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破壊神の秘密(2)

「こち……元アル……軍所属、ジーン・……レル。接……艦艇、保護を要……る。繰り……す、こち……」

 懐かしい響きのある声にラティーナは仰天していた。


 その間にも中央甲板(デッキ)を白いアームドスキンが滑っていく。大加速の尾を引いて、驚くべき速度で飛び去っていきつつあった。


「ぜ、全艦、リヴェリオンを追尾! 急げ!」

 何とか働いてくれた声帯に感謝する。

「閣下、重力場レーダーにアームドスキンの反応はありますが、他に艦艇が存在していません。これは異常事態です」

「偵察機、出すべき?」

「いえ、あまりに不可解な状況です。まずは救難機の保護を優先します。聞き取れる範囲での予想が当たれば、彼女は間違いなくキーマンになります」


 2D投映パネルのオービットが素早い状況分析を伝えてくる。保護を要請してきた人物がどうして機密作戦行動中の討伐艦隊の存在を掴んだのか理由が不明なのだ。

 重力場レーダーに反応する艦艇が居ないのであれば、その人物はどうやってここまでやってきたのか? 電波レーダーでは遠距離探知は難しい状況でどうやって討伐艦隊へ向かってきたのか? 疑問だらけで警戒せざるを得ない。


(でも、この声は聞き違いようがない、おば様のもの。彼女はジーン・クランブリッド。ユーゴのお母様だわ)


 三年以上前に行方の知れなくなった人物のものだった。


   ◇      ◇      ◇


(母さん……。母さん!)


 ユーゴはその灯の色は知らない。能力を得る前に別れてしまったのだから。それでもはっきりと感じられる。灯から感じられる雰囲気は愛しい母親のものだ。


「速く! もっと速く!」

 シートを支える緩衝アームでも相殺し切れないGが少年の身体を苛んでいる。

『落ち着いて考えよ。このままではあの機体に合わせて停止することは叶わんぞ』

「そうか! ごめん!」


 全力で踏んでいたペダルを緩めて慣性飛行に移行する。彼方にガルドワ軍機が確認できる。味方を表す青いシンボルに量産機デュラムスの判定が出た。


「どこの所属機?」

 姿勢制御用パルスジェットまで総動員して制動するリヴェリオンにデュラムスのパイロットが話し掛けてきた。

「母さん!」

「えっ?」

 ハッチが開き、プロテクタが上がるのももどかしく感じながらユーゴは飛び出した。

「まさか……」

「僕だよ! 母さん!」

「ユーゴ!」


 デュラムスから姿を現した緑色のスキンスーツも、躊躇いもなく虚空へと身を躍らせる。二人は手を取り、ヘルメットバイザーの中を確認すると抱き合う。ずれたベクトルが重なった二つの身体をくるくると回転させた。


「ああ、ユーゴ……。こんなに大きくなって……」

 水滴がバイザーに散る。脱ぎ去りたくなるのを自制するのが精一杯。

「会いたかった。嬉しいよ」

「ごめんね。わたしも可愛い息子を置いていきたくなんかなかった。でも……」

「いいんだ。こうして会えたから。夢みたい」


 不満が無いといえば嘘だ。だが、再会したばかりの母親をなじりたいとは思わない。心の底から喜びしかないというのに。


『取り込んでおるところをすまぬが、このアームドスキンを制御下においても良いか?』

 リヴェリオンの手が二人のロールを止めてくれた。

「あら、しゃべるアバター?」

「ううん、リヴェルは友達。ゼムナの遺志」

「そうなの? あなたは協定者になったのね」

 ジーンに驚いた様子はない。

「びっくりしないの?」

「感情を殺す生活をしていたから変な癖が付いちゃったみたいね。お願いできる? 普通は外部制御なんて受け付けない機械なはずなんだけど」

『造作もない。必要なのは許可だけだ』


 リヴェルがデュラムスを把握し、パルスジェットで姿勢制御する。接近した機体を掴んで固定した。


「エヴァーグリーン、来てくれた」

 艦影が近付いてくる。

「アルミナ軍ザナスト討伐艦隊よね? そう言っていたもの」

「うん。母さんはどこから来たの? もしかして、あれ?」

 かなり遠い。人数も判然としないくらい離れているが人の灯が彼方に見える。

「分かるの? すごいのね。重力場レーダーでも圏外のはずなのに」

「宇宙だからぎりぎり。でも、もう追えそうにないや。追ったほうがいいのかな? そろそろ無線繋がるかも」

「この見たことないアームドスキンなら繋がるかもね。そっちにお邪魔しちゃおう。デュラムスは鈍くて嫌になっちゃうのよ」


 ユーゴは目を丸くする。知識としては聞いていても、パイロットとしての発言をする母親は初めてだからだ。ちょっと落ち着かない気分になる。


「聞こえる、ユーゴ?」

 リヴェリオンのアンテナを介してσ(シグマ)・ルーンに回線が繋がった。

「聞こえるよ」

「保護要請機とは接触できたみたいだけど、間違いない?」

「ん? この声はラーナなの?」

 ジーンも気付いたようだ。

「……はい、お久しぶりです、おば様。ご無事で何よりでした。よろしければ我が艦隊にお越しいただきたいのですけれど問題はありませんでしょうか?」

「我が艦隊ね。零れ聞いてはいたけれど、そういうこと」

「お聞きしたいことが山ほどあります。が、とりあえずは要請に従い、貴官の保護に当たりたいと考えておりますが不都合であれば要望をお聞かせください」

 途中から公人として対応を始めたラティーナ。

「ないわ。情報提供を約束します。そのために脱走してきました。でも、ちょっと休ませて」

「喜んで」


 二機は伴ってエヴァーグリーンへと加速を始めた。

次回 「ジーン・メレル? クランブリッド?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 突然お母さんが登場!? ……物凄い訳ありですね?(失踪含め)
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