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黒い泥(9)

「やりやがったな、侵略者が!」

「侵略者? 何のこと?」

 共用回線越しの罵声につい反応してしまう。

「ここは我らゴート人の神聖なる星だって言っている! そこに勝手に侵入してきたお前らは駆逐するべき侵略者だろうが!」

「なんだよ、それ! 人類が発生したのはこの星だよ。僕たちはみんな同じ人間じゃないか!」

「同じ人間が我らの惑星をこんなに痛めつけるわけがないだろう! 壊滅作戦を実行したのは鬼子であるお前らだ!」


 ビームはジェットシールドの表面で弾けると樹木の皮を穿つ。同士討ち(フレンドリーファイア)を怖れてか、あまり集中砲火を浴びることはないが平気で撃ってくる。


「壊滅作戦?」

「ザナストでは浄化作戦のことをそう呼んでいるらしいわ」

「好き勝手言う! こんな森の中でビームカノンなんか使う奴に言われたくない! 痛めつけているのはどっちだよ!」

 ユーゴは回復しつつある自然を破壊するほうが野蛮に思える。

「我らが星は我らが家なのだ。口出し無用!」

「それが傲慢なんだよ!」


 ザナストの思想には偏りを感じる。まるで惑星を自分の物だと勘違いしているかのようだ。それでは星を蝕む害虫でしかない。


(だから浄化作戦なんかされたって分からないの?)

 ゴートが人口氷河期を迎えてさえ省みることが無かったのだと思う。


 誘爆の隙に包囲の輪から抜け出したユーゴは樹林から飛び上がる。後ろ向きに飛行しつつ狙いを定めるとビームカノンを一射。雪を撒き散らしながら追ってきた一機に直撃させると光球に変えた。

 次々に抜けてくるアームドスキンに、カノンのインターバルで攻撃はできない。そのまま飛行していては数で押し切られるので降下する。樹の天辺に脚がつく前にインターバルが明けたので、飛び上がり際のもう一機を狙撃するが、そちらは左腕を吹き飛ばすだけに終わった。


「この戦法は使えるけど、これじゃ街になんて近付けないよ」

「でもまだ二十機前後はいるはずよ」

 普通は戦艦一隻に二十五機が積載されているとラティーナが教えてくれる。

「逃げ切れないなら全滅させる」

「無茶言わないで、ユーゴ」

「無茶でもやらないと、他に道はないんだよ!」


 彼女は自分の行動を気に病んでいるのだろう。でも、もう覚悟は決めているのだ。目の前でサディナが失われ、アームドスキンに触れたあの瞬間から。


(僕にできることがあるなら何でもやってみせる!)


 身体に合わないフィットバーに苦心しつつ、少年は歯を食い縛った。


   ◇      ◇      ◇


「ばかー!」

 ずいぶんと酷な責められ方をしているとスチュアートは思う。

「そうは言ってもな」

「ギャラが払われなかったら、スチューの口座から補填してもらうんだからね!」


 西の住居の捜索から戻ってきたメレーネは、空振りに終わったと報告する。発見できなかったと知るや、彼は西へと飛び去った黄土色のアームドスキンのことを皆に話した。

 がれきの捜索がひと通り終了してから、戦艦レクスチーヌに戻って彼のアル・スピアのガンカメラ映像を分析に上げると、そこにはあのアームドスキンに乗り込む保護対象者ラティーナの姿がはっきりと映っていたのだ。

 サディナの姿は確認できなかったものの、一緒に逃げ出したのではないかと推測される。それを見ていながら完全に失念していたスチュアートをメレーネは責めているのだ。


「だからこうしてレクスチーヌを西に急がせているじゃないか」

「間に合わなかったら全部スチューの所為!」

 理不尽な責めに辟易する。やっとまともな睡眠は取れたが、疲れはまだ残っているのだ。

「勘弁してくれよ、メル。あの状況下ならアクス・アチェスしか目に入らなくったってしょうがないだろ? そう思わないか、フレア?」

「分からなくもないね」

 同じパイロットのフレアネル・ギームは賛同してくれる。


 アームドスキンの戦場は性差を払拭した。個人のパイロット適性のみがものをいう世界だ。僅かに男性に軍配が上がるが、男女比はほぼ五分といえる。


「でも、民間人は要救護対象なんだから、見て見ぬ振りは無かったんじゃないの?」

 それも一理ある。

「でもな、あのアクスとやり合っていたパイロットが傍にいたってことだぞ? そいつは保護対象者の護衛だったんじゃないのか? なあ、オリガン」

「僕は女性との議論で隊長の肩を持ったりはしませんからね」

「裏切るのかよ!」

 どうやらオリガン・ダンクトも味方にはなってくれないらしい。

「負け戦はしないってだけです」

「ほら見なさい」

「まあまあ、メル。スチューだって反省しているみたいだから」


(結局、俺が悪役なのかよ!)

 心外である。


「それくらいにしておきなさい」

 援護は高い座席から降ってきた。

「フォリナン艦長」

「どうやら間に合ったみたいだぞ?」

「戦闘光を確認! ターナ(ミスト)も検知しました!」

 監視員(ウォッチ)が声を張り上げる。


 スチュアートは透過金属窓を通して艦橋(ブリッジ)の外へと振り向いてビームが走るのを認めると、すぐさま身をひるがえした。


「総員、発進準備!」

「了解!」


 にわかに艦橋に複数の足音が響き渡った。

次回 「やられるわけにはいかないんだよ!」

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