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ゼムナ戦記  神話の時代  作者: 八波草三郎
第三話

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フィメイラ(4)

 技術的な極論として、アームドスキンには頭部は必要ない。現状の補助カメラを使用した時のように、どこにカメラが配置されていても戦闘に耐えうる極微小なタイムラグで頭部カメラの位置からのものと同じ映像をコクピットシェル内に映し出せる。

 頭部にセンサーを集中させるのは、逆に弱点を作ることに他ならない。そう考えた設計者も数え上げればきりが無かろう。


 しかし、現実に開発実験を行う過程で頭部の無いアームドスキンは、頭部にセンサーを集中させたアームドスキンほどの機動性や柔軟性、汎用性を発揮できなかった。

 それを人間工学の博士は当然だと言う。目や耳、鼻といった主要感覚器は頭に集中している。σ(シグマ)・ルーンを通してさえ、そこに生じる微小なタイムラグを脳は鋭敏に感じ取ると主張する。その違和感が操縦に影響を与えているのだそうだ。


 頭部の必要性を定説とするまでに行われた実験では、もう一つの意外な事実が発覚する。頭部に顔に当たる造形を配置した場合とそうでない場合、前者のほうが優秀な成績を収めるのである。

 これに関しても議論がなされ、幾つかの実験が行われた。その結果として、他はともかく目に当たるパーツだけは特に強く影響するとデータが証明する。これには人間工学博士も首をひねったが、違う分野の意見が注目を集めた。


 それは心理学でも兵器を研究する専門家の意見。普段は全体造形の威圧感などを研究している者たちだが、彼らが言うに目の有無は搭乗者の心理に深く影響するのだそうだ。

 自機の動作を想像するパイロットの心理が、そこに目を連想できるパーツがあるだけで高揚感を生み出す。その心理面が影響してアームドスキンの動作を引き上げていると主張した。

 彼らの意見や、データが物語る事実を否定できる者はなく、連綿とアームドスキンにも目は不可欠とされてきたのである。


   ◇      ◇      ◇


(目も何も無い)


 顔が無いと感じさせたのはそれらのパーツが一つとして配置されていなかったからだ。

 黄色をベースに黒がところどころに配されている見慣れないアームドスキンの頭部には、ルビーレッドの鳥の嘴のようものが乗っている。それは艦橋(ブリッジ)に用いられている透明金属窓のような透過性の高い金属でできているようで、内部にカメラを含めた各種センサー類が浮いているかのように配置されているのが見えた。


(この機体は何? 不思議な感じがする)

 それがユーゴを戸惑わせたのだ。

 だが今は緊急時である。違和感を振り切って彼はハッチへと身体を跳ね上げる。


「動かないの?」

 しかし、いつも通りパイロットシートに着いても、2Dコンソールが投影されない。起動手順に入れないのだ。

『顔認証クリア。声紋認証クリア』

 女性寄りの合成音声が何か伝え始める。

『脳波パターンクリア。搭乗者をユーゴ・クランブリッドと承認。パイロット登録完了。起動手順に入ります』

 対消滅炉(エンジン)から各部へエネルギー充填がなされる微かな唸りがユーゴの耳に届く。

『コード「フィメイラ」起動』

 アームドスキンが息を吹き返したと分かる。

σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。(スリー)(ツー)(ワン)機体同調(シンクロン)成功(コンプリート)


 σ・ルーンと機体同調器(シンクロン)が連動し、脳波から読み取られた命令が20m以上もあるアームドスキンの隅々まで伝わっていく感触が返ってくる。いつもと同じ感覚で、その機体「フィメイラ」が彼の思いに応えてくれるのだと感じられた。


   ◇      ◇      ◇


「動くのかー!」

 エックネン整備班長が大声で問い掛けると、その途端に頭部のルビーレッドに一瞬紋章のようなものが金色に灯される。

「なんだぁ?」

「出ます」

 身をかがめたアームドスキンが梱包内のラックからビームカノンを取り出して、左だけ腰のラッチへと懸架した。

「分かった、坊主! 行ってこい!」


 全機が発進した後、後回しにしていた巨大梱包を開いて、そこから初めて見るアームドスキンが出てきた時は彼も驚いた。何も聞いていなかったのだ。

 改めて受け入れデータを確認すると、そこには「ユーゴ・クランブリッド搭乗機」とあからさまに書かれている。理解しかねていた頃に当の少年が帰ってきたのだ。


 物珍しそうに見上げていた整備士たちがわらわらと逃げ出して進路を空ける中、その黄色いアームドスキンは僅かな足音を立てつつ歩いていく。


(あの紋章、どっかで見たような?)


 発掘できない記憶にエックネンは頭を掻いた。


   ◇      ◇      ◇


 直掩の一機が閃光に変わり、再び鈍色の敵機が接近を始める。


(これは駄目かも)

 オペレーターのリムニーは覚悟が必要だと感じていた。


 そのアームドスキンがザナストのトップパイロット、アクス・アチェスのものだとは艦橋(ブリッジ)の誰もが知っている。この距離まで詰められればほとんどの艦艇が沈められたことも。


「あ、ユーゴが出る」

 オペレーター卓で点滅していた表示に目を移した。

「艦長、ユーゴ機、出られるそうです」

「……出してくれ」

 振り向けば彼の面にも苦渋が垣間見える。彼女と同じように、今度こそ帰ってこないだろうと思っているのかもしれない。

「お願い。助けて」

 パイロットを死地へ送り出すことに心が擦り切れ、昂ることのない平板な声音だが、この時ばかりは少し感情が乗ってしまった。

「ユーゴ、フィメイラ、出ます!」

「え……?」


 初めて見る黄色いアームドスキンが虚空へと飛び出す後姿を目で追った。

次回 「俺にジェットシールドを使わせるなぁー!」

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