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戦う意味(11)

 陸戦隊による銃撃戦は続いている。遮蔽物の少ないプラント内部では身を隠す場所が他になく、どうしても通路の曲がり角を利用した撃ち合いしかできない。


「負傷者は後ろに回せ! トリガーを絞る元気のある奴は撃ちまくれ!」

 アイアンブルーの陸戦隊長ビルフォードは吠える。

「時間がないぞ! 押せ押せ!」

「発煙弾を撃ち込んだら一気に突進するぞ。タイミング合わせろ」


(もう八分を切ってる。頼むぞ)


 派手な攻撃と無理な突進をしているのは焦っていると思わせるため。フリスタンが率いた二十名の別動隊が別ルートで回り込もうとしているのを誤魔化すのに必要な作戦である。それ故に負傷者も増えているが、ここは耐えねばならない。


「煙ってたらレーザーが見えるだろ? 躱せよ」

「馬鹿言うな! そんな芸当、誰ができるってんだ!」

「撃たれるなら足とかにしとけ。可愛い看護師に介抱してもらえるぜ」

「だからって俺を盾にするんじゃねー!」


 皆が空元気を振り撒いている。内心怖ろしいのをそれで押し隠しているのだ。そんな隊員たちを鼓舞しつつ、ビルフォードも声を張り上げる。


「生きて帰ったらたらふく飲ましてやる! 俺の奢りだぞ!」

「おおー!」


 煙の向こうにうごめく影に向かってライフルのトリガーを絞った。


   ◇      ◇      ◇


 吉報が届かないまま、時間だけが過ぎていく。ラティーナは手足の震えを悟らせないために踏ん張っていなければならなかった。

 喉が渇いて仕方がない。無重力タンブラーの吸い口が揺れて上手く咥えられない。それでも平静を装わなくてはいけない立場だ。


「閣下、あまり時間がございません。ご判断を」

 討伐艦隊全艦のビーム砲塔は第二恒星プラントを照準している。彼女が命じただけでいつでも破壊できる。

「まだです。まだ時間があります」

「そうでもありません。周辺のアームドスキン隊を退避させなくてはなりませんので、決断後も少し時間が必要です」

 オービットが判断を迫ってくる。

「お分かりになっているでしょう? 技術士を含めた突入隊百三十五名と、コレンティオ三億七千万市民の命。どちらかが重いのかを。あなた様はそういう教育を受けて育っていらしたはず」

「ええ、そうよ。人命の重さを知っているからこそ信用して待たなくてはならないのです。あの百三十五名を見殺しにすれば、わたくしはこの椅子に座っている資格を失います。誰も付いてきてくれなくなるでしょう」


 表立っての命令には背いたりはしないだろう。しかし、ぎりぎりの局面では彼女の判断を信用してくれなくなる。指揮系統が崩壊してしまうのは間違いない。そうなれば父はラティーナを呼び戻す決断をするとしか思えなかった。


「ならば、せめてお任せください。私の責任において攻撃の判断をいたします」

 彼は淡々と告げてくる。

「駄目です。許しません。まだこの戦場における責任はわたくしの手にあります」

「オービット副司令、あまり急かすものでない。閣下にもお考えがあるのだ」

 フォリナンがフォローを入れてくれる。

「あまりお待ちできませんよ?」


 オービットから開かれている2D情報パネルはそのままで、別回線の表示が出る。彼女のσ(シグマ)・ルーンから秘匿回線を通じた声が聞こえてきた。


「あなた様が汚れる必要はありません。ただ一言『任せる』と言ってくださればいいのです。それで経歴が傷付くことはありませんので」

 魔の囁きに似ている。

「そんなことに拘っているのではないのです。私の名誉などどうでもいい。いざとなればきちんと命じます」

「では僕の暴走という形で済ませましょう。もうお傍にいるのは無理になるでしょうが、悔いたりはしませんよ」

「やめてください。あなたの忠義心は嬉しく思います。どうか信じてください」


 多少重いが、嘘偽りないものだとラティーナにも感じられている。


    ◇      ◇      ◇


(強情な方だ)

 オービットは心中で苦笑する。

(それでも上に立つ方として情も持っている。頂くに値する器を持っていらっしゃるからこそ、こんなところで終わらせるわけにはいかないのですよ)

 彼に二度と微笑みかけてくれなくなったとしても、彼女を守りたいと心から思う。


 コンソールに受信が入った。コレンティオからだ。相手は予想通りレイオットだった。


「もうしばらく待て、オルバ。ぎりぎりまで好きにさせる」

 尊敬する上司は寛容さを見せる。

「これも経験だとお考えですか。厳しい方だ」

「それはお前が一番よく知っているだろう」


 見込まれ重用もされたがレイオットは甘い人間ではなかった。いつも要求は過大で、結果を求められる。それに応えてきたから信頼を勝ち得るに至ったのだ。


「だが、僅かでも迷うようならば私が命じる。砲撃命令だけ下せばいい」

 レイオットは宣言する。確かに親子だと思えて笑いを隠さなくてはならなかった。

「あれには少し荷が重かろう」

「了解いたしました」


 陸戦隊は善戦しているようだが結果は出ず、現場は混迷したままだ。最後にラティーナが笑っていられる結果を彼も願っている。


「あと五分ある! もうちょっと待って!」

「え、ユーゴ!? どこ?」

「集束リングの基部。ケーブルに向かっているから」

 あの少年がプラント内部に侵入しているらしい。


(なんてことを! これではラティーナ様は絶対に撃てないではないか!)


 オービットは珍しく青褪めるという醜態を周囲に見せてしまった。

次回 「どうして俺の欲望だけ否定できる」

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