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緩やかなる崩壊(8)

 天候は回復の兆しを見せている。本来なら喜ばしいことのはずなのに、コルネリアは憂鬱に感じていた。


(視界が回復したらまたあいつらがやって来る。これ以上ユーゴが悪化したらもうどうしていいか分かんない)

 懸念を表に出さないように努力している。


 しかし、アバターのユンはそれを裏切って憂鬱そうに浮遊し、それをユーゴのチルチルが勇気づけるように寄り添っている。それで自分が彼を心配させているのだと感じてしまうので余計に困る。


「ディニーのことが心配? 時々は落ち込んでいるようにみえるけど、そんなにつらそうには見えないよ」

 彼のことでも姉が思い悩んでいるとは思っていないようだ。

「うん、ロニーは残念だったけど心のどこかで覚悟はあったみたい。平静ではいられなくても、仕事に大きく影響が出るほどじゃないはず」

「お前だって分かるだろ? こんな場所で暮らそうって連中はそれなりに逞しいんだって」

 ユーゴの状態は彼にも話してある。ルフリットなりに力付けようとしていると感じた。


 ルフリットの3Dアバター、ポックも力こぶを作るようなポーズをとっている。彼は名付けたがらなかったアバターだが、コルネリアが勝手に名付けてしまっている。今ではちゃんと呼ばなければ反応しないので本人も認めているのだろう。


 今はフィメイラのコクピット内でハッチを閉めてヒーターを作動させ、球面モニターに縋るように並んで温かな飲み物を口にしていた。

 とにかく一人にさせないように一緒に行動し、常に目配りしている。現状では悪いほうへは進んでいないと思えるが、回復もしていないのか時折り不安定な言動を見せていた。


「もう少ししたらレクスチーヌが迎えに来てくれるんだって。たぶん降下地点が違うから、軌道まで上がったところで合流なんだと思う。近付いてきたら詳しい時間も教えてくれるんじゃないかな?」

 寂しさは隠さない。それがユーゴの心に良い影響があると信じて。

「本当は一緒に居たい。でも、僕はフォア・アンジェでこれからも戦うつもりだし、ルットたちに両親と離ればなれになってでも一緒に来てなんて言えないや」

「気にするなよ。そう言ってくれるだけで俺は嬉しいんだぜ? ユーゴがいてくれれば、子供だって下に見られながらもアームドスキンに乗り続ける勇気が持てるし」

 ルフリットは彼の肩に手を置き、ポックはチルチルと肩を組む。

「常駐艦が来るって聞いただろ? 戦力的にはおれたちなんて要らなくなるんだけどさ、二人でこのままパイロットを続けるってホフマン司令にお願いしたんだ」

「そうなの。わたしも両親や街の人たちを守れるんなら戦い続けたいんだ」

 決心を告げると少年は嬉しそうに微笑む。

「また会いたいね。今度は平和な時が良いな。サーナもそう言ってるでしょ?」

「ああ、それまでに一対一で勝負できるように腕を上げておくからな?」


 三体のアバターは手を取り合って輪になり、くるくると回っていた。


   ◇      ◇      ◇


 願いは叶わず、二日後の昼に吹雪が止むと警報ブザーが鳴り響く。

 敵は補充を受けたのか十五機。対する基地側は十機にまで数を減らしている。それでも守勢に回るわけにはいかない。彼らは防衛部隊なのである。


σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。機体同調(シンクロン)成功(コンプリート)

 馴染むような感触と流入してくる情報で機体が制御下に入ったと感じる。

「ルット、基本は同じね」

「おう、了解だ」

 状況はより厳しいが、やはりユーゴの報告に有ったナゼル・アシューという敵は危険である。彼でなくては対応できまい。

「続くぞ」

「敵が多いから無理もしない。あれ、忘れちゃ駄目だからね」

 邪魔はしないが孤立もしない方針。自分たちまで撃破されればユーゴは苦しんで壊れてしまいそうだ。


 先行するフィメイラに続いて発進。驚くような速度で流れる灰色の雲と強めの風を割って飛ぶ。街を遠望する位置まで移動したらアル・スピアの光学センサーでも敵機が捉えられた。


「墜ちろ!」

 意外にもユーゴはナゼル・アシューを迎え撃つ態勢ではない。始まる敵機の砲撃から外れ、大きく上空へ高度を取るとテールカノンで狙いをつけているようだ。

 まだ距離があるので一射目はジェットシールドで弾ける。しかし、続く一射は過負荷を与えてシールドコアを焼き付かせ余波を浴びせる。ふらつく相手にビームカノンで狙撃を加えて撃破した。


(どういうつもりなの?)

 彼女は判断に迷う。


 あの朱色の機体以外を引き受ける戦法を取るつもりだが、肝心のフィメイラが迎撃する気がなさそうだ。上空から回り込むように敵部隊に襲い掛かる様子を見せる。

 当然、ナゼル・アシューはユーゴを狙って動くが、後背を取らせながらも間に敵アームドスキンを入れて近付けさせない。


「予定と違うけど狙い目だからやるぜ」

 フィメイラを追尾しつつ敵部隊を突っ切った彼らは下から狙い撃つ。

「合わせるしかないかもっ!」

「墜とせるときに墜とす!」


 上方から追ってきたナゼル・アシューを回避すべく動く部隊は統制が乱れている。挟まれるように下から狙撃を受けると二機がまばゆい閃光と化した。


(ユーゴはあいつにこだわらず、敵を撃破する気なんだ。自分に引きつけながら)


 彼の選んだ難しい選択肢は、基地部隊の損害を少なくさせるものだと思った。

次回 「なにぃ! お前、母親が居たのか?」

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