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破壊神の秘密(6)

 ユーゴが十二歳になる前に、ジーンの元へ出頭指示が出た。その時期から訓練を施す計画らしい。ただし、彼女には子供を引き渡す気など欠片も無かった。


「ずいぶん悩んだわ。どうすれば渡さないで済むかと思って」

御者神(ハザルク)はあなたの住居を把握していたんですものね。ゴートは住居を放棄して生きていける場所ではありませんし」

 当時のことを思い出して眉根が歪むジーンにマルチナが同調してくれる。

「まずは一緒に逃げ出すことを考えたけど、ゴート上では不可能よね。ツーラの各都市では足が付きやすいし。星系を脱出したくても渡航便はコレンティオからしか出ていないし」


 他星系へ向かう航宙船は全て首都コレンティオを経由するようになっている。監視カメラも多く、一番捕まりやすい場所でしかない。


「指示を無視し続けるのは無理だったんですか?」

 ラティーナが問う。母親から子供を取り上げるのは、法的に容易ではないと考えたのだろう。

「無視すれば実力行使に出るだけ。ありもしない児童虐待の容疑をかけて、一時的に保護をする形で引き離し、なし崩しに取り上げることだってできるでしょ?」

「事実じゃないのに? 私たちが証言しても?」

「その頃はラーナたちがそんな発言権のある姉妹だって知らなかったし。子供の証言なんて簡単に揉み消されるものよ」


 ガルドワ警務部に働きかけるだけで公的にユーゴを強制保護できるのだ。ジーンもそれが可能な権力が組織にあると気付いていた。


「二人で逃げ出しても、どこかに隠れて暮らすのは無理だって思うようになったわ。どうしてもお金はいるし、わたしがカードを使っただけで居場所がばれてしまう」

 現金など手元に置いておけるものではない。

「ふと気付いたのよ。わたし一人だけなら伝手を頼って逃げられるかもしれないって」

「ユーゴくんを置いて、ですか?」

 マルチナは眉を顰める。

「ええ、調べてみたら、そうすれば強制保護は難しくなるって判明したの」


 両親が失踪して子供だけが残された時の措置に関して調べた。ガルドワグループの社内法では、その子供を施設等に保護するためには親類による保護申請もしくは本人の意思表示が必要になる。


「親類による保護申請をでっち上げる可能性はあったけど、それは無理だって思ったのよ」

 ジーンは理由を説明する。

「ハザルクは秘密組織であるのを徹底してたの。その措置を使おうとした場合、親類である証明のためにユーゴの遺伝子データが採取されるでしょ?」

「あ!」

「奴らにとって、それが一番不都合な事態なの」


 公的な機関の人間を使うために正式な手続きが行われる。それこそが秘密主義的な組織の一番の弱点であると見抜いたのだ。


「そうすれば誰かがユーゴに施された遺伝子改変に気付く可能性は残ってしまう。その僅かな可能性さえも厭うほどに連中は慎重だった」

「それに、ユーゴは自分から保護の意思表示はしない。おば様がいつお帰りになるかも分からないのに家を離れたがるわけがないわ。うちと力を合わせれば暮らしていけるって分かっていたから」

 ラティーナはジーンが導き出した結論にたどり着く。

「だからユーゴを置いて自分から姿を消したんですね?」

「うん、最初は一緒に暮らす手段ばかり考えてた。でも、その手段がなくて難しいって思い始めてから、この子だけでも自由に暮らせる方法を模索した結果なの。本末転倒だけど……、どれだけつらくても、それを選ぶのが正しいとしか思えなかった。わたしの人生はユーゴが全てになっていたのよ」


 今は触れ合った手が思いを繋げている。それだけで決断は間違っていなかったと思えるし、後悔などどこかへ飛んで行ってしまった。


「そのあとは、ほんのひと月ほどで捕まっちゃったんだけどね」

 ジーンは小さく舌を出す。組織はそんなに甘くなく、逃走行は失敗。

「一時的に軟禁されていたけど、ユーゴを迎えに行くのだけは拒んで、それ以外は従う意思を示したら、一応は組織の一員として扱われるようになったの。戦闘要員だけどね。たぶん、いつか利用価値が出てくるだろうって思ったんでしょうね」

「機会を狙ってらしたんですね?」

「ううん、この子の情報は一切与えてもらえなかった。少し前にユーゴ用のフィメイラの配送記録を偶然見つけたのよ。それで彼が今はパイロットになっていると気付けた」

 ユーゴが実験の過程に入ってしまったのだと分かった。

「脱走して合流する気になったわ。我慢している理由が全て無くなったんだもの」


 それから好機を狙っていたのだが、輸送任務の警備要員を命じられ、会長側の差し向けた討伐艦隊の情報を仕入れて脱走先に選んだのである。


「いくら何でもレズロ・ロパが大規模テロのターゲットになるだなんて思いもよらないですもんね?」

 事情に聞き入っている男性陣を代弁する形でマルチナが発言を続ける。

「それはどうかな? わたしがユーゴを連れて行かなかったから、かなり手筈が狂ったはずなのよ。もしかしたらザナストを使嗾(しそう)してレズロ・ロパをテロの対象に選ばせたのかもしれない」

「彼が被害に遭う可能性を考慮してもですか?」

「そのくらい手詰まりだったみたい」

 可能性の一つを口にする。

「つまり、ハザルクはザナストに繋がっている。そう断定してもよろしいですか?」

「それは間違いないわ。だって、乗っていたあの特務艦、行き先は宇宙要塞ジレルドーンだもの」


 ジーンの言葉に同席する全員が絶句した。

次回 「もう、おば様ったら!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 失踪の裏側ですね? それにしても、あらゆる可能性と手段を講じていなかったのは、 組織として……ねぇ?(裏組織なら更に) 裏切りは無い!と言う余裕? それとも考え付…
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