破壊神のさだめ(後編)(10)
トランキオの機首のハイパーカノンが直径3mに達する大口径ビームを放つ。照準が甘くて戦闘空母の右舷を破壊した先ほどの砲撃と違い、アクスは敵大型戦艦を確実に狙う。
破壊神はこの緑色の艦に固執しており、攻撃すると過敏な反応をするのは分かっている。狙えば必ず阻止に出るはずだった。
「やらせない!」
予想通りに射線上に出てくる。
「ジェットシールド最大展開!」
「やはりな」
胸の前で両腕をクロスさせた白いアームドスキンは二つのコアを併用し、広範囲に強力なシールドを築く。ハイパーカノンが直撃すると反動で大きく機体が傾き、仰向けに倒れる。磁場の表面を削ったビームは斜めに広く散乱させられた。
「この充填率では受けられてしまうか」
それでも両腕から溶け落ちたシールドコアが自動排出されている。
「次は本気の一撃を浴びせてやろう」
「やってみろ! もうフランカーは復帰したぞ!」
新たなシールドコアを装填しつつ固定武装を指向させてくる。
「おっと、それを食らうわけにはいかない」
「だったら下がれよ!」
声音にかなりの苛立ちが感じられる。この刺激は有効だったらしい。冷静に対処させればこの敵は難しい。可能ならこの状態を維持するのが望ましい。
(ちっ!)
しかし、要塞方向から四十以上のガルドワ機が合流してくる。
(潜り込まれた敵機の殲滅もできんのか。役立たずどもめ)
とはいえ、これからはアクスの持ち駒になる。再教育が必要だろうと心に留めた。
いかんせん、このまま艦隊を背負わせておくのは困難だ。こちらは撃ち易いが、同様に相手も撃ち易い。更には砲火が集中してトランキオが歪曲場で偏向させると友軍機に被害が出る可能性がある。アクスはそれが刷り込まれた意識だというのに気付いていないために避けたいと感じてしまった。
(仕方あるまい。まずは破壊神を墜とす)
ガルドワ軍戦力が協定者を軸にしているのは間違いない。撃墜すれば精神的ダメージは計り知れないだろう。
「総力戦だ! 我らが本拠を死守せよ! 敵艦隊を排除!」
応じる声が部隊回線から響いてくる。
「協定者は俺が墜としてみせよう! ザナストの未来のために!」
「侵略者どもを神聖なる地から排除せよ!」
「頼みます、アクス同志!」
(せめて抑えてみせろよ。俺が戻って来るまではな)
戦力的には拮抗してきたために、それが精々だろうとアクスは思っている。
(新兵が多いというのはこういうことだな。数で勝負しようとした首脳部の怠慢が招いた状況だ。生き残った見所のある者を鍛え上げねば戦い続けられんぞ)
友軍機が稚拙な突進を繰り返すのを横目に見つつ、自機をリヴェリオンへと向けた。
「大きく出たね。僕を墜とせる目算があるのかな?」
余裕を取り戻したらしい相手に顔を顰める。
「お前の手のうちは読めている。逆に俺の攻撃を無効化する術は持っていないだろう? ならば勝つに決まっている」
「なるほど、自信家らしい判断だね」
「結果が出れば分かることだ」
八門の時差ビーム砲撃で追い上げていく。
「確かにね! でも、お前はその結果を実感できない!」
「根拠のない自信は命を縮めるぞ」
「根拠ならあるね。正直に言って限界が近いんじゃない?」
(何を言っている? まるで見透かしたかのように)
理解が追い付かない。
「真っ当に考えれば、もう稼働限界を超えているはずなんだけどね。痩せ我慢はほどほどにしとかないと僕がとどめを刺す必要も無いくらい脳がいかれちゃうよ」
少年が何を言っているのか分からない。
「馬鹿を言うな。多少疲れているのは認めるが俺はまだ戦えるぞ」
「たぶん、自覚できないくらいに感覚器に支障が出てる。そのまま乗り続けていたら廃人になること請け合いだね」
「くだらん手管だ。それほどトランキオが怖ろしいか?」
アクスはそう考えた。
「或る意味怖いよ。それはパイロットを食い潰すマシンなんだからね」
「言わせとけば勝手を!」
「確かにお前の勝手だけどさ」
背部のビーム砲門のカノンインターバルは一秒。計八門を時差で発射すれば八分の一秒ごとにビームが襲い掛かる計算になる。いつまでも躱し続けていられるものではない。集中力が尽きたところでハイパーカノンで撃破すればいい。
リヴェリオンの固定武装が放つ光が強まる。宇宙に複雑な輝線を描きつつ自在に飛び回っているが、どこまで持つか我慢比べだ。ビームの発射は簡単でも、偏向させて照準するには気力が要る。
「いつまでも続けていられないよね。そろそろ終わりにしてあげるよ」
「大口を叩くな! お前に打つ手はない!」
思った以上に興奮している。アクスは自分の目が真っ赤に充血していることに気付いていない。
白いアームドスキンは躱しながら大きく距離を空けていく。一瞬だけ逃げるつもりかと思ったが、遠く転回しているのが確認できた。
リヴェリオンの背部の逆五角形に配置されたスリット型ジェットが一斉に黄色い光を発する。長い尾を引く光芒が翼のように広がった。
(突進してくる!)
アクスは確信した。
(間合いを詰めてくる。あの光の砲身で歪曲場の阻害を狙ってくる気だな。近付けるものか!)
ここが勝負の綾になる。
(ハイパーカノンの充填率は100%だ! ジェットシールドでは耐えきれない!)
予想通り、シールドを展開しての突進。アクスはハイパーカノンのトリガーを絞った。太いビームが直撃して一瞬散乱する。
(すぐにコアが溶け落ちる)
そうすれば直撃だ。
「俺は勝ったぞ!」
アクスは咆哮を放った。
次回 「まさか……!」