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機動要塞ジレルドーン(7)

 数的劣勢は如何ともしがたいのだとユーゴは思った。戦闘宙域を抜けて艦隊方面に敵機が侵入しつつある。


(削り足りなかった。葉っぱ(・・・)との戦闘に入る前にもっと撃破しておかなきゃいけなかったんだ)

 元より厳しい局面とはいえ侵入されるのは早過ぎる。

(できる? やってみせるしかない)


 トランキオを相手しながら侵入したアームドスキンも撃破しないといけない。幸い、アクスの執着は本物に見える。リヴェリオンを自由にさせていれば、またブレイザーカノンの狙撃を受けると考えているはず。


(追ってくるよね?)

 意識を侵入機にも振り向けつつトランキオの様子を見る。

(え?)

 リヴェリオンとの交戦を放棄して艦隊へとイオンジェットを噴かしていた。

(な! 勝負を急いでる! 先に母艦を撃沈して戦局を傾ける気だ!)

 予想を外してユーゴは焦る。失敗したと思った。


「クランブリッド宙士、侵入機は直掩に任せろ! トランキオを撃破せよ!」

「言われなくても! 絶対にやらせるもんか!」

 苛立ちをオペレータへと向けてしまい後悔する。後で謝っておかなくてはいけないが今はそれどころではない。


「アクス、逃げるな!」

「貴様の相手は後からしてやる。母艦を沈められて悔しがる貴様の相手をな!」


(ぐぅ、挑発のためにそう動いたっていうの。どこまでも卑劣な)

 正々堂々などという理屈が通用する場所ではないと分かりながらも、焦燥が思考を空回りさせる。


『仮想力場砲身形成』

 このうえは射線を選んでブレイザーカノンで狙撃するしかない。


(くっ!)

 レクスチーヌの歪曲場内にまで入り込んだトランキオに拡散ビーム砲塔が発射される。しかし、如何に射角内のランダムな方向へと放たれるビームといえどもトランキオの歪曲力場で捻じ曲げられてしまう。

(やられる!)

 逆にトランキオのビーム砲門が装甲を貫き、爆炎と部品を撒き散らす。ただ、艦橋(ブリッジ)や機関部といった弱点への砲撃だけは直掩のボスト機がジェットシールドで防いでいた。


「好きにはさせん!」

 ボスト・レネンベルテが吠える。

「おおおっ!」

「雑魚が。ほざくな」

 溶け落ちたシールドコアを排出したアル・ゼノンがブレードを抜いて突出するが、三条のビームが各所を貫いた。

「ボストさん!」

「くぅ、ここまでか! ユーゴ、頼……!」

「駄目だぁー!」

 閃光が花開く。


 口うるさい指導教官のような存在だったが、ユーゴには頼れる先輩だった。奔放に戦場を駆け回る彼に不満げながら柔らかな笑顔を見せ、頭を撫でてくれたボストは爆炎の中に消えてしまった。


「ああああーっ!」

 後悔が荒れ狂う。

「アクスー!」

「うるさいぞ、小僧。まだこれからだ」

「もう許さん!」


 同じく艦隊内に入ったユーゴは、射線から全ての艦が外れた刹那の瞬間にブレイザーカノンを解き放つ。その場所では撃てないと思っていたのか、トランキオは直撃を受けた。だが、大火力の砲でも歪曲力場で拡散されただけに終わる。

 放散した重金属イオンはそれぞれの艦を包み込む歪曲力場の干渉を受け、周囲の空間を荒らした。一時的にカメラでさえ相互が確認できない状況になってしまう。


(それでも僕には視える)

 アクスの灯に向けて突進する。


「どうして!?」

 ところがトランキオも狙い違わずエヴァーグリーンへと向かっているようだった。

『あの機体には歪曲力場を詳細に感知するセンサーが取り付けられているのであろう。それで艦の位置を掴んでおるのだ』

「そうなの、リヴェル?」

「何をしても無駄だ。貴様のその妙な能力でもな。旗艦を沈めれば戦線は崩壊するだろう。む? 歪曲力場が発生せんだと!?」

 周囲のエネルギーの乱流が発生器に負荷を掛け、再構築できないようだった。

「容易に沈められると思ったか?」

「させるわけないでしょっと!」

 エヴァーグリーンにはエドゥアルドとレイモンドという優秀な直掩が付いている。

「ならばこうするまで」

「曲芸かい?」


 二人の放つビームをひらりと躱すトランキオ。砲門の装備されている背面を下にする。背面飛行のままエヴァーグリーンへと接近していった。

 エドゥアルド機が艦橋(ブリッジ)を中心とした主要部分を守り、レイモンド機が機関部の守備に回ろうとしている。しかし、高速機動のトランキオに加速が間に合わない。


「ちょおーっとマズいかもよ!」

「フランカー!」

「沈め!」

 レイモンドとユーゴからの砲撃を躱しつつ近傍を通過するトランキオの砲撃がエヴァーグリーンの後部を貫いた。

「浅いか!」

「そこまでって言ってる!」


 ブレイザーカノンのインターバルから復帰した右のフランカーも屈指して狙うリヴェリオンだが、その時にはトランキオの歪曲力場も復活していた。エヴァーグリーンとの間に機体を入れたユーゴは左のフランカーに仮想砲身を形成させて牽制する。


「ラーナ、脱出して!」

 旗艦へと呼び掛ける。

「待って、ユーゴ、今調査中……。対消滅炉(エンジン)は損害なし。誘爆の心配もないわ。あ! 推進機(イオンジェット)が一部損壊。エヴァーグリーンは現在航行不能よ」

「分かった。葉っぱは遠ざけておくから早く修理させて」

「急がせます。その間はお願い」


(やってくれたな、アクス。もう絶対にラーナに近付けさせたりしない)


 仮想砲身で威嚇しながらリヴェリオンでトランキオを追尾体勢に入った。

次回 (何か見落としている気がする。大事な何か)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 こうして見るとアクスは人間なんですよね……。(自分本位で利己的) 比べてユーゴは割りと最初から戦士的ですね?
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