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ハザルク(2)

 リヴェリオンに同乗し、近衛隊機の警護を受けつつ旗艦エヴァーグリーンに戻ったラティーナは格納庫(ハンガー)でお土産のバスケットを開く。


「はふぅ……、ママンのスコーン、最高です」

 ヴィニストリは意地汚くも頬張りながら身体をクネクネと揺らす。

「はいはい、いい子だから食べたらちゃんと働きなさい」

「あい、ママン」


 相当量を焼いてきたつもりなのに、あっという間に整備士たちのお腹の中に消えていくスコーン。それはそれで心地良いと感じる。

 ジーン作のバスケットを死守すべく唸っていたヴィニストリも女性陣にくすぐられて奪われてしまった。泣きついた彼にジーンは「またそのうちにね」と宥めている。


「それで例の案件の調査はどんな感じなのかしら?」

 ラティーナは司令官の顔で問い掛ける。

「特務艦からの信号で特殊シーケンスが作動したのは確かなようです」

「検証は不可能になってしまったけど、普通はあり得ないソフトウェアが仕掛けられていたのは間違いないですよ、プリンセス」


 ヴィニストリとリズルカは、件の暴走爆弾と化した特務機デュラムスの調査を行っている。現物が失われてしまったので難航してしまっているが、発動に至る過程は様々な角度から調べが進んでいた。


「そういった仕掛けが特務機に施されているのは普通のことなんでしょうか、おば様?」

 彼女は門外漢で、誰に問い質すのが正解かも分からない。

「私もそっちはさっぱり。もしかしたら自爆させられていた可能性もあったと知ってゾッとしたもん」

「ですよねぇ。ヴィーンも特務のほうは明るくないのでしょう?」

「ソフトウェアのほうも多少は扱えますけど、僕も専門家には程遠いですって」

 諜報ではオービットに頼るべきだろうが、彼も技術的なことは詳しくない。

「あのデュラムスは爆散しちゃったんだから、別の機体を調べたらいいんじゃないかな?」

「別のって?」

「特務艦ってあの一隻だけじゃないんでしょ。コレンティオには他の特務部隊はいないの? いるならリヴェルに調べてもらえばいいと思うけど」


 この方面では頼りにならないと思っていたユーゴからの提案にラティーナは目から鱗だった。目の前になくても調べようと思えば調べられるのだ。


(そうだった。彼ならそれこそ人間の頭の中でもない限りは調べられる。それが現状として読み取れる処置ならば)


「お願いできます?」

『フレニオン回線を接続するがよい』

 彼女のパスコードで手近なコンソールからガルドワグループの上位回線に接続する。

「たぶん時間が掛かると思うけど」

「待ちます。いくらでも」

『そうは掛からぬゆえ、しばし待て』


 ユーゴは呑気に構えているのでチルチルもラティーナのアバター・サミルにちょっかいを掛けている。しかし、彼女の内心の焦りを反映したサミルに邪険にされて暗い顔になっていた。


『あるな。これであろう?』

 コピーらしき特殊シーケンスを可視化したリヴェルはスワイプの動作でリズルカのコンソールに転送した。

「これだ、僕が見たやつ!」

「間違いないのね。機密保持用の措置なのかハザルク関連部門だけの措置なのかまでは分からないけど。それでも、おば様に嫌疑が掛かって泳がされていたわけじゃないのは証明されたわ」

 ラティーナが懸念していたのはその点。攪乱工作の可能性が捨て切れなかったのだ。

「既存の仕掛けを発動させただけなのだとしたら、問題はトリガー信号のほうね」


 独立部隊として行動しているザナスト討伐艦隊は機密性も高い。いかに相手が友軍であろうが、特務という特殊な立ち位置にあろうが、通信回線をすり抜けるのは非常に困難なはず。それなのにトリガー信号は直接デュラムスへと送り込まれている。


「ログは吸い上げてある?」

「はい、それなんですけど……」

 リズルカはトリガー信号の経路の痕跡を表示させて見せる。

「どう見ても素通りしてるみたいなんです。読み間違ってるんでしょうか?」

「私にもそう見えるわ」

『正規のコード信号と認識しておるぞ。ブロックは機能しておらぬ』

 リヴェルも保証する。

「……暗号コードが漏れてる。だから電子戦警報が発されなかったのね」

「これはちょっと由々しき事態ね。あまり言いたくはないけれど、最も高い可能性は艦隊内部に潜むスパイの仕業かも」


 ジーンの指摘は正確だろう。日々、刻々と変更される暗号コードのパターンを把握しているのは一部の首脳部だけ。纏めてスケジュール設定しているとはいえ、それはラティーナが手ずから行っている。外部からの閲覧は不可能と言っていいだろう。


(向こうにリヴェルのような存在がいないと考えれば、機密は直接外部には漏れない。内部でスケジュールを吸い出して外に伝えているスパイがいない限り)

 最悪の事態が推測できる。

(お父様もずいぶん苦労して人選したはず。それでも紛れ込んでいると思わなくてはいけなくなった)

 苦い思いが胸中を駆け巡る。


「この件はちょっと保留にします。諜報の素人であるあなたたちを関わらせるのは危険だと思えるから」

 ジーンに背中を撫でられて判断が間違っていないと確信できる。

「特務のほうはお父様にお任せします。こちらはオービットと打ち合わせたのちに、手伝えることがあったらまたお願いするわ」

「はい、遠慮なくどうぞ」

『気遣いは不要であるぞ』

 リヴェルにも感謝を伝える。


 空気を読んで少し距離を取ってくれている近衛隊の二人も、今後しばらくは身近に置いていたほうが良さそうだとラティーナは思った。

次回 (罪深い父親もあったものだ)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……情報漏洩?ですか……。 身内スパイ説は連携の崩壊にも……。
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