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フィメイラ(8)

 聞き耳を立てていたらしいリムニーは、感情を見せぬままに艦長席付近まで歩いてくる。


「軍の独立ネットに繋がる端末が要る」

 皆がきょとんとしている中、マルチナは我に返って自席を指す。

「私の席を使いなさい」

「ん。班長の管理者コード、貸して」

 着席したリムニーは当然のように要求。

「お?」

「待って! 待ちなさい。それは越権行為よ」

「これからすることに比べたら可愛い」

 怖ろしいことを平然と口にした。

「知りたくないの?」

「う……」

「進めなさい。私が責任を持とう」


 フォリナン艦長が許可を出す。既に尋常でない事態に巻き込まれていると判断したようだ。現状を把握しておかなければ自衛もできないと考えたのだろう。


 リムニーはエックネン整備班長の管理者コードでログインすると、部品発注のフォーマットをすっ飛ばして、過去ログへと入っていく。そこから他部署の過去ログリストを表示させると、製造番号を検索しつつどんどんと過去へと遡っていった。

 何かが引っ掛かったところで権限に関わる警告メッセージが表示され、操作が止まる。そこで彼女は何らかのパスワードを入力し、ワーニングを消してしまう。


「ひゃー!」

「今のは!?」

 ペリーヌの悲鳴に続いて、マルチナも危険を感じて問い掛ける。

「前に拾っておいた管理パスワード」

「何でそんなのを!」

「ただの趣味。悪用しない」

 今現在、悪用されているような気がする。


 最初から無茶をすれば簡単に発覚するが、或る程度の深さまで入ってからなら疑われにくいのだそうだ。権限を持つ人間の通常操作と見分けがつかない。


「見つけた」

 確認してある製造番号が固まって出荷されている場所が判明する。

「ツーラの東アニカ平原の製造ライン? ずいぶん辺鄙なところで」

「ここでロールアウトしてる。ASNZ01T2、間違いない?」

「それだ! でかしたぞ、リムニー!」

 秘密の悪戯をしている気分になっているのか、スチュアートが歓声を上げる。

「待ちなさい。この記録、おかしいわ。472年になってるでしょ?」

「二十六年前!?」

「それなら製造番号の型式が古いのも説明がつくな」

 フォリナンは記録を信用しているようだ。


 軍の記録なのだから信用できるとか、そんな古い機体が実戦投入されるわけがないとか、秘密兵器といった子供じみた意見まで議論に上ってしまう。


「これ……」

 そんな中、リムニーは目を丸くして情報パネルの一番下に表示された機体情報を指差していた。

「何だと?」

「ど、どういう意味なの?」

 スチュアートはもちろんマルチナも仰天する。

「ひっ!」

 ラティーナは息を飲み、涙目で首を振り続ける。


破壊神(ナーザルク)専用機』


 そう綴られていた。


   ◇      ◇      ◇


 白っぽい地面に点々と施設が並んでいたが、地平線に都市らしき姿が見えてくると皆が一様に安堵の息を漏らす。無事に帰ってこられたのが不思議なような厳しい状況だった。


「見て。あれがコレンティオ。ユーゴは初めてなのかしら?」

 艦橋(ブリッジ)の窓際まで連れていって、都市を指差しながら問う。

「分からないんだ。母さんは僕をツーラで産んだって言ってたけど、どこでって言わなかったし、記憶も無いから」

「赤ちゃんの時のことだものね」

「うん、物心ついたらもうあの森で遊んでたもん」

 ラティーナが少年に出会ったのはその後だ。


 彼がどんなふうに産まれたのかは当然本人には分らない。母のジーンが失踪してしまった今、確認する術が失われている。

 例の件は艦長命令で箝口令が敷かれている。危険性の高さを感じたフォリナンは、事実を知る人間が少ないほうがいいと判断したのだ。

 ただ、あの場に居た人間だけが少年が特殊な存在である可能性が極めて高いと知っている。


「マジかぁー! お祭り部隊って呼ばれる俺たちがメインポートに誘導される日が来るとはなー」

 スチュアートが自嘲気味に言う。

「僕、緊張してきちゃいました」

「正規軍扱いだもの。出世したもんだねえ」

「今までが扱い悪かったの! あたしたちが一番危ないところで働いてたのに」

 フレアネルたちは満足げに笑うが、メレーネは不平を漏らしている。


 フォア・アンジェは精鋭部隊である。が、一風変わった組織に馴染まない人間が選ばれているのも確かなのだ。規律に無頓着な変わり者の集団であるが故に「お祭り部隊」などと呼ばれているのだった。


(サディナには本当に申し訳無いと思うけれど、無事に帰ってこられてすごくホッとしてる)

 複雑な心境ではあるものの、ラティーナはやっと普通の生活に戻れると胸を撫で下ろしている。

(あとはユーゴをアームドスキンから引き離せば平穏に暮らせるはず)

 まずは両親に相談しなくてはならない。


 レクスチーヌが宇宙港に到着してクルーが降りていくと正規軍兵士がずらりと並んで出迎えている。ただし、それは激戦の勇士を歓迎するものではなかった。


「お待ちしておりました、ラティーナお嬢様。御両親のところへご案内いたしますのでこちらへ」

 彼女を取り巻くように移動する。

「ちょっと待って。ユーゴも一緒に」

「あなた様をご案内する命令しか受けておりません。ご理解を」

「待ちなさい! 両親に連絡させて!」

 そのまま屈強な兵士に押し流されるように連れていかれてしまう。

「ユーゴ!」


 少年はやり遂げたような満足げな面持ちで手を振って見送っていた。

次回 「君の身の安全を保障できない」

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