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再びの戦場(4)

 固定アームが伸びてきて、420mある戦闘空母レクスチーヌを保持する。艦の重量を支えられるわけではないので反重力端子(グラビノッツ)を切るわけにはいかないが、風で流されたりといったことは考えなくて良くなる。地上の航宙船ポートというのはこんなものだ。


 フォア・アンジェが行う今回の作戦は、試験移住地チムロ・フェンを襲うアームドスキン攻撃に対抗し、近在すると思われるザナストの基地を捜索して排除する任務である。一定期間の滞在が見込まれるので、艦を保定して維持する必要があった。


 それとともにクルーの半数以上が上陸態勢へと移行する。作戦協議等でその都度行き来するのは効率的ではないし、アームドスキンの整備、運用なども重力下においては基地設備のほうが向いている。

 それらの理由があるのは事実だが、半分くらいはクルーに重力を満喫してもらいたいが故の措置になる。宇宙生活にも慣れた要員ではあるが、重力のある暮らしは彼らに精神的安定をもたらすのである。


 艦の運用クルーは昇降タラップを利用して大地を踏みしめる。そして、アームドスキン隊は甲板(デッキ)の端から次々と飛び降りている。姿を現すたびに見物に来ている基地の要員からは歓声が上がっていた。


   ◇      ◇      ◇


「格好良いよなぁ、アル・スピア」

「うん、なんか綺麗なフォルムをしてるよね」

 黒髪の少年がこぼした感想にコルネリア・フィスはさらりと応じた。


 正直に言ってこのアル・スピアというアームドスキンは軍用とは思えないほどに曲線を多用しているが鋭角的なパーツも目立ち、少女の目からは少しとげとげしく感じてしまう。しかし、隣の友人ルフリット・ゴースレーの目には格好良いとしか映らないようだった。

 彼女と同じ十五歳になる少年の感性ではそうなのだろうが、コルネリアはむしろその性能のほうに興味がある。ガルドワが新機軸として打ち出したアームドスキンの機動性や軽やかな歩行音のほうに心奪われていた。


「軽快な動き。ガルドワインダストリーが自信をもって送り出した新鋭機だけあるよね、ルット」

 ルフリットは少女の視点に目を瞬かせている。

「相変わらずだなぁ、コリンは。女子はそんなところに目を向けないもんじゃないかと思うぜ、おれは」

「いいの。わたしは別に普通の女の子をやる気はないんだもん」

「うーん、普通に可愛いんだからそれっぽいものに興味を示せばもっとモテるはずなんだけどなぁ」


(たまにさらっと言っちゃうのよね、こいつ)

 コルネリアは心の内の動揺を見せないように抑える。


 そんなルフリットだが、彼自身は恋愛事には興味が薄いのである。先の台詞も、誰か若い基地要員の受け売りだろう。単にニュアンスを真似て背伸びしているだけ。


「仕方ないか。コリンのところは姉ちゃんからしてあんなだもんな。家系なのかもしれないぜ」

 その辺りは彼女も納得している。自分の今現在の感性は姉に強い影響を受けていると感じる。

「そのディニーはどこいるんだ?」

「お姉ちゃんなら整備士さんグループで見学してるはず。ほら、あそこ」

 少し離れた一団で真っ赤な髪が揺れているのですぐに分かる。コルネリアの赤茶色の髪と違って、姉のデネリアの髪は真っ赤に近い。

「ほんとだ。やべー、超興奮しちゃってるじゃん。あれはあとでうるさいぜ。一、二時間は感想を聞かされるんじゃないか?」

「保証してあげる。覚悟してなさいね」


 二人は整備士集団とは別枠で陣取って見学しているのだ。それは彼らの所属がデネリアとは違うことを意味している。


「はぁ!?」

 つい変な声が漏れてしまった。それは甲板の端にそれまでとは全く異なる黄色いアームドスキンが見えたからである。

「なに、あれ!」

「分からないって! 何だよ、あれ。顔が無い……」

 二人して唖然とした顔で見上げてしまう。


 ほうぼうから上がっていた期待の歓声も、その機体が姿を現した時からざわめきに変わってしまっている。それくらい異質な印象を抱かせるアームドスキンであった。

 アル・スピアに比べれば武骨なデザインに見える。どちらかといえば古臭さを感じさせるほどに角ばったディテール。しかし、遥かに目を奪うのが頭部に座するルビーレッドの透過金属。

 顎を縁取るような部分から頬、そこから後頭部はボディーと同じ黄色く塗装された装甲板に覆われているが、その上に乗っているのは鳥の嘴のような形状のクリアレッド。四本の尾翼のような金属アンテナが内側より伸びているのを除けば、カメラを含めたセンサー類が内部に透けて見えているだけ。


「突飛すぎる……」

 コルネリアの口からはそんな感想が漏れる。

「どういう機体なの?」

「さっぱりだ、げ……」

「あ……」


 二人は絶句してしまう。

 人によってはその違和感の正体には気付かないかもしれない。だが、慣れた人間は気付くだろうし、彼らは気付く部類に属していた。


「ヌルっとしてるな」

「すごく生物的なのよ」

 機械特有のきびきびしたところが無く、ぬるりとした感じ。見回すような頭部の動きや、ちょっとした仕草が生々しさを生み出している。

「追い掛けよう」

 衝き動かされるように足を向けてしまう。

「え、本当かよ」

「いいから!」


 背中を追って格納庫へと駆け込んだ二人は、ちょうどハッチが開く場面に遭遇する。緩衝アームによって突き出されたパイロットシートから腰を浮かせたのは、彼らと似たような年頃の少年だった。

次回 「ま、まあ、それは置いといて」

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