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機動要塞ジレルドーン(8)

「イオンジェット加速器四本のうちの上部及び左舷を貫通しております」


 誘爆の危険は無いものの、推力に偏りが出てしまう状態では転進しても加速できない。姿勢制御用のパルスジェットを使用すれば多少は推力が得られるが十分ではない。


「応急処置を施しますがしばらくは航行に支障あり」

「修理、急ぎなさい」

 奇妙な切迫感をラティーナは感じている。

「状況、確認しました。エヴァーグリーンは後退を。アイアンブルーを前に出します」

「万一を考えてそうします。アイアンブルーは前へ」


 オービットの提案に従い、パルスジェットでエヴァーグリーンを後退させるよう命じた。右舷に居たアイアンブルーが前進して直前に入り込み、被弾したレクスチーヌも右舷に後退してきた。正面にはオルテーヌが前進している。


「戦況は?」

 視界を圧するアイアンブルーの巨体。情報はデータリンクでの確認になる。

「ひとまず直掩部隊を近衛隊指揮下に置き、アイアンブルー前面に展開しました。戦闘宙域からの飛来する敵機は続いていますが対応できています。トランキオはユーゴと交戦中」

「監視は継続。戦線は維持させなさい」

 マルチナの的確な指示に安心感を覚えつつも、収まらない胸騒ぎに困惑する。


(何か見落としている気がする。大事な何か)

 それが胸騒ぎの元だと思うが思い付けない。

(悪い予感は当たるもの。こんな対処が難しい時にこそ……)


「ば、爆発光……、いえ、イオンジェットの推進光です! ジレルドーン後方!」

 投映された拡大画像には、後光を背負うような機動要塞の姿。イオンジェットが長く棚引いているのが確認できる。

「異変です! 本体が……、要塞本体が上にずれていきます!」

「どういうこと……?」

「基部となる岩塊が切り離された模様! 基部岩塊、加速します! 正面、直撃コースです!」

 観測員(ウォッチ)の幾度目かも分からない悲鳴。

「ち……がう……」


(あれは基部なんかじゃない。遊星砲弾だわ!)

 ようやく自分の勘違いに気が付いた。

(機動要塞に基部なんて必要ない。そんなものを付けていたって重たいだけだもの。ザナストはあれをコレンティオに落とすつもりで運んできたに違いないわ。エヴァーグリーンが航行不能に陥ったと聞いて、ぶつけて破壊するつもりになったのね)

 ザナストの作戦に戦慄する。

(そう。ジレルドーンに厚い装甲なんて不要だと考えた理由もそれ。遊星砲弾を前面に押し出して進撃する策略だった。それをちょっと早めただけ)

 それがどういう事態を招くか容易に想像できる。


「閣下、エヴァーグリーンを全力で後退させてください。時間稼ぎをします」

 オービットが告げてくる。

「パルスジェットは生きています。回避くらいはできるはず」

「おそらく岩塊にも反重力端子(グラビノッツ)が搭載されております。軌道変更も可能なはずです」

「あの遊星砲弾にはそれほどの機動性が?」

 彼女の焦燥はいや増す。

「遊星砲弾とは的確なネーミングですね。そうです。あれには追尾する機能も備えられているものと考えられます。対策を考えますのでまずは時間稼ぎを」

「ふぅ……。任せます」


 ラティーナは回避する名案を即座には出せなかったのだ。


   ◇      ◇      ◇


(動いたか。司令部も間抜けではなかったと見える。そうでないと報告した価値がない)

 アクス・アチェスは鼻で嗤う。


 ジレルドーンは要塞本体と、資源採取済みの岩塊の残りに精製スラグを吹き付けた岩塊で構成されている。金属精製の際に発生するスラグは比重が高めである。本来は廃棄される物だが、岩塊を質量弾体として利用するのに都合が良かったので再利用されたのだ。首都コレンティオへ向けて撃ち放つ目的にはちょうどいいと判断された。


(ゼムナ軍の氷塊落とし。壊滅作戦の復讐には持って来いだとか司令部はうそぶいていたな。くだらん執着だ。今更復讐もない。必要なのは支配圏を確立することだろうに)


 彼にとってはザナスト首脳部も凝り固まった老害だ。然るべき地位を得た暁には真っ先に排除すべきだと思っている。

 独立の英雄となれば、今の主力を担っている若い層はアクスの支持に回るだろう。そうなった時は率先して新たな道を示してみせねばならない。彼自身の栄光への道を。


(それにしても少し無理をし過ぎているか)

 繰り返し眩暈に襲われている。

(どんな機体に乗ってさえ未だかつて平衡感覚を失ったことなど無いが、時々一瞬分からなくなる時があるのは困るな。休息が必要か)

 しかし、ガルドワの白い協定機とまともにやり合えるのは彼だけだと思っている。

(もう少し速度が乗るまでは足留めしておかねばな)

 質量弾体の速度を確認する。


 予測まで含めた四射のビームもリヴェリオンは回避してのける。固定兵装が放つ光は日増しに強くなり、今や残像を生むほどになっている。それに惑乱されるほどに視界が危うく感じていた。

 細く絞ったビームが宙を両断する。歪曲力場で掴んで明後日の方向に逃がすが、その角度が緩んできたように思う。掴みが甘くなっていると思えた。


(仕方あるまい。この辺りで十分だろう。速度と機動性を加味すれば、あの緑色の旗艦もひとたまりもないはずだ)

 岩塊の軌道要素に目をやり、ジレルドーンへの帰投を決意する。


 アクスはその瞳が充血で真っ赤に染まっているのに気付いていなかった。

次回 「何をしているのです、オービット!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 このエピソードは某・ガ○ダムを思い出します。 ……言っちゃいます? 「リヴェリオンは伊達じゃない!」
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