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ハザルク(5)

 ラティーナ率いるザナスト討伐艦隊はゴートの黄道面を抜けて北天側に軌道修正を行った。レイオットから送られてきたアーセロイの航路データに合わせて修正したのだ。

 それまでも特務艦の辿ったルートからの予想目的宙域へと向かっていたが、それに微修正を加えた形になる。周辺探査の必要は無くなって加速はできるも、今度は遭遇戦に警戒せねばならず、進路にアームドスキンの哨戒を出しつつの航宙に変わっていた。


「敵機動要塞はやはりツーラから見て反対側になりますね。本格稼働には至っていなかったようです。が、時間を与えてしまった。ここからの動きは読めません」

 2D投映パネルからオービットが分析を伝えてくる。

「仕方ないでしょう。宇宙要塞の建設自体、ジレルドット攻略直前まで察知できなかったのです。何もかもが後手後手になっているのは否めません」

「諜報部さえ骨抜きになっている可能性もあるのですが、今は論じても手遅れですね。動乱終結後の組織改革に期待するしかありません」

「ハザルクの僭上(せんじょう)を許したのはボードウィンの落ち度でありましょう。お父様はそれなりの責を負ったうえで刷新をお考えになっています」


 通信で航路データを受け取って分析に回した後の私的会話の中で、レイオットはそれにも触れていた。ユーゴがジレルドットに取り残された民間人に行った演説は、彼の許可の結果として送ってある。それを確認した父は思うところがあったようだ。

 稚拙ながらも心に響く弁舌だったと少年を褒めていた。ラティーナはそれが我が事のように嬉しくて、つい話し込んでしまったのをちょっと恥じている。その辺りの感情までもは除き、経緯はオービットにも伝えた。


「あれは少年の夢です。社会というのは、人の業というのはそんなに簡単ではないでしょう。多くの時間を必要とします」

 どうにもこの副司令はユーゴに否定的だ。

「子供の夢を実現に近付けるのが大人の務めではないかしら? お父様はそう受け取ったのだと思いますよ」

「そう言わせてしまうのは我らの力足らずです。あなた様とてその子供に分類される年齢だというのをお忘れなきよう」

「名が許してくれません。ですけど、そう言ってくれるなら夢や我儘を語りましょう。頑張ってくださいね?」


 オービットの表情が僅かに緩む。クレバーな彼らしくない変化は、ラティーナに内心を伝えるためのもの。頼られるのを良しと感じていると教えたいのだろう。


(子供でいられる時間が少なかったのは不幸なのかも。でも、今は戻ったような感じがするのだけど)


 育ての母と呼べる人物の存在が彼女をそんな気分にさせていた。


   ◇      ◇      ◇


 Gに耐えながらセンサー類の反応に神経を張り巡らせている。宇宙空間でありながら反重力端子(グラビノッツ)の出力を5%まで下げている所為だ。緩衝アームで殺し切れない慣性Gがダイレクトに身体を苛む。


 グラビノッツは慣性力にも作用する。出力を大きくすることで、小さな推力でも加減速などのベクトル変更が可能になる。アームドスキンの機体各部に取り付けられたグラビノッツの突起(ターミナルエッジ)が慣性力も制御する。

 ただし、その効果が全てパイロットまでも作用するわけではない。一体物ではない人体への作用は限定され、様々なケースで変動するが平均して30%ほどの慣性力がパイロットへとGとして掛かる。


 当然、加減速の激しい宇宙空間では反重力端子(グラビノッツ)を効かせたほうが人体への負担は少ない。しかし、普通は70%から50%程度とされる。

 これは人体において、グラビノッツの作用が流体へより小さい点にある。慣性力によって血液などの体液が一方向へ偏れば体調に大きく影響するし、何より三半規管が甚大な影響を受ける。酩酊感に襲われるのだ。


 無理して反重力端子(グラビノッツ)の出力を下げているのは、そうすれば重力場レーダーに掛かりにくくなるからだ。出力50%でも異常変動として大きく検知されてしまう。

 特務艦に装備されていると情報のあった広範囲重力場レーダーは脅威である。電波レーダーの通りの悪いこの宙域で哨戒探知を行うのであれば、敵に先に探知されないような措置として一時的に出力を下げる操作をする。

 質量は厳然として変化しないので重力場レーダー上にも突出して検出される。しかし、ゴートのような惑星という大質量が近傍にあれば検出スライスレベルは上げておかねばならない。その盲点に滑り込もうとしているのである。


『あと10分ほどにするがよい。それ以上この出力で機動を続ければ汝の身体は戦闘に耐えられない疲労度に達するであろう』

 ヘルメットから投影されているリヴェルのアバターが訴える。

「うん、もう身体がつらいや。戻るよ」

『今の状態での遭遇戦は危険である。それが良い』

「ただ、こういうときに限って視えちゃうんだよね」


 ユーゴの能力が察知する。距離があるので詳しい規模までは分からない。だが、要塞と呼べるほどの人数ではない。おそらく敵艦隊だろう。


『ターゲットは済ませた。ともかく戻れ。休息を要する』

 σ(シグマ)・ルーン経由で彼もユーゴの視ているものを探知して記録した。

「ありがとう。帰ろう」

『心配せずともこれだけ離れていれば準備に必要な時間は十分にあろう』


 リヴェリオンを反転させると、噴射光を観測されないよう緩やかに加速した。

次回 「ずいぶんと幼稚な矜持だこと」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……そう言えば艦長もエースもミドルからハイティーンでしたね。 ロボットモノあるあるでしょうが、 本当ならそれをさせてしまうのは大人の不甲斐なさ……。
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