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破壊神のさだめ(後編)(6)

 一瞬で身をひるがえしたリヴェリオンは、トランキオを挟んで機動要塞ジレルドーンを望む位置へと移動する。今度は細く絞った高集束ビームを浴びせた。


「単調な攻撃を続けて何になる。考える余裕も失ったか?」

 薄紫の輝線も捻じ曲げられて後方へ。

「それはこっちの台詞。周りが見えてないのはお前のほうさ、アクス」

「何が言いたい?」


 その時、流線型の機体の向こうで爆炎が生じる。上下に分断されたザナストのホリアンダルが対消滅炉(エンジン)から眩い光を吐き出させ、機体そのものを飲み込んで光球へと変わった。


「今の、は?」

 アクスが呆けた声で疑問を口にする。

「僕の攻撃だよ。正確にはトランキオが捻じ曲げた先の」

「俺が?」

「そう。その歪曲場は脅威だね、確かに。こっちの砲撃は本体に届かないし、そっちの砲撃は読めない射線を描いてくる」

 歪曲度を操作されているので、どこへ向いて撃つのか予想しにくい。

「でも、曲げてるだけ。ビームを吸収したり散乱させたりしているんじゃない。曲がったビームはどこかに飛んでいく。僕が射線を読めないんだから、お前の味方だってどこに曲がってくるか分からないんだよね」


 結果として、近傍にいたアームドスキンが思わぬ方向からの流れ弾を受けることになる。先のホリアンダルも、敵機のいないはずの位置からの攻撃を避けきれずに撃破されたのだ。


「何……を!? まさか……」

 ユーゴと同じく、アクスも飛んできた軌道を探査しているのだろう。

「僕の意思は絡まないんだから、流れ弾を狙って命中させるのなんか無理さ。でも、これだけ密集している敵中を通り抜けてくれば偶然でも結構当たっちゃうもんだよね」

「それで闇雲にビームを撃ち込み続けたというのか?」

「そ、お陰で綺麗な穴が空いてる」


 ジレルドーンの正面から南天方向に降下し、そこから要塞底部へと向かって飛行した。そのコースに、ぽっかりとザナスト機の少ない空間が形成されている。


「その破壊の槍(トランキオ)は諸刃の武器でもあるのさ。振り回せば味方も傷付ける」

 現実を突き付ける。

「偶然に頼るから実際には撃破数はそんなに稼げないよ。でも、ザナストのアームドスキンはトランキオの傍から退避するしかなかったんだよね」

「その結果がこれだと?」

「その通り。綺麗な突入経路を作ってくれてありがとう」


 南天方向へ降下したリヴェリオンはそこから要塞底部へと向かって進んだ。まるで掘り進んだかのような敵機のいないトンネルができあがっていた。

 そして、そこへ雪崩れ込んできたのはエヴァーグリーン所属のアームドスキン部隊。要塞底部から内部へと侵入し、ジレルドーンの防御磁場を消失させる作戦に当てられた五十機である。


破壊神(ナーザルク)! お前はぁ!」

 トランキオは当然、突入部隊を阻止すべく動こうとする。

「それは困る。ここからはちゃんと相手するからさ」

「ぬぅっ!」


 回り込んだリヴェリオンが下からビームブレードで斬り上げる。歪曲場が作用してブレードも曲がって本体には届かない。だが、ユーゴの意図したのは注意を引くことだった。

 右のフランカーには仮想力場砲身が形成されている。ブレイザーカノンを放つのではない。透過性の黄色い円筒を歪曲場へと突き入れる。歪曲磁場は力場に押し退けられて作用しない空間を作り上げた。


「くっ!」

 勘が働いたのか、アクスは咄嗟に機体を急加速。

「駄目か。惜しかったなぁ」

「近接距離に入れるのも危険だというのか!」

 力場砲身内を走ったフランカーショットは虚空を貫いていった。


 完璧な鎧であるかのように思えるトランキオの歪曲磁場もいくつか攻略法があると分からせる。これでアクスはユーゴを無視できなくなった。油断していれば撃破される可能性が低くないと思わせたのだ。


(あとは突入部隊を邪魔しないようなフィールドに移動すれば出来上がりっと)


 場を整えた少年は二人の戦闘宙域を模索する。


   ◇      ◇      ◇


「アームドスキン隊、要塞内部への突入に成功しました!」

 艦橋(ブリッジ)内にワッと歓声が上がる。


 ラティーナの胸にも喜びとともに安堵が湧き上がる。その局面に達するまでかなりの我慢を必要とすると考えていただけに、この速やかな突入成功は僥倖と言える。


(やっぱりユーゴはきちんと働いてくれた。これで批判の声も収まるはず)

 全面的に彼の手柄と言っても過言ではないだろう。


「全隊に通達。戦列、下げ」

 2D投映パネルのオービットが命令を飛ばす。

「戦線を後退させて混戦状況を控え目にします、閣下。消耗を抑えるためです」

「任せます。続けて」

 フォリナンも同様の指示を与えている。

「南天方面に移動。突入部隊を追わせるな」

「今しばらくお待ちを。朗報があるでしょう」

「期待しています。リヴェリオンは?」

 オペレータに確認する。

「北天方面に戦闘場所を移動させています」

「ありがとう」


(指示する必要も無い。ユーゴは戦況が読めている)

 むしろ全体がコントロールされているかのようだ。


 あとは待つだけ。時間は長く感じるが、実際には数分のことだったと思う。突入部隊からの破壊成功の報と同時に、センサー類がジレルドーンの防御磁場が消失したのを告げる。再び艦橋に歓声が沸いた。


「全艦前進! ビーム砲塔、全門発射準備!」


 ラティーナは立ち上がって正面を指し示した。

次回 (翻弄されているというのか!)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……良いように使われましたねぇ……アクス……。 自分の事しか考えないアクスの限界か?
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