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戦う意味(8)

(なぜ? どうしてそんなことを?)

 ラティーナは速まる動悸を抑え、冷静であろうとするが上手くいかない。


 反物質を危険な外縁に備蓄したまま戦闘に突入する理由が思い付かない。最悪、自分たちまでもが対消滅反応に飲まれる危険性を残して何がしたいのだろうか?


「何のために?」

「情報が足りません。今のところは不明です」

 投げ掛けた質問ではなかったが、オービットが律儀に答えてくれる。

「第2プラントを占拠し続けたい意図でしょう。その理由までは分かりかねますが」

「そこまで反物質の確保が必要ですか? 戦闘を優位に運ぶためにリスクまで負うほどの?」


 反物質は効率の良い動力源である。その利用が実用化したからこそ人類の宇宙活動の自由度が上がったといっても過言ではないほどだ。

 アームドスキンに装填する小型の反物質コンデンサパックでさえ、機体に72時間以上の稼働を可能にしてくれる。


「備蓄分だけでもかなりの継戦能力を有するだけの量があったはずですよ?」

 疑問は尽きない。

「違う理由があると考えたほうがいいでしょう。占拠し続けたところで、プラントはじきにウォノの向こう側へと沈んでしまいます」

「発覚するのも時間の問題。この状況も考慮のうちだったからこそ外縁の反物質だけ放置しているわけですから」

 オービットもフォリナンも理由に言及できるほどの材料を持たない。

「情報がフェイクである可能性もあります」

「確認させましょう」


 現状を引き出したのは発着場のコンソールからだ。細工をされている可能性は無きにしも非ず。


『事実だぞ。カメラ映像でも確認できる』

 悪い意味でリヴェルに保証された。

「そこから内部の状況が分かりますか?」

『敵手が入り込んでいるのは分かるが、何を企図しているかは不明だ。ソフトウェア的な細工は我には見えん』

「ありがとうございます」

 彼に確認できないのなら特殊な工作はされていないのだろう。

「聞いての通りです」

「調査させるしかありませんな。技術士を入れては?」

「それしかなさそうですね」


 ラティーナは陸戦隊に技術士を警護させつつ侵入の指示を出した。


   ◇      ◇      ◇


「フリット、侵入指示だ」

 アイアンブルーの陸戦隊長ビルフォード・ネットンが伝える。

「そうだな。首脳部も状況が掴めんらしい」

「不謹慎だが、こんなことでもなければ我らの活躍の場はない。上がるだろう?」

 エヴァーグリーンの陸戦隊長フリスタン・ラガスも片腕を上げて応じる。

「さあ、行くぞ、ビル。お客さんをエスコートだ」

「女性相手のときのように足並みを揃えてな」

 技術士に配慮を見せながら突入を開始する。


 ところが、整然とした行進はいくらも行かないうちに乱されてしまう。後方で爆発が起こり、熱波が押し寄せて防御態勢を取らなくてはならなかったからだ。


「何事だ!?」

 ビルフォードは確認を急ぐ。

「発着口で爆発です! どうやら爆発物が仕掛けられていた模様!」

「確認してこい!」


 数名の隊員を向かわせると発着口は爆炎に焼かれていた。護衛のアームドスキンはジェットシールドを展開して事無きを得たようだが、輸送艇は航行不能に追いやられている。


「く、帰投不能か」

「退路を断たれたな。これも敵の作戦だぞ。明らかに侵入を予想されていた」

「孤立させられたな。指示を仰ごう」


 両隊長はエヴァーグリーンとの通信に耳を傾けた。


   ◇      ◇      ◇


「発光はやはり爆発だったようです!」

 観測員(ウォッチ)が叫ぶ。

「誰からの報告?」

「陸戦隊からです。侵入部隊は健在」

 ラティーナはホッと胸を撫で下ろす。

「しかし、輸送艇は損壊した模様。現状撤収は不可能だと伝えてきました」

「外縁には反物質。中には陸戦隊と技術士」

「人質を取られましたな」

 完全にプラントは攻撃不可能になってしまった。

「でも、内部にはザナストの工作員も居るのでしょう? 条件は変わらないのでは?」

「承知の上のようです。ほとんどビーム光も見えなくなりました」


 第2プラント近傍の戦闘宙域ではイオンジェットとビームブレードの光が閃くだけになっている。いつになく地味な戦場に見えてしまう。


「ここまでしてプラントを守ろうとするのは異常です。明らかに何らかの意図があるものと思われますね」

 あまりにきな臭いとオービットは言う。

「調べなくてはならないでしょう。今は帰投のことを考えずに陸戦隊に調査させることを進言いたします」

「そうね。それしかなさそうです。通信を。両陸戦隊長に調査の続行を指示してください。ただし、分散は厳禁です。何か判明し次第、別途指示すると言っておいてください」


 ザナストの工作員にも戦闘部隊が存在すると考えるのが順当だ。調査を焦るあまりに分散すれば個々の危険度が増すだけだと彼女は判断する。


(これから何が起こるというの?)

 悪い予感ばかりが頭をよぎる。


 その時、散乱用重力レンズが明滅を繰り返したかと思うと消滅する。レンズを形成していたリングはレーザーに焼かれて赤熱し、溶けて蒸発した。


「か……、回避ー!」


 反物質生成用の超高出力レーザーが宙を貫いて伸びた。

次回 「やっぱり待ち伏せていやがったな」

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