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破壊神のさだめ(後編)(11)

 光芒を傘状に散乱している状態が終了した瞬間にリヴェリオンは爆散するだろう。大口径砲ではもう逃れる術はない。機体を逸らす前に衝撃波の誘引空間に飲まれる。


(俺は協定者に勝利した! 新たなザナストに君臨するのは確定だ!)

 胸のうちで歓喜が爆発し、思わずシートから立ち上がる。その瞬間、ヘルメットのバイザーに赤い液体が飛び散った。

 視界が妨げられ怪訝な顔をするアクス。彼は自分が滂沱の涙を流すように、目から出血しているのに気付いていない。

(ん?)

 しかも、すぐに疑問に気を取られてしまう。


 とうに溶け落ちて解除されるジェットシールドがまだ持ち堪えている。協定機のシールドは強度が高いのかとも思うが、先ほどは低い充填率のハイパーカノンでも一撃でコアは排出された。なのに接近さえ続けている。


「まさか……!」

 ビームの輝線が通り過ぎると、再び白いアームドスキンの姿が見える。

「なぜだ!」

「耐えたぞ!」

 リヴェリオンは左手を突き出しており、そこにはブレードグリップが握られている。

「なんだと!?」

「シールドコアよりブレードコアのほうが強度が高いんだよ!」

 少年はそう言いつつ焼けてしまったブレードグリップを放り捨てる。


 シールドより密度の高い重金属イオン噴流を制御するブレードコア。耐久度はシールドコアより高いのは当然だ。ただし、それでビームを受けるのは……。


「狙われていると分かっていれば切っ先を合わせるくらいはできる!」

 怖ろしい結論を口にした。

「そんな賭けを!」

「意表を突かないとお前は墜とせない!」

「意図的にやったというのか!?」

 反射的な行動ではなく計算だという。

「これで終わりだ!」


 既に躱し切れない距離にまで接近している状態で光の円筒が突き付けられる。そこから大口径ビームが放たれた。

 イオンビームの奔流をトランキオは歪曲場で偏向させる。激しく揺れる機体に気持ち悪い汗が噴出するが、歪曲場もぎりぎり耐えてくれた。が、完全に失われてしまっている。


「や……!」

 赤く染まるバイザーの向こうに、迫るリヴェリオンが見える。

「やめろー!」

 その左手には新たなブレードグリップが握られ天を向いている。白い影はそのままトランキオの下を通り過ぎていった。


 破砕音とともにコンソールが一気に警報に染まる。警報音も鳴り響いているらしいが、波打つような音が神経を刺激するだけだった。アクスの感覚器は深刻なダメージでもうほとんど機能していない。

 それでも反射的にハッチの開放操作をする。四角く口を開けた先の宇宙空間へと身を躍らせた。


「俺はこんなところで終わ……!」

 コクピットを焼いた爆炎がアクス・アチェスをも飲み込む。刹那に黒い影を映し出すが、それも一瞬にして光の中へ消えていく。


 トランキオが変化した光球の照り返しを受けて宇宙に佇む白いアームドスキンの姿を、アクスはもう見ることは叶わなかった。


   ◇      ◇      ◇


「勝負あったかな?」

 そのひと言はなぜか明瞭にエヴァーグリーンの艦橋(ブリッジ)に届いた。


 誰もが息を飲んで見守る中、元はトランキオだった光球は薄まっていき、暗い宇宙空間が戻ってくる。最初に反応したのは観測員(ウォッチ)だった。


「と、トランキオの爆散確認!」


 戦闘宙域に激震が走る。それを見、部隊回線の情報に触れたザナスト機が棒立ちになる光景が数多く見られた。大部分はガルドワ機のビームに貫かれて光球へと変わっていく。


(終わった?)

 ラティーナの胸は困惑と疑問でない交ぜになる。苦しかった戦いの終幕にはひどく呆気なさを感じたからだ。

(いけない! 呆けている場合じゃない! 私がちゃんと終わらせなければ無駄に戦死者が増えるだけ!)

 慌てて立ち上がった。


「全艦、砲撃中止! ザナストに降伏勧告を発しなさい!」

 緊張で乾き切った喉を酷使する。

「要塞へ向けてと、アームドスキン隊はトランキオ撃破の報を伝えると同時に武装解除に応じるよう勧告!」

「り、了解!」

 艦橋もにわかに慌ただしくなり、通信機器に触れられる要員全てが一斉にマイクに吠え立て始める。

「アームドスキンは編隊を整え、速やかに命令を実行せよ」

「各機、動けよ。まだ抵抗する敵は撃破して構わんぞ」

 オービットとフォリナンもそれぞれの言葉で指示している。


「……投します」

 安堵したラティーナの耳に微かに報告が届く。

「なに?」

「リヴェリオン、帰投します」

「あ! 消耗しているのね。受入準備、指示して」

 応えは無く、オペレータが疑問を口にする。

「あれ? リヴェリオン、通過しますね」

「は?」

 確かに白い機体は艦橋の横を通り過ぎていった。ラティーナは少年の視線を感じたように思う。


(……!)

 自分が大変な思い違いをしているのに気付いた。

(彼は終わらせようとしている! 何もかもを!)

 そのために向かっているのだ。氷塊環礁(・・・・)に。


「だめっ!」

 彼女は叫ぶ。

「ユーゴを行かせないで! 誰か止めて!」

 声を限りに悲鳴を上げる。

「あなたはそんな事までしなくていいの! それは私たちの罪なんだから、全部背負わなくていいからっ!」

 しかし、ラティーナの懇願は宇宙空間を飛び越えたりはしない。


 リヴェリオンはイオンジェットの光を棚引かせて離れていった。

次回 「僕も……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 アクス戦、遂に決着! ……意外と呆気ない(?)終わり方? ……でもユーゴは……。
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