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フォア・アンジェ(8)

 分厚い砲火にメレーネは後退を余儀なくされる。間に入らねば余計に砲撃は集中してくるのだが、その前の段階で敵の連携に負けてしまうのだ。


(数が多過ぎる。厳しい)

 四機は撃墜したはずだが減っている気がしない。

(あの鈍色の機体、アクス・アチェス。二機はやられた?)

 戦力差は開く一方に思える。


 砲撃の隙間を探るが難しい。三機で編隊を組まれるとカノンインターバルがほぼ無いように感じられてくる。潜り込む隙が無い。

 二機が足下のほうへと軌道を描くのを目の端に捉えつつ、正面から迫るグエンダルから注意を逸らせない。一番手強い敵だ。

 ところが、上方からの砲撃に反応した敵機はジェットシールドを展開して受ける。直後に突進した機体が左手のビームブレードを振り下ろすがそれも躱し、背後へと機動を掛けた。


(やられる!)


 そう思った瞬間、青いアームドスキンはさも当然のように背後へとブレードを振り抜き、胴体を両断する。それだけではなく、下向きにしたビームカノンが光を吐き出し、下方の一機も貫いた。


「27番機! ユーゴくん?」

「もう一機いる!」


 メレーネも油断はしていない。ターナ光越しに狙撃したユーゴのビームをジェットシールドで受けて押されるグエンダルを横から狙撃して仕留めた。


「直掩は?」

「マルチナさんが行けって言ったから来たんだ。次!」


 先ほどの動きは尋常ではなかった。シミュレーターであしらってやった少年とは別人のように思える。それでも今は得難い救援である。


「よし行くよ!」

「うん!」


 僚機を救援しつつ混戦状況を打破していく。フォア・アンジェのアームドスキン隊は組織的な攻撃が出来上がりつつあった。

 敵機が目に見えて減ってきたのも大きい。非常に厳しい状況だったのがいつの間にか好転している。


「フレアはそっち!」

「分かってる。後ろ! ……はユーゴが墜とした!」

 三機で組んでからは効率的に撃破できている。

「なら、お返し!」


 少年がブレードを合わせている敵機に、彼の後ろから上に飛び出て撃ち抜く。そこへ鈍色のアームドスキンが滑り込んできた。


「その動きだ! 居たな、小僧!」

「形違うけど、お前はサディナの仇ぃ!」

 ビームブレードが噛み合って干渉で火花が散る。

「今日こそ決着を付けるぞ!」

「お前だけは許さない!」

「無茶はやめろ、少年!」


 割り込む隙をフレアネルが窺っているが難しいようだ。メレーネにも離れてはぶつかり合う二機への援護射撃は躊躇ってしまう。


   ◇      ◇      ◇


 放たれた光芒に、弾けるように下降したアル・スピアは搔い潜るように接近してブレードを振り抜く。同じくブレードで受けた新型機は前かがみのユーゴ機の頭部へと膝を飛ばす。それをカノンの台尻で受けた少年は、叩き落して砲口を腹部へ向けた。

 しかし、貫いたのは中空だ。新型機は横に滑り、肩口へとブレードを振り下ろす。ジェットシールドで受けたユーゴが敵のビームカノンを押し退けつつ、機体をぶち当てる。


「使えるようになっているではないか!」

「お前たちがそうした!」

「それでこそ墜とし甲斐があるというものだ!」

 アクスが傲然と言い放つ。

「そんなことしか言えない大人なんてここで終わらせる!」

「やって見せるがいい。このホリアンダル相手にできるものならな!」


(確かにあの紺色のアームドスキンより大きくてパワーは上)

 力勝負では押し込まれていると感じる。

(でも、できないなんて思わない)


 蹴りつけられて向けられた射線から機体を横滑りさせ、砲口を向けるが既に姿はない。機動性一つとっても新型機は上を行くようだ。


(紙一重でいかなきゃ倒せる敵じゃない)

 ユーゴは下唇を噛み締める。


 直線的な突進にビームが迫る。ジェットシールドで斜めに弾いて反動を殺すと、右腕を振り抜くように砲口を向けて一射。前屈みに躱したアクスはブレードでコクピットを突こうと狙っている。


(仰向けに寝かせながら蹴ってやる)


 コクピットに衝撃を与えて次の挙動を遅らせて攻撃に移ろうとしたユーゴだが、機体は寝かせ切れずに右肩が貫かれる。衝撃で横回転を始めるアル・スピアを無理矢理射線から外そうとしたが、ビームは左脚を半壊させながら通り抜けていった。


「躱せ、ユーゴ!」

 厳しいと感じた瞬間に無線から声が通る。

「スチュー、助けてあげて!」

「もう下がれ! お前は何をやっている!」


(何をやっている? そうだ。今はサディナの仇を討つ時じゃない)

 興奮に駆られた自分を恥じる。

(敵を退ければいい。ラーナを無事に連れていくには)


 スチュアート機とぶつかる新型機を後に、アル・スピアにブレードを格納させると腰のビームカノンを握らせる。ラウンダーテールを噴かして敵中を抜け、目標へと一心不乱に飛ばした。

 敵艦隊にも直掩は居る。右腕を失った今の機体では排除は難しい。


(一撃離脱)

 ビームと対空レーザーを縫っていたが、左脚も膝からレーザーで切り裂かれた。

(沈め!)

 イオンジェット噴射口にビームを撃ち、反転して底面に潜り込み、カノンインターバル明けの一撃を後部に加えて離脱する。戦闘空母の一隻が後部から爆炎を吐き始めると、大きな光球に変わっていった。


   ◇      ◇      ◇


「ごめんなさい。また、こんなにしてしまいました」


 フレアネルとメレーネの助けを受けつつ帰投したユーゴ機はボロボロの有様だ。降りてすぐ少年は整備班長のエックネンに謝る。


「馬鹿言うな、坊主。お前さんがどんだけ働いてきたか俺だって知ってる。もっと誇れ!」

 そう言って背中をどやされた。

「うん!」


 アームドスキン十一機撃墜、戦闘空母一隻の撃沈でユーゴは初戦を切り抜けたのだった。


   ◇      ◇      ◇


 薄暗い部屋は内密な会談にと用意されたものだ。男はそこの高級な椅子に身体を預け、卓へと手を伸ばしている。

 ワイングラスの足に指を掛けると円を描くように揺らす。果実酒の芳醇な香りが鼻へと届き、男を満足させた。


「凍れる大地に蒔いた種も芽吹いたか」

「確認しております」

 斜め後ろに控えた青年が、身を折り抑えた声量で報告する。

「既に苗床も送りましてございます」


 青年の手際に男は鷹揚に頷いて返した。

第三話「フィメイラ」に続く。


次回更新は『ゼムナ戦記 伝説の後継者』第二話「XFi(ゼフィ)」になります。

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