういった目的であれば、この艦には圧倒的な切り札が存在する。

「フィメイラを出します。彼なら見つけて戻るでしょう」

「頼るしかあるまいな」


 ザナストの地下基地さえ見破るユーゴの能力であれば、敵基地もしくは敵艦の捕捉は難しくないであろう。彼女はコンソールを操作して格納庫(ハンガー)を呼び出した。


   ◇      ◇      ◇


「ユーゴくん、出ろって」

 艦橋からの指示を受けてメレーネは少年を呼ぶ。

「はい。チルチル、行くよ」

「方向はデータリンクで指示あるから」

 部隊回線ウインドウに現れたブルネットの髪の少年の瞳はハッチのほうを向いている。その辺りを彼の3Dアバターが飛んでいたのだろう。


 パイロットシートに収まっているユーゴの顔は引き締まっている。焦点を結んでいないかのような瞳はしていない。今の彼の意識はしっかりとしている。


σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。機体同調(シンクロン)成功(コンプリート)

 合成音声が機体の正常起動を伝えてくる。

「アル・スピア五番機、メレーネ、発進よろし?」

「発進どうぞ」

 リムニーがじっと見つめてきた。

「メル、お願い」

「心配しないで」

 彼女は表情が薄い分、深奥の不安が思いやられる。


   ◇      ◇      ◇


 雪原を青と黄色のアームドスキンは低く跳ぶ。可能なら、勘付かれないように捕捉したいという条件付きの捜索任務だ。

 山嶺を飛び越えるところは確認されるだろうが、こちらの動きが伝わるのは最低限にしたい。


「どんな感じ?」

 外輪山を越えて森林に降下してからユーゴに訊く。

「無理。森の中は動物が多いもん。近付かないと」

「動物がいると見えないんだ」


 彼の特殊な感覚にも働く条件があるらしい。以前何度か尋ねた時はひどく抽象的な答えが返ってきた。

 最近は状態が悪いので尋ねるのも難しい。光がどうとか、かなり怪しげな言葉しか返ってこないのだ。


「じゃあ、お散歩しよっか」

 短距離データリンクを繋げたまま、樹間の広いところを選んで移動する。

「この辺の森は手付かずだねぇ。赤道からちょっと外れてるし、暖かい日があっても雪が溶けたりしないのかも」

「だから動物が多いんだと思うよ。それに人慣れしてないから怖がらないし」


 反重力端子(グラビノッツ)を最大にして機体を浮かせ、パルスジェットだけで木立を縫っていると、枝の上から興味深げに観察してくる小動物の姿が見える。その巨大機械の意味するところを理解していないのだと思う。


「あ、これかな?」

 一時間以上も森林内を散策していると少年が何かに気付く。

「近い?」

「ううん、まだ少しある。あれ? 動く? 分散してる」

「出撃してる! ユーゴくん、戻るよ!」

 メレーネは彼の言葉の意味するところを正確に読み取った。


 動物たちが逃げ出す中、彼女はアル・スピアを森林上へと飛び立たせた。


   ◇      ◇      ◇


「攻撃命令!?」

 女性パイロットは悲鳴を上げる。


 彼らが持ち帰った情報を上層部に伝えると、下った命令はフォア・アンジェ撃退だった。おそらく後退指令が出ると考えていた彼女は驚嘆する。

 正常な判断とは思えない。こちらは単艦の巡回任務中。戦力は二十三機。相手は戦闘空母が二隻。最低でも五十機は搭載されているはず。死ねと言われているようなものだ。


「それでも命令だ。もう一回、出るぞ」

 苦渋に満ちた顔付きは、言いたいことも堪えているのだと思わせる。

「美味しいもの、食べたかったな」

「それなら上手に一芝居打つしかないぞ?」


 男は彼女の耳元で囁いた。


   ◇      ◇      ◇


「メルが敵艦からの出撃を確認した!」

 スチュアートは部隊回線に怒鳴りつける。

「救援に向かうぞ! 全機、スクランブルだ!」


 探索に出ていた二機編隊も全てに呼集が掛かってナビゲートされる地点に向かう。予測されていた事態なので皆が整然と行動を始める。


「敵艦は1! 二十数機規模の部隊だ! 到着次第攻撃しろ! 一気に攻めるぞ!」

 入ってくる情報はデータリンクとして表示されているが、鼓舞するように捲し立てるのもモチベーションを上げるための手続きのようなものだ。

「急げ! 急げ! 勇気ある味方を見殺しにするな!」


 フォア・アンジェのアームドスキン部隊は次々と雪原の上空に航跡を刻んでいく。

次回 「凍れる大地に蒔いた種はどう育った?」


※ 本日はもう一部分同時更新しています。それで第六話終了です。

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