表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/174

緩やかなる崩壊(9)

 ナゼル・アシューが敵アームドスキン隊に開けた穴に向けて上昇加速する。トニオと交錯する瞬間だけはブレード同士を打ち合わせたがユーゴはそのまま突っ切っていく。


「逃げるなぁ!」

 共用回線で彼は吠える。

「君の望みになんて付き合わないよ。それで誰かを泣かせるなんてもう嫌だ」

「僕とお前が競わないで何の意味がある!」

「競うことの意味が分からないって言ってるじゃないか!」


 足留めをする気なのか、二機が前方を遮るように動く。この部隊は彼を中心に動くような性質のものらしい。

 グエンダルのビームを身を折って躱し、懐に入り込んでブレードでビームカノンを斬り裂く。膝を入れてコクピットを揺らすと後方に回って背後から対消滅炉(エンジン)を撃ち抜く。

 続くホリアンダルのブレードの突きを滑らせると同時に右肩をビームで吹き飛ばす。入れ替わるように回転したらナゼル・アシューに向けて蹴り出し、右のテールカノンを跳ね上げて胴体に直撃させる。

 閃光に混じるトニオの灯に向けて左のテールカノンを放つがジェットシールドで弾かれたようだ。


「僕と戦って結果を出さないでお前にどんな存在意味がある!?」

 あくまで遠ざけようと動くユーゴに不満げな反応。

「戦うだけの人間の意味こそ分からないよ! 母さんはそんなことのために僕を産んだんじゃないと思うから!」

「なにぃ! お前、母親が居たのか?」

「居るじゃないか、普通! 父さんのことは訊かなかったけど!」

 今までにない空気が流れる。

「僕たちはそんなものじゃない! 破壊神(ナーザルク)として生み出された僕たちにはな!」

「なー……、ざるく?」


 呆然として隙だらけだったユーゴに襲い掛かる者は居ない。敵部隊は基地のアームドスキンと接触して乱戦に入っていた。


「そうか。それでそんななのか」

 トニオの言葉には冷たさの下に熱情を感じる。

「それでそんな甘いことを言っているのか。他人のことがどうとか甘いことを!」

「まるで一人で産まれてきたみたいなこと言うな!」

「運命を知らない奴に説教される筋合いはない!」

 ナゼル・アシューの攻勢が増す。まるで激情が乗り移ったかのように敵意剥き出しのビームが次々とフィメイラの残像を貫いていく。


 トニオは両手のビームカノンと四門のテールカノンを使って躱し続けるユーゴを追い込もうとしてきている。フィメイラも反撃を交えるが圧倒的な火力に完全に押され気味になった。


(ここまで正確なら)

 ユーゴは一つの作戦を実行に移す覚悟をする。


 射線のみに集中して正対するように姿勢制御し、テールカノンの一撃に合わせて彼も左の一門を放つ。ビーム同士が凄まじい速度で衝突すると強結合プラズマの重金属イオンが超高熱と超高圧を生み出し完全にプラズマ化、爆発的に拡散して電磁気の嵐を引き起こす。


 全てのセンサーが狂いを示す中、ユーゴはトニオに向けて右のテールカノンを撃ち放った。磁気嵐で通常以上の減衰を見せたビームであれど、その一撃はナゼル・アシューの左ラウンダーテールを削りながら通過。テールカノンを使用不能にした。

 しかし、トニオが勘で放ったであろうビームもフィメイラの頭部を掠めている。右側のアンテナが全損し、ルビーレッドの透過金属が溶けて歪みを生じさせている。


(普通の頭部だったら今ので半壊してた。これはそういう意味の構造なんだ)

 多少の誤差は出るだろうがセンサー類は生きている。


「お前には絶対に負けられん!」

「君は変だよ! 戦うだけが生き甲斐とか!」

「黙れぇー!」


 感情に呼応するように、ナゼル・アシューとフィメイラの頭部で紋章が激しく輝いた。打ち合わせるブレードの火花が激突のすさまじさを象徴するようだ。

 しかし、そこで多数のイオンジェットの光が通り過ぎ、ザナストのアームドスキンが幾つも爆炎に包まれた。


「ユーゴ、助けにきたよ!」

 陽気な声が共用回線で響く。

「メル?」

「そう、あたしあたし!」


 見ればチムロ・フェンの街を守るかのように雲を割ってレクスチーヌが降下してきた。後ろに続く同型艦がオルテーヌだろうか? 更にもう一隻、違う系統の戦闘空母も降下してくる。


「ユーゴ、敵部隊は任せて一度帰投しなさい」

 部隊回線の声はマルチナだった。

「副艦長、君が心配だからって艦を降下させるよう進言してたんだよ。いうこと聞いてあげれば?」

「うん」

「ああ、くそ! 役立たずどもが!」

 その間にも次々と撃破されるザナスト機にトニオが吠える。

「次は決着をつけてやるからな! 絶対に僕が上だと証明してやる!」


 ナゼル・アシューは反転すると後退していく。それに続いたのは僅かに数機だけだった。


「そこの基地隊員、我が艦に乗れ。出迎えご苦労」

 ルフリットとコルネリアへの呼び掛けはちょっとした冗談が含まれている。

「フィメイラ、レクスチーヌに戻りなさい。このまま離脱します」

「はい、マルチナさん」

 甲板(デッキ)へとユーゴが舞い降りる。二人のアル・スピアも戦闘空母へと降り立っていた。

「コリン! ルット! じゃあね!」

「ユーゴも元気でね!」

「みんなによろしくな! ユーゴ、また!」

 フィメイラとアル・スピアは手を振り合う。


 上昇する甲板と下降する甲板が徐々に離れていく。その間もずっと手を振り続けていた。


   ◇      ◇      ◇


 パイロットシートをスライドさせて身を乗り出したコルネリアは、風に髪をさらわれながらレクスチーヌが雲間に消えるのを見上げていた。


「あいつ、大丈夫だよな?」

「大丈夫。ユーゴは優しいもん。きっと誰かが救ってくれるはずよ」

「ああ、きっと」


 彼女はその誰かになれなかったのが少しだけ悔しかった。

次は第六話「狂える神」


次回更新は『ゼムナ戦記 伝説の後継者』第五話「解放攻勢」になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ