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狂える神(2)

 或る部門を視察という名目で調査に訪れている。父から、ゴート本星でユーゴが別の破壊神(ナーザルク)らしいパイロットと接触したという情報を得たからだ。


破壊神(ナーザルク)が複数居る? それは実験という意味で捉えれば普通のことかもしれないけれど非道だわ。彼だけが被害者ではないって考えなくてはいけないのね)

 問題は敵として現れたということだ。

(計画を主導している組織はザナストにも通じているって意味。問題はそれがガルドワの内部組織である疑いが強いところ。現状が自作自演である可能性まで高まってきてしまったわ)

 怖ろしい予想が浮き彫りになってきた。


 元が疑問として挙がっていた部分ではある。

 ゴートの中枢や軍の残党であり、地下に潜んで活動していたはずのザナストがどうして憂慮せねばならないほどの戦力を保有しているか?


 旧地下都市の資源回収を活発に行っているのはガルドワも把握している。赤道から離れれば離れるほどに積雪は厚く硬く、調査は困難を極めるために十分には進んでいないが地道に続けている。

 無数に有った地下都市を調査して回るのも、もぐら叩きの様相を呈する。人手や戦力を割いて侵入すると既に採取痕だけ残して撤収済みという状況が頻発する。そうなると大きな予算を投入できなくなるのは致し方ない。


 ただし、資源が確保できるからといって大戦力を保有可能なわけではない。


 まず必要なのは労働力。例えばアームドスキン一機組み上げるにも、自動工作機を使っても一人でできる作業ではない。部品を製造する行程、組み立てる行程、調整する行程、整備する行程。それぞれにマンパワーを要する。パイロットは一人でも、製造から運用までには最低でも数十人は関わる。

 戦闘艦艇に至ってはその数十倍から数百倍の人員が必要なのは否めない。雪に閉ざされた地下の本拠地にそれだけの人数を養う食料が有るのは甚だ疑問である。何らかの支援がなくては考えにくい。


 次に技術力。ガルドワにスパイが入り込んでいる可能性は少なくない。むしろ居ないと思うほうが能天気に過ぎるだろう。

 しかし、複雑な技術は多様な部門ごとに厳重に管理されている。その全てに侵入していると考えるのも難しいと言わざるを得ない。


 もしガルドワ中枢に、ザナストに通じている組織があるとすれば技術流出は容易に起こる。それは通信やごく小さい記録メディアでも可能なのだから。

 しかし食料は別である。培養肉や、人口光を利用した作物生産は地下プラントでも可能。ただし、その元となる種や幹細胞などは供給されなくてはならないはず。そちらの技術開発は大規模な施設が必須だし、高度な技能も必要である。

 形あるものを運ぶのは痕跡が残りやすい。ラティーナはそこに着目して調査を進めていた。


(普通に輸送船を手配したりはしない。ここまで巧妙に潜伏している組織がそんな足の付きやすい手段は使わない)

 彼女はそう推測する。

(必ず表向きの名目があったはずなのよ。私が思い付く限りこの部門しかないわ)

 セクション表示を確認する。


 ゴート再生計画室。そう表示されている。

 そこは現在植林されている寒さに強い樹木を生み出したり、遺伝子バンクから寒冷地に生息していた動物を再現して放ったりしている部門である。将来的に移植を進めるであろう、低温状態でも良好な生育をする作物の研究などもしている。

 当然、試験移住地での実験も行われているし、それ以外の雪深い場所でも実験を重ねているだろう。

 その時に使用された輸送船がどこに向かったか? その記録を洗えば何か掴めるのではないかとラティーナは考えていた。


(調べたら、表向きはジーンおばさまも所属はここだった)

 ユーゴの母親は動物の生態調査の名目でレズロ・ロパに派遣されていたようだ。

(おばさまが組織に属していたとは考えたくない。でも、状況的に破壊神(ナーザルク)計画に関与していたとしか考えられない)

 疑わしい限りなのである。


 懸念をよそに、ゴート再生計画室の対応に不審な点は全く見られなかった。ラティーナがどんなデータの提出を要求しても滞りなく出てくるのだ。隠すべきものなど何も無いと証明しているかのように。


(余計に難しいじゃない)

 そう思ってしまう。

(彼らは計画に関与しているという自覚がない。つまり、正当なる業務指示で動いていると思っているんだわ。それができるほどの権限を持つ役職に就く人物こそが組織に属している証左になってしまう)

 見咎められないよう、顰め面を伏せる。


「ありがとう。頑張ってくださいね」

 彼女が激励を送ると研究員たちは頬を紅潮させて応じている。名誉なことだと思っているのだろう。どんな思惑があって視察に訪れたのかなど全く考えていない様子。


(それでも必要なデータは手に入ったし、これを洗うだけ)

 そう考えていると、案内役兼ボディガード四人が彼女の前に出る。


「あまり露骨には動かないでいただけませんか、プリンセス」

 目立たないモノトーンの服装に身を包んだ人物が声を掛けてくる。

「どなた?」

「あまり大声では申せません」

 人目の多い通路である。


 移動してから促すと、その細身で黒髪の人物は自分から口を開いた。


「オルバ・オービットと申します」

 疑念をほぐすように名乗ってくる。

「二杖宙士の階級をお預かりしています」

「軍の方?」

「はい。忠告に参りました」

 笑みは崩さずそう告げる。

「車輪の紋章には近付き過ぎないようお願い申し上げます。御身に危険が及びかねませんので」


(車輪の紋章!? 御者神(ハザルク)! 警告なの?)


 ラティーナの背中に冷たい汗がにじんだ。

次回 「つらくて見ていられない……」

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