機動要塞ジレルドーン(5)
ジレルドーンからの艦艇の進発は無さそうだ。数多く見られる発着口からアームドスキンが放出されているのが確認できる。
実際、機動性を度外視するなら搬送運用が重視される戦闘艦は必要ない。進発させれば攻撃目標にされるだけ。艦砲という砲台が増えたところでアームドスキン同士の戦闘では有効ではない。
それならば防空もしっかりしている要塞を防衛しつつの進撃が妥当だといえる。速度は問題にせず、ただ目標であるツーラへと向かっているのだから、そこまで守り切ればいい。
(だったら要塞本体にブレイザーカノンを撃ち込んで黙らせたいところだけど、やらせてはくれないんだろうしなぁ)
接近させてはいけない機体として最上位に定められているだろう。
(僕的にもアクスに勝手をさせるわけにもいかないし)
結局は双方抑えねばならない相手は決まっているということ。
「問題は数なんだけど、ずいぶんと投入してきたね」
『うむ、レクスチーヌからのレーザースキャン結果から推測するに三百は超えてくるであろうな』
正面からのレーザースキャンでは正確な数が計測できない。
「ターナ霧濃度もこれだけ上がっちゃうと何しても無駄だし」
『この密度では重力場レーダーなど当てにもならぬ』
「灯も見えてるんだけど、数える気にもなんない」
いかなリヴェルでも無茶な相談だ。
「この戦力規模が実情だとも思わないほうがよさそうだよね。あっちの本命は討伐艦隊じゃない」
『そういうことだ。削れば繰り出してこよう。その頻度から類推はできようが』
「その辺りが無難かな」
暫時投入戦力から全体像を把握しようと言っているのだが、結果もざっくりとしたものだろう。何もしないよりはマシ程度でも、討伐艦隊には精一杯詰め込んだ二百機しか無いのだ。戦力差を踏まえた作戦が無いと無駄な損耗を招いてしまう。
(悪目立ちしてみせるしかないか)
密集しているうちになら手立てもある。右のフランカーを回転させると仮想力場砲身を展開。ブレイザーカノンを発射する。
威力は高くともブレイザーカノンは径4mの重金属イオンビームに過ぎない。直撃させなければアームドスキン一機墜とすこともできない。偶然射線に捉えた六つの光球が生まれた。
(これはただの誘い)
かなりの数の編隊がリヴェリオンの白い機体めがけて動き始める。意識的に強励磁させたフランカーでターナ霧を分解して長く光の尾を引かせる。
(てきめんに集まってくれるし)
北天方向に回り込むように動いて更にプレッシャーを掛けると我先にと集団でビームを放ちつつ迫ってくる。ジレルドーンへの進路を封じる動きでもある。
(残念だけど狙いはそこじゃない)
慣性で飛びつつ転回し、両のフランカーで敵集団を指向。超高集束ビームを射出すると振り回して空間を斬り刻む。これがブレイザーカノンよりも効果的で、多数の閃光が花開く。負荷が大きく、一度撃つと長いインターバルが必要な方法だが密集する敵機には極めて有効打になる。
「どけ! そいつに挑んでもお前ら程度では話にならん!」
更に大きなターゲットも釣れる。そのために目立って見せたのだ。
「来たね、アクス・アチェス」
「お前を墜としておかんと爺どもがうるさいんでな、小僧」
「都合があるのはお互い様ってこと」
集中を高める。
不規則な軌道を取りつつ徐々に接近する。迂闊な急接近を許してくれるような敵ではない。
透過金属に浮かぶカメラから鋭い視線を感じる。上部の八門のビーム砲から時差砲撃をされればカノンインターバルは無いに等しい。まるでバルカンファランクスのようなビームの雨を躱す。そうしている限りはリヴェリオンもブレイザーカノンの起動時間が取れないのを読まれている。
ユーゴもトランキオの大口径砲の射線には入らない。少しは充填時間が必要なようだが、分析した結果はブレイザーカノンに比べると少し短めのようだった。その代わりに相当長いインターバルが必要だという推測だったが。
「それにしても愚かしいことだ。強大な軍を保有しながら、ガルドワは僅かな戦力しかぶつけてこない。嘗めているのか、それとも貴様らは捨て駒か?」
「こちらの事情は察しているくせに。そんなぬるい挑発には乗らないよ。解っていながら逆手に取ろうとするお前らのほうが卑劣だって認めないんだろうね?」
「それこそぬるい挑発だ。これは戦争。相手の弱点を容赦なく突いてでも勝利したほうが正しいと知れ」
変わらず攻撃は強引だ。トランキオを包み込む歪曲力場に絶対の自信を持っているのだろう。機動は直線的で一見隙だらけに見える。しかし、ビームカノンの一撃もフランカーショットも捻じ曲げられて、どこへともなく去っていく。
「勝利の目なんかないよ。それを造った人間に踊らされているだけだって分からないかな」
「はっはっは、愚行の極みだとは思わないか? いずれ食い潰される宿主だとなぜ気付かん。御せると思ったのが大間違いだ。このトランキオが量産されれば我らに抗せる軍などどこにも存在しない」
「驕りだよ。無敵じゃないって僕が証明してあげよう」
(だけど、墜としてみせないとそれも夢幻じゃないって思わせてしまうな)
隙を見定めるべく、ユーゴは冷静に敵機の動きに注目していた。
次回 「もっとも油断する時……」