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戦う意味(6)

「報告です! 連絡を絶った恒星プラントに向かった調査艇が付近にザナスト艦隊を発見しました。奪取され、反物質を盗まれているものと思われます」

 通信士からの報告にラティーナは腰を浮かせた。

「すぐに向かいます。全艦に通達」

 エヴァーグリーンの艦橋(ブリッジ)はにわかに慌ただしく動き始めた。


(これまで輸送艦からの強奪で済ませていた反物質エネルギーの確保に乗り出してきた。それだけの規模の戦力を保有しているということ?)

 またはその準備段階だろう。


 何にせよ、ようやく掴んだ動きである。急行してプラントを奪還し、情報を入手せねばならない。討伐艦隊全五隻は恒星ウォノへと進路を取った。


   ◇      ◇      ◇


 俗に恒星プラントと呼ばれる反物質生成プラント。恒星光エネルギーを使用して反物質を生み出す施設である。


 遠望すれば、穴をウォノに向けたチューブ状の構造体。

 恒星側の穴の入り口には重力レンズが設置され、そこで受ける恒星光を超高出力レーザーへと収束する。そのレーザーが中空の部分を通過する際に、真空の揺らぎの中から物質と反物質を引き剥がして発生させる。

 中空内の壁面付近には磁場ネットが設置され、反物質を誘引して取り込む。それを反物質コンデンサに充填して可搬状態まで仕上げるのが反物質生成プラントの仕組みである。


 それらの作業は完全無人化され、搬送も航路をインプットされた無人輸送船で行われる。なにせ、かなり恒星の近くに設置される施設。住環境としてはかなり悪い。そのうえ事故が起これば対消滅反応により人命は絶望視しなくてはならない。それらの理由から、故障信号が発せられない限り、半年に一度の定期メンテナンスしか行われない。

 ところが、今回第2プラントから故障信号も発せられないまま輸送が途絶えた。不審に思ったガルドワがプラントへ調査艇を向かわせると、ザナスト艦隊が駐留して反物質を奪っていたのである。


「普通に考えれば撤収している可能性が高いでしょう」

 通信画面のオービットがラティーナに告げる。

「定期輸送船が到着しないことに気付いたのが二ヶ月半前。それから調査が決定され、調査艇が現地で奪取を確認したのが二週間前。急行しても到着は十日後。ザナストが半物質コンデンサパックを全て搬出するには十分な時間です」

「先行させている偵察隊も艦隊進路の確認をさせているだけです。敵との遭遇は偶然に頼るしかありませんね」

 フォリナンも懐疑的だ。しかし、手掛かりがない。

「それなりの規模の戦力が駐留していたようです。航跡探知で方向くらいは計算できるでしょう」

「おそらく航路にもフェイクを交えているでしょうから目途にしかなりませんが」


 ラティーナが勉強中の宇宙戦闘に関する知識から可能性を模索するが、専門家は雲を掴むような話だという。昔の航宙技術と違って、反重力端子(グラビノッツ)を搭載した艦艇は惑星重力などを加味した航路計算など不要なので航跡は絞りにくいのだそうだ。


「艦隊を動かしたのは早計でしたか」

「可能性が僅かでもある以上、動くか動かないかは賭けのようなものです。司令官閣下の運に頼りましょう」

 フォリナンがフォローしてくれる。

「ありがとう」


 反物質生成プラントは、惑星公転面と同じく第一惑星ドーラルの少し外方の軌道に等間隔で八基が設置されている。公転速度はゴートの二倍。恒星の裏側でない四基から常に反物質が搬送され続ける。

 恒星の裏側を公転している間は備蓄状態になり、輸送船が到着するようになったら生産と同時に備蓄の放出を始めるのだ。


 今回は第2プラントへの一便が行方を絶っており、備蓄分も全て奪われている可能性が高いという話。他の三基は普通に稼働しているので供給不足になることはない。損失よりは、ザナストがプラントを奪取したという事実のほうが衝撃が大きいといえよう。


「ザナストは本気なのでしょうか?」

 動力源の確保は大規模攻勢を思わせる。

「ツーラの都市(コレンティオ)を壊滅させてでもゴートを手中にしたいとでも考えているのでしょうか?」

「事実上不可能です」

 オービットが彼女の疑問に答える。

「ガルドワ宇宙軍は本艦隊の比ではないでしょう? その戦力に守られているコレンティオを攻略できるとは考えていないはずです。しかし、軍の一部まで動員した艦隊を打ち破ったとなれば、国際社会はゴート情勢を疑問視します。ガルドワが収拾に乗り出しているうちに本星の実効支配を目論んでいる可能性が高い」

「分かります」

「戦力としては小規模の我々ですが、託された勝利の意味は大きい。勝たなくてはならないとお考えください」


 混迷が続きガルドワの優位性が疑われた時、戦闘に負けていなくとも実際には敗北したも同然だという意味。第三者的な視点で見た場合、ザナストが数的にも技術的にも劣った存在であるとみなされる以上、少数で打ち砕いてみせなくていけないのだ。


(彼らは何をもってこの状況を良しとしているの? 母体であるガルドワグループの勢力低下を招いてでも戦闘を演出することで得るものがあるっていうのかしら? それとも車輪の紋章の下、新たな集団を形成する狂信的な思想でも持っているとでも?)


 そんな怖ろしい想像をラティーナはしてしまうのだった。

次回 「果報者ね」

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