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再びの戦場(5)

「ええー!」


 格納庫(ハンガー)内に驚嘆が響き渡る。少年少女は呆然と見上げ、瞬きも忘れたかのようだった。


「なんで……?」

 それだけ騒げば当の少年も気付き、昇降通路に降り立って下を覗き込む。

「どうしたのー?」

「どうしたじゃないでしょー! 君のことよ、君のことー!」

「僕のことー?」

 小首を傾げるブルネットの少年は要領を得ない。

「いいから下りてらっしゃい!」

「分かったー!」


 階段を駆け下りる姿がさまになっている。ツーラ生まれではないようだ。


「君はパイロット見習い? 整備士見習い? 正規パイロットじゃないよね?」

 搬送を頼まれて動かしていたのではないかと思ったコルネリアはそう訊くが、少年の深茶色の瞳には疑問符しか浮かんでいない。

「えーっと、パイロット見習い?」

「どうして疑問形なのよ。この変な機体の正規パイロットはどこ?」

「変じゃないよ、フィメイラは。ちゃんと動くもん」

 会話が擦れ違いっぱなしである。

「そういう意味じゃないって。コリンが言いたいのは、このアームドスキンが変わった形をしているからどういう物なのか訊きたいだけなんだって。お前、知ってる?」

「これは僕用のアームドスキンなんだって。班長がそう言ってた」

「専用機ぃ!?」


 聞けば、この少年はガルドワ軍に正規所属はしていないからパイロット見習いなのではないかと答えたのだそうだ。このフィメイラというコードの機体の専属パイロットなのは確かなようである。


「どうして君みたいな少年がパイロットやっているのよ。いくつ?」

「十四歳」

 彼女はルフリットと目を見合わせる。

「わたしたちより一つ下? なのにフォア・アンジェみたいな実戦部隊に?」

「おいおい、他人のことは言えないだろうが。お前らもこのチムロ・フェン基地のパイロットなんだからよ」

「えー」

 誘導役の整備士の茶々が入ると途端に少年の瞳に批判の色が表れる。

「…………」

「……自分たちだって変だよ。一つ上ってことは十五歳でしょ?」

「ま、まあ、それは置いといて」

 半目で見つめられると自然に視線を逸らしてしまった。


 ユーゴ・クランブリッドと名乗った少年は事情があってフォア・アンジェに所属しているようだ。彼女たちも名乗りつつそれを聞き出す。

 彼もレズロ・ロパという試験移住地の住人で、成り行きでアームドスキンに乗るようになってからフォア・アンジェに籍を置くようになったらしい。


「基地所属ってことは、二人はガルドワ軍のパイロットなんでしょ?」

 移住地の防衛基地は軍の管轄である。

「臨時雇いみたいな契約になってるけど……」

「あのな、フォア・アンジェに来てもらったのはここが攻撃を受けているからだって知ってるだろ?」

「うん」

 ルフリットが説明役をしてくれるようだ。

「最初の攻撃の時な、真っ先にパイロット棟が砲撃されちゃってさ」

「あー」

 それとなく察したらしい。


 コルネリアとルフリットは彼女の姉デネリアが整備士をやっている縁で当たり前のように基地に出入りしていた。試験移住地の防衛基地などその程度の緩さである。

 アームドスキンも普通に触り、姉の空き時間には実機シミュレーターも遊びがてらこなしていたのだ。その折に、二人も姉の私物のσ(シグマ)・ルーンを貸与されている。


 そんな時にアームドスキンはあるのにパイロットが居ないという事態が到来した。

 ちょうど基地に居た少年少女はなし崩しに自衛のためにパイロットシートへと身を置いた。そして実績を上げてしまったのである。

 普通ならそんなことは一度限りのその場しのぎで終わるはずなのだが、パイロットの補充がほとんど行われないままに今に至っている。


 防衛基地所属志願者は極めて少ない。ツーラから何年も離れて本来なら閑職といえる場所に居れば出世コースから外れてしまう。誰もがそれを嫌うのは当然。

 ガルドワ軍は親会社の私設軍であり、所属の兵士は社員扱いである。国家の軍のように配属命令は絶対ではなく、無理を通そうとすれば即座に辞職されるとあって志願者を募るしかない。

 厳寒の地で閑職を望む者など、給金を受け取りつつのんびりと暮らしたい人間だけ。そんな事情から二人はなし崩しになし崩しを重ねてパイロットのままであり、実績も積んできてしまっていた。


「へえ、大変なんだ」

 ユーゴは彼らの境遇を心配してくれているらしい。

「大変っていえばそうなんだけど、嫌でもないのよね」

「おれは悪くない気分だぜ。基地のみんなの期待されて頑張って戦果をあげれば絶賛される。そんなのおれたちみたいな歳じゃ普通はない経験だろ?」

「慣れちゃわないほうがいいと思うけど……」

 少年の表情は憂いを含む。

「自分のやっていることは理解しているつもり。でも、誰かがやらないといけないなら自分以外でもいいって思えなかったのよ」

「それは変じゃないと思うよ。僕だってそうだもん」


 コルネリアのアバターのユンが少し悩んだような仕草をする。そこへ彼の3Dアバターが近付いて力付けるように手を取って励まそうとしている。

 3Dアバターは少なからずσ・ルーン装着者の心理を反映する。それで彼女はこの幼ささえ感じさせる少年が心優しいのだと感じられた。


 三人は集まってアームドスキン談義を始めるのだった。

次回 「どして?」

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