表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/174

再びの戦場(3)

 大気圏に降下する戦闘空母レクスチーヌでは、全機のパイロットがコクピットでの待機状態に置かれている。察知されやすく奇襲が考えられる状態だからである。


「どうだ、軽いだろう?」

 フィメイラのパイロットシートにはエックネン整備班長が取り付いている。

「うん、軽い。ありがとう、班長」

「コクピットシェルは丸ごと換装したからな。あの古い型じゃあ諸々使いづらいだろうし、重たいんじゃないかと思ってな。本社(ガルドワ)も妙に気前よく出してくれたぞ。坊主の働きが認められたからだろうて」

「そうかな?」


 エックネンにとっては孫より若いのではないかという年頃の少年である。送り出すのに胸が痛むくらいなのだから、出来得る限りのことはしてやりたい。


「もちろんだ。あとは反物質コンデンサパックのアタッチメントも新しい規格のものに交換しといたから換装も早いぞ。もしもの時は無理せずすぐに戻れよ」

 向けられる朗らかな笑顔に心が和む。

「いっぱい迷惑かけちゃったけど、このフィメイラなら班長に大きな声を出させないで済むと思うんだ。心配しないで待っててね」

「分かった分かった、大船に乗ったつもりでいよう。だが、何かあったら遠慮無く言うんだぞ?」

「はい!」


 万全な状態で送り出してやりたいのはやまやまだ。しかし、この黄色いアームドスキンに関しては検証された図面が無い。内部から吸い上げた図面の確認作業を少しずつ進めたが、全てに目が届いたとは言いがたい。

 それでも頭部を除けば構造上は既存の機体と大きく異なる点はない。多少複雑にできているだけだ。必要な手順だけ踏んでおけば整備としては問題無いはずである。


(特別製なのはこの坊主のほうだなんて信じられるか。どこの馬鹿が破壊神(ナーザルク)だなんて名付けやがったんだ。ぶっとばしてやりてえや)

 少年の栗毛(ブルネット)の髪に指を絡ませながら思う。


「ユーゴくん、調整のほうは完璧だからね。お姉さんを褒めてもいいのよ」

 バケットまで渡ってきた金髪碧眼の若い女性は担当SEのペリーヌである。エックネンの肩に座って足をぷらぷらさせていた3Dアバターのチルチルも両手を大きく振って歓迎する。

「チルチルも調子良さそうね。σ(シグマ)・ルーンの学習深度もかなり進んできたから、前より思い通りに動くはずよ」

「うん、ペリーヌさんの調整なら全然心配いらないね」

「もー、この子は可愛いんだからー」

 彼女は少年の頭を胸元に抱き寄せる。

「お前さんはフィメイラのSEなだけなんだから、妙なことまで教えるんじゃないぞ?」

「えー、可愛がっているだけだって。班長、堅いんだから。さすがに十も下のユーゴくんに手を出したらヤバいでしょ」

 そうは言うが、様子を見ていると不安になる。


 ペリーヌを疑いの眼差しで見ていたら、ユーゴの膝付近に2D投影コンソールが勝手に立ち上がって碧眼の男が大写しになった。ハッチが開いたままなので、部隊回線がそこに表示されたのだ。


「モテモテじゃないか、ユーゴ。一人占めはずるいぞ」

 スチュアートがからかうように笑っている。

「どうした、スチュー。何か気になるのか?」

「えー、班長のほうがお目当てだったの? スチューってそういう趣味だったんだ」

 枠が縮小されて割り込んできたのは黒髪に琥珀色の瞳の女性。

「そう言ってやるな、メル。太古の男ばかりの戦場では当たり前のことだったと聞くぞ。隊長は伝統を守っておられるのだ」

 メレーネの冗談に、緑の瞳にかかる金色に染めた髪をかき上げながらフレアネルが乗っかる。

「そんな伝統はダストシュートに放り込んどけ!」

「せめてオリガンくらいにしておいてもらえると想像し甲斐があるんだけど」

「僕を巻き込むのはやめていただけませんか?」

 四つ目の枠には、巻き毛の黒髪に茶色い瞳の青年が映る。割と美形なのでフレアネルにからかわれるのだ。


 それと同じ物がそれぞれのコクピットでも映し出されているので、騒ぎはエスカレートしていく。一応の待機状態だが、今のところ敵襲の報は無いので呑気なものである。そんなだからお祭り部隊と呼ばれても仕方ないのだが、彼らに自重する気はないようだ。


「俺はストレートだ!」

 吠えたスチュアートを皆が大口を開けて笑っているが、中央から押し退けるように枠が広がって赤毛の年若い女性の顔が映る。そんなことができるのはオペレーター権限だけ。映っているのはリムニー・チックベルの無表情な面立ちである。

「そんな連中の相手しなくていい。困ったらいつでも私の部屋に来て、ユーゴ」

「な! リムニー、あなたね、わたしとそんなに歳変わらないじゃない!」

「ペリーヌより二つも若い。ユーゴにはわたしのほうがお似合い」


 喧嘩の始まったコクピット。困惑顔のユーゴの横で縮こまったチルチルがぷるぷると震えている。

 実に賑やかな様子にエックネンは、親心を起こして心配せずとも少年には心強い味方ができたのだと思う。秘密を知る一人として不安が無いわけではないが、彼が孤立するのだけは避けられそうだ。ゆったりと構えて見守っていればいいだろう。


 格納庫(ハンガー)の上部に大型の2D投映パネルが開く。そこには目標の試験移住地チムロ・フェンが近付く様子が映し出されていた。

次回 「追い掛けよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ