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ハザルク(3)

 スーツの前身頃を閉じモールを括る。一応は防刃素地で縫製されたものだが正直効果は気休め程度だと聞いている。

 それでもレイオット・ボードウィンにはこれが戦闘服なのだ。弁舌を尽くし、断を下し、平衡を取る。それが彼の戦いである。


「あなた、今日は?」

 妻のルーゼリアが服装に乱れがないか点検してくれている。

「ありがとう。これから軍特務部との懇談だ。サウギークが迎えに来てくれている。基地には近衛艦隊で向かうから何も心配は要らないよ」

「そうですわね。近衛の精鋭方であればあなたに万が一のこともないですわね」

「では行ってくるよ」

 キスを贈って手を振る妻に背を向ける。


(昔はラーナやサーナにキスをもらって出勤していたが、もう望めないな)

 レイオットは思い出に浸る。

(安全だと思っていた地でサーナを死なせ、ラーナに至っては私の命で戦場に行かせている。罪深い父親もあったものだ)

 そう思えば苦いものが込み上げる。

(創業家の名も地に堕ちた。従業する皆に豊かさをと思って巨体化したグループは身の内に病を抱えても分からないほどになってしまった。それが過ちだというのなら省みようがもう遅い。切り捨てるしかないほどに患部は腐っているようだ)

 責を問われる覚悟はできている。その前にすべきことを成さねばならない。


「待ったか、サウギーク?」

 運転手の操作で開いたドアに身を滑り込ませる。立哨していた彼も反対側のドアから専用車に乗り込んだ。

「何ほどでも。久しぶりの本来の任務に部下どもは喜びに震えております。自分とて身の引き締めて臨んでいますので」

「済まないな。今日ばかりは何が起こるか分からん。頼む」

「お任せください。会長の身に危害が及ぶようなことなどあり得ないと証明してみせましょう」

 近衛宙士の言葉に「心強いことだ」と返す。


 コレンティオの軍用ポートで近衛艦に乗り換える。艦橋(ブリッジ)に着いたらスキンスーツに着替えもせずに司令官席に座った。それは信頼の証だ。

 レイオットの様子を見て皆が敬礼する。返礼をすると中には堪えきれずに口元が緩みかけている者も散見される。咎めたりしない。その忠誠がある限り彼は前に進み続ける。


「通告無しで艦隊を乗り付ければ過敏な反応をするだろうか?」

 近衛隊司令サウギークは返答に困っている。

「識別信号と艦の近衛隊章を見れば穏当な対応をするはずですが何とも。逆に拒絶したり反意を見せたりするのであれば後ろ暗いことがある証明になりますから、こちらは楽になりますけど」

「一応は警戒態勢を取らせておいてくれ」

「既に戦闘待機状態にしてあります」


 特務隊基地にももちろん専用トラムを含めた搬送チューブが繋がっている。それなのに近衛艦隊で出向くのは、こちらが疑惑を抱いていると知らせる意図を示している。力をひけらかして反応を窺うためだ。


「第一関門はクリアか」

 規定通りの管制が行われてポートに着床する。

「発着のために操艦制御を寄越せとも言いませんでしたしね」

「歓迎はせずとも拒みもせず、というところか」


 民間ポートでは当たり前の自動管制制御ではなく、手動による管制と操艦での到着となったのでそう判断する。他意は無いと見せたつもりだろう。


「ようこそお出でくださりました、このような辺鄙な場所へ。今日はどのようなご用件でしょう、会長」

 特務隊司令のエイボルンが握手の手を差し出してくる。

「急にすまない。気紛れな視察に付き合ってくれたまえ。少しお話し(・・・)もしたいことだしな」

「喜んで。我らもガルドワ傘下の戦力。いわば会長の権力の一部ですから」

 軍服を着こなした相手は隙を見せない。


 基地の案内を受ける。特段変わったところは見られない。

 強いていえば多少古臭い部分が垣間見える。設備がこまめに更新されている気配がない。格納庫(ハンガー)においても、アル・ゼノンやアル・スピアも配備されているが、未だデュラムスも数多く見られる。


「不満は無いかね? 見たところそれほど潤沢な予算が配分されていないようだが」

「求めていないのも事実ですので」

 意外な反応が返ってきた。

「近年の活動は盛んではないだろうが、冷遇する気はないのだがね?」

「装備のことをおっしゃっているのでしょうね。好んであれらを使っているのです。デュラムスなどは長期に運用されていて信頼性が高いのです。必要なカスタムも施していますし。艦艇も同様。我らの武器は最新鋭兵装ではなくそれを使う人材なのです」

「真理だとは思うね」

 賛同できる部分は多い。

「人なくして組織は動かない」

「然りです。困難な任務に立ち向かわなければならない特務にとって、個人の技能と結束力そのものが不可欠なので」


 一見、職務に忠実な論調だと思える。しかし、凝り固まったような感じ、閉鎖的で独自性を重んじるように聞こえなくもない。

 その後の視察でも不審な点は見られない。実に統制の取れた組織になっていると思われた。ただ、レイオットにはそれこそが怖ろしく感じる。


「君たちの結束力というのは見せてもらえたように思える。ところがだね……」

 応接室へと案内されてから懸念を口にした。

「私が独自に動かしているザナスト討伐艦隊と特務艦アーセロイが交戦したのは知っていることと思うが」

「ほう、そのようなことが?」

「残念ながら事実だ。そこで君にアーセロイが従事している任務とその命令者を教えてもらいたいのだがどうだね?」


 エイボルンの冷たい視線に、レイオットは斬り込むような鋭い視線で応じた。

次回 「撃……つな……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 今回は上(裏?)でのやり取り……。 組織が大きくなると……ねぇ? 当初の夢や理想からは解離してしまうのでしょうか? (頭と手足が各々別方向を向いて……)
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