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戦う意味(7)

 先行させたアームドスキン四機編隊が第2恒星プラント近傍にザナスト艦隊が未だ駐留しているという報を持って帰る。各艦の艦橋(ブリッジ)は殺気立ち、通信が交錯する。


「全機発進準備! レクスチーヌを先頭に隊形を構築しつつ前進!」

 ラティーナが即座に奪還に向けた指示を出すが、オービットは制止に掛かる。

「お待ちください、閣下。敵艦の駐留には作為的なものを感じます。艦載機部隊を先行させるだけで、艦隊は距離を取りつつ戦況を見るべきです」

「聞けません。戦力だけを繰り出して、撤退支援もできない状態を作るつもりはありません」

「御身の重要性をお考えください」

 口を酸っぱくして告げている台詞だ。

「問題ないわ。彼は絶対に私に被害が及ぶような状態を作りません。安心なさい」

「それは過信というものです」

 耳に痛いだろうが言わなくてはならない。


(或る意味、これが一番の懸念だったのだ。協定者の力を過信するあまりに危険に鈍感になる。判断に余念が混じれば綻びの原因でしかない)

 オルバ・オービットが怖れていた状態になりつつあると感じる。


 厳しい指揮官教育をくぐり抜けて三十四歳の若さで三杖宙士の階級まで得たのは、彼を見出してくれた彼女の父レイオット会長への恩返しの意味はある。それ以上にレイオットは仕えるに値する人格者であると感じたからだ。

 ラティーナを初めて目にし行動を探っている間、彼女の言動や心配りから父親以上の器を感じた。将来のガルドワを背負って立つのは彼女以外にあり得ないと思う。だからこそ傍近くに仕え、盛り立てていきたいと思った。


(協定者の存在は大きい。利用価値など論ずるまでもない。だが、所詮は人間。人格が伴わなければただの力。不確定要素が多過ぎる)

 それ故にラティーナがユーゴ・クランブリッドという少年を近くに置くのを危険と感じた。

(彼女なら御するのも可能だろうが、あの協定者はときに感情に流されるところが見受けられる。ゼムナの遺志がサポートに付いているといっても、いつ暴走するか知れたものではない)

 状況次第でそれも利用できなくもないが、あまりに近いと策を弄する時間もない。だから距離を置くよう進言し続けているのだ。


「案じてくれるのには感謝しています。でも、これが私の姿勢だと理解してください」

 そこにはラティーナの願いもこもっていた。

「差し出口を。どうかお気を付けください」

「果報者ね」


(本意でない意見をしたのに、こうして僕を信頼してくれる。その大器に惹かれているのだと分かってくださっているのか)


 命を賭しても仕えるとオルバは決心を新たにするのだった。


   ◇      ◇      ◇


「第2恒星プラント、アクセスコードを受け付けません!」

 通信士の報告にラティーナは眉を下げる。

「すべての手段は講じたのですね?」

「はい、こちらからは内部の状況が全く把握できません」

「……輸送艇の発進準備を。技術士を選定して陸戦隊員とともに送り込みます。エヴァーグリーン、アイアンブルー両艦から六十名ずつ、計百二十名の陸戦隊員を突入させなさい」

 技術士を警護しつつの突入作戦を指示する。


 プラント内部の状況が確認できなければ無闇な攻撃などできない。反物質にはデリケートに接しなくてはならない。


「輸送艇の警護は四機編隊二組に合わせ、グリファス一杖宙士とクランブリッド二金宙士を。確実にプラントまで送り届けさせます」

 大胆な指示を伝える。

「お任せを。直掩は任せたぜ、エド」

「行ってこい、レン。こちらは心配要らん」

 ここは堅実なエドゥアルドではなく柔軟なレイモンドを投入した。


「全機、砲撃は絶対に禁止だ! 分かってるな?」

 スチュアートの声も響いている。

「はー、厳しいよぅ。向こうは撃ってくるし」

「プラントを背負わせなけりゃいいのさ、メル」

「簡単に言うけどさー、それでも撃ってきたら、フレア?」

 パイロットは自衛のために色々と考えてしまう。

「そうしたらプラントの中にはもう反物質は無いってことじゃないさ。遠慮が要らなくなる」

「洒落にならない冗談はやめるの、二人とも」

 リムニーがちくりと言う。

「ええ、確認するまで砲撃禁止でお願いしますね」

「申し訳ありません、司令官! お前ら、いいかげん馬鹿はやめとけ!」


 そうして無駄な緊張感をほぐすのが彼らの流儀だ。ラティーナとていちいち咎めたりはしない。彼女の緊張も少しほぐれた。


(それでも難しい戦闘を強いるしかない)

 プラントの周囲に展開した敵アームドスキンからは砲撃が来る。それを縫うように青い機体が滑り込み、ブレードの光が円弧を描き始めた。

(状況が早く掴めれば制限は解除できるはず。普通に考えれば内部に反物質はあまり残っていないのよ)

 焦りに唇を噛む。


 白い軌跡が戦場を駆け、道を切り拓いていく。彼女の感覚では遅々として進んでいなかった輸送艇がようやくプラントへと到達しようとしている。


「ひゃー、厳しいねぇ。さてさて、ここから我慢比べだ」

 輸送艇を送り届けたレイモンドが安堵を漏らしている。

「速やかな状況確認を」

「お待ちください」

 胃が痛痒を伝えてくる。


 発着口を背にリヴェリオンが砲台と化している。敵機は近付きもできずに撃墜されているのが望遠で確認できる。


「報告!」

 待ちに待った連絡だ。

「プラント外縁に相当量の反物質コンデンサパックの備蓄が確認されました!」

「なんですって!? ほ、砲撃禁止を続行!」


 思わず声が裏返ってしまったラティーナだった。

次回 「さあ、行くぞ、ビル。お客さんをエスコートだ」

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