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悪役令嬢は夜告鳥をめざす  作者: さと
進むしかない5歩目
59/60

[漫画連載一周年記念SS]エピソードシャッフル!

夜告鳥コミカライズがマンガワンさんでの連載一周年を迎えました!

各キャラ推しの方に楽しんでもらえたら嬉しいなと思い、お祝い兼お楽しみとして、殿下、先生、セドリックのエピソードシャッフルをしてみました。

キャラの基本性格と外見や年齢は同じですが、たとえば、殿下は婚約者の肩書がなく強気攻勢に出られない『ギルベルト先生』、セドリックはお家事情が解決していない頃のとんがりボーイ『セドリック殿下』として書いています。

先生は勘当騒動の一時期をリゼ邸で過ごしたことで、リゼが戸惑いにくくなった『レスター様』です。

配役がかわっていたらそれぞれこんなエピソードになっていたのかも、といった、お祭り用のなんでもありSSとなっております。

小田先生の素敵イラストを思い浮かべて楽しんでいってください~!

手作りのプリンを一掬いし、どうぞと言って口元に運ぶ。

ベッドに身を起こし、スプーンを前にしたレスター様は、ふるると揺れるプリンにゆっくりと口をつけた。

「こんなにおいしいもの、初めてだ……」

小さな声で染み入るように感想を告げられ、私は自然と顔を綻ばせた。

「褒めすぎですわ。お口に合って安心しました」

寝起きだというのに、見目の麗しさもあいまって、向けられる笑顔がとんでもなくまぶしい。

レスター様は、最初こそ周囲を拒絶するかのように長い前髪で目元を覆っていたけれど、専門医の道を志すと決め前髪を切り揃えてからは、キラキラした表情を振りまいてくださるようになったのだ。

少しの間我が家に滞在されていたこともあり、打ち解けたようで嬉しい。

「さて、汗をかいたままでは冷えますもの。お休みになられる前に、体をお拭きしますわ」

効果実証の前準備をかねた私の提案に、レスター様は目をしばたたかせた。

「えっ、リーゼリット嬢が、僕の体を……?」

もちろん、とだけ答えて、控えていた侍従に必要なものの手配を始める。

レスター様は戸惑いながらその様子を見ていたが、急にハッとしたように身を乗り出した。

「あのっ、せめて、僕の手を縛ってもらえないかな」

今度は私が目をぱちくりさせる番だ。

ベッドヘッドに両手首をくくりつけられ、長めの黒髪を枕に散らして、憂いを帯びた目をこちらによこし、観念したかのように瞼を降ろす──

そんな姿を想像しかけて、慌てて頭から吹き飛ばした。

これはいけない、新たな扉を開いてしまうわ。

「ええと、服の着脱も含みますので、さすがに手を縛ったままと言うのは」

「じゃあ目隠しならどうかな。何もない状態でリーゼリット嬢に、か、体を拭いてもらうだなんて、僕には無理だよ」

これが譲歩できる限界だと言う。

本来令嬢がするものではないところを半ば無理やり実行しようとしているのだ、応じてくださるだけでもありがたいか。

正直なところ、目隠し姿もどうなんだという気がしないでもないのだけれど……手を縛るよりは断然更衣がしやすい。

ふむ、と小さく頷き、私は髪を結わえていた黒いリボンをほどいてレスター様の目元を隠した。

そうしてベッドへと横たわったレスター様は……何と言うかその……たいへん倒錯的な有様になっていた。

「レスター様、やはり目隠しは外しましょう。見えなければ何をされるかわからず、不安ではないですか」

触れる前に声かけしながら行うとしても、初めてされることなのだ。

このままではこわばりきった体はほぐれまい。

説得を試みるも了承は得られず、そのまま続行の運びとなったのだけれど……。

「次は膝を立てて、こちらに体を倒しますね」

「……っ、……、……っ」

触れるたびに、目隠しをしたレスター様が身を震わせ、小さな声を上げるので。

リーゼリット・フォン・ロータス14歳、新たな扉を押さえるのに必死です。



***


白い花がわんさと詰まった花束を抱え、ギルベルト先生はもう何度目かになる所作──花にもふりと顔を寄せるという意外なしぐさ──を繰り返した。

先生自身も柄でもないと思っているのか、きりりとした眉根を寄せ、頬をうっすら染めている。

いつもはすました顔で淡々と授業をするのに、そんな表情で花に埋もれる様は眼福でしかない。

「おい、あまりまじまじと見るな」

ギルベルト先生から指摘され、ガン見していたことに気づく。

「すみません。たいへんお似合いでしたから、つい」

「似合うものか」

「ではなぜお花を?」

どんな理由で授業に持ち込み、何のために度々埋もれているのか。

「……っ、別に深い意味はない。香りの効果で…………落ち着こうと思っただけだ」

何か文句でもあるのか、とでも言うかのように睨んでくるのだが……花の合間からでは迫力も何もあったものではない。

そのツンデレっぷりに天を仰ぎたくなるだけだ。

ただでさえ花束片手に現れたときに『言っておくがこれは、リーゼリット嬢に用意したものではない。俺のためだからな』とのテンプレセリフを頂いてしまって、拝みたくなっていたというのに。

察するに、先生が落ち着きたい理由は、以前いらした際、焦る私を慰めようとしたアレのことだろう。

私が顔を上げたことで不発に終わった、額への口づけらしきもの。

驚きよりも何よりも、その後の先生の慌てた様子と締まらなさに悶えてしまったのだけれど。

ギルベルト先生からすれば、いたたまれなくて授業どころではないのだろう。

真っ赤な顔で椅子ごと後ろにひっくり返った姿を思い出してしまって、つい頬が緩んでしまう。

「ふふ、慣れないことをするからですわ」

「それは悪かったな」

ふいとそっぽを向く先生の耳がうっすら赤くなっていて、私は上がる口角を咳払いでごまかした。

そこに、指先で机を叩く音が割り入る。

「失礼。楽しそうな会話に水を差すようだけれど、授業が終わりなら退室してくれないかな。婚約者殿と大事な話があるのでね」

私の隣で授業の様子を観覧していたセドリック殿下が、冷ややかな目を先生に向ける。

殿下がおかんむりな理由には大いに心当たりがある。

すなわち、昨夜の宿泊の件だ。

私は血の気の下がる思いで、帰ろうとする先生を引き留め、先ほど実践してきたばかりの保清の手順と香油の相談を始める。

絶妙な示唆を得て感謝の意を告げると、ギルベルト先生は再び花に埋もれた。

白い花弁に赤い目と頬がとっても映えるのだけれど……先生、私の咳払いが止まらないです!



***


「別の令息の屋敷に泊まったって聞いたんだけど。君、何考えてるの」

ギルベルト先生が帰るなり、私はセドリック殿下に手首を取られ、自室の壁との間に挟まれていた。

いわゆる壁ドン状態なのだけれど、原因が原因なので一切の甘さはない。

予想は当たり、底冷えするような声音で詰問され、下がった血が戻らない。

壁ドンとは、かくも恐ろしいものだったのか。

「しかもこの香りにあの手順書……さも実践してきたと言わんばかりだ」

手首の内側にかりりと爪を立てられるが、眼鏡の奥の鋭さの方が何倍も強い。

「言い分があるなら聞くけど?」

あわあわしながら経緯を説明してはみたけれど、ちっともお怒りが静まる気がしない。

あなたね、とんがりすぎなんだよ!

「なるほど、君の言い分はわかった。だとしても安易が過ぎるよ。仮にも君は僕の婚約者だってこと、忘れてないよね?」

「忘れているわけでは、ないのですけれど……」

「仕置きされても文句は言えないよ。選ばせてあげる。何がいい?」

「えっ」

何がいいと言われても。

お仕置きの好きな方なんて、この部屋には誰もいないだろう。

いやまあ、セドリック殿下と私しかいないんですけども。

「……お説教一時間コースなどはいかがでしょう」

「100の言葉で君が止まるならね」

そのとおりでぐうの音も出ない。

「手の内側に、指を押し当てるとか」

「なにそれ」

しっぺと言って通じるのかどうか。

仮に私が『こういうものです! そいや!』とセドリック殿下の腕に実践したら、不敬罪で捕まる前にその冷ややかな視線で射殺されるのではなかろうか。

「額を指ではじいてみるのは……」

「痛みから離れなよ」

言葉でも痛くもないお仕置きと言ったらそれは……。

私の乏しい発想では思いつく答えが一つしかなくて、たちまちのうちに顔が火を噴く。

「え、選ばせてくださるのですよね?! 痛みでもよろしいのではなくて??」

「君の行動を抑制できることが前提に決まってるだろ。君が嫌がる、僕の望むことがあるよね?」

「その……、……ええ、っと、……っ」

恋愛音痴の私にそれを言わせる時点で、すでにお仕置きになってるんじゃないの?

殿下に覗き込まれながら、回らない頭をフル稼働させて他の答えを探す。

「とっ、…………登城、でしょうか?」

「君にしてはいい答えだ」

殿下は満足そうな笑みを浮かべると、私の頭に手をポンと置き、頬まで撫でた。

先に思いついた答えを返さなくてよかった、と冷や汗をかき。

選択肢なんてないじゃない、と口をつきそうになるけれど。

悔しいかな、セドリック殿下の飴と鞭作戦に喜んでしまっている自分がいるのだ。

たっぷりひやひやさせたあとに優しくするとか、反則技はやめてもらえますかね?!

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