24 騎士を探してよよいのよい
さて、思いのほか鍛錬を楽しんでしまったわけなのだが。
ここで本来の目的を思い出してみるとしよう。
すなわち、攻略対象となる騎士探しをである。
鍛錬場は折よく休憩時間になったようで、ざわめきとともに騎士たちが移動しているのが見える。
僕たちも休憩しよう、とのファルス殿下の声掛けに応じ、ざっと100人はいるであろう騎士たちのもとへと足を踏み出す。
いざ、行動開始である。
ひとまず、目星をつけるための聞き込みだな。
現時点での追加情報として、件の騎士がエレノア嬢を『美の女王』に指名するってのがある。
先日、トーナメントについて調べていた際に思い出した、できたてほやほやの情報。
え、それだけ? と思うなかれ。
これがけっこう有力なヒントだったりするのだ。
書物によると、トーナメント一日目は若手騎士のうち何人かが代表して馬に乗り、一対一で槍を突き合う『ジョスト』が開催されるんだとか。
そこで優勝した者が、自身の想い人か、その場で最も美しい女性を『美の女王』に選出できるのだ。
二日目の『トゥルネイ』と呼ばれる団体戦は、二軍に分かれて行う模擬戦闘となっていて、もっとも活躍した者が『美の女王』手ずから栄誉をもらえるって流れらしい。
かつては参加者を諸外国にわたって大々的に募集していたようだが、一度廃れ、現王が復活させてからは国内のみでの参加だという。
この場にいる王立騎士団の他にも各領地お抱えの騎士や傭兵たちが加わるわけだけど、メタ推理しちゃえば、攻略対象がエレノア嬢とかかわりにくい王立騎士団外にいるとは考えにくいんだよね。
そうすると攻略対象の騎士は、王立騎士団に所属し、ジョストで優勝できるほどの実力の持ち主で、エレノア嬢に想いを寄せる若者ってことになる。
ゆえに、この場でジョスト参加者に絞ってその能力やエレノア嬢とのエピソードを聞き出せば、攻略対象を見つけられると踏んでいるのだ。
ほら、何とかなりそうな気がしてきたでしょう?
「今日の差し入れは、ロータス伯爵令嬢からだ。しっかりと味わうように。礼を尽くせよ」
騎士団長の声かけのもと、用意した差し入れ──乾燥デーツの中にカラメリゼしたナッツを詰めたもの──をふるまう。
エレノア嬢と被らないよう飲み物以外で数が用意でき、運動中に適した差し入れはないかと料理長に相談したのだ。
乾燥デーツは砂漠の国から取り寄せたもので、暑い中での栄養補給に最適だという。
ふだんはお菓子などに用いられるドライフルーツで、干し柿みたいな甘味とねっとりとした噛みごこち。
そこに香ばしいナッツとカラメルのカリカリが加わりたまらないのだ。
おおぶりで食べ応えもあるし、運搬時の型崩れの心配も保冷の必要もなく、料理長グッジョブと言わざるを得ない。
我も我もとデーツに手を伸ばし、私に礼を述べる騎士たちに笑みを返しながら、ターゲットをロックオンする。
デーツ片手に飲み物を煽る、ギルベルト殿下である。
傍までひょこひょこと歩みを進めると、こちらに気づいたらしく唇をへの字に引き結んだ。
私を見るなり、どことなく落ち着きがなくなるのはどういう理由なんだ。
「さきほどファルス殿下から伺いましたの。短剣を薦めてくださったとか。とても扱いやすく、殿下のご配慮をありがたく感じましたわ」
構わず切り出せば、その内容に虚を突かれたらしい。
目をぱちくりとしたのち、慌てたように視線が逸れていく。
「っああ、……別に俺は文句を言っただけで、くみ取って良いようにしたのは兄様だからな。礼を言われるようなものじゃない」
手の甲で口元を隠そうとしているようだが、残念ながらゆるんだ頬が丸見えである。
褒められ慣れていないのか、ファルス殿下にくみ取ってもらえたのがうれしいのか。
どちらもなんだろうな……
「殿下の言葉がなければ叶いませんでしたわ。それで……聡明な殿下に、折り入ってお願いがございますの」
そっと見上げた視線の先、かくも物を言うのかと感心するほどの目がこちらを向いていた。
本題はそっちか、また何か始めるつもりかという……
まだ何も言っていないんですけど?!
あまりな反応に唇を尖らせようとして、ホルダーに下げた短剣で思いとどまる。
前例があるからか。
あいや失敬。
「大それたことではございませんわ。ですから、少しお耳を」
いぶかしみながらもわずかにかかんでみせた殿下に、こっそりと耳打ちする。
「若手の騎士でジョストに参加されそうな、馬と槍がお上手な方を教えていただきたいの」
依頼の内容が想定外だったのだろう、今度はこちらをまじまじと見たのち、盛大に眉をひそめた。
「……なんだおまえ、美の女王にでもなるつもりか」
そんなわけあるかい。
「私がそのような目立つものを望むと思いまして?」
「思わないな。……今度は何をするつもりかは知らんが、数日もすれば馬上での槍訓練が始まる。自分の目で確かめればいいだろう」
そういえば、そんな話を聞いた気もするが……正直なところ、素人が見たところで上手い下手がわかるとは思えない。
しかもこの人数だぞ、把握できる気もしないわ。
「殿下、どうかヒントだけでも……っ」
わけがわからないといった体の殿下に縋りついて、何とか聞き出すことに成功したのだった。
殿下と連れ立って木陰へと移動し、切り株に腰を落ち着ける。
ここからだと休憩時間特有の喧騒を遠くに感じる。
騎士たちを一望できるが、少し離れているのもあって、会話の内容を聞かれる心配はなさそうだ。
これならば、婚約者同士が仲良く話しているように見えるだろう。
傍目には。
「……そうだな、この中でなら今のところ飛びぬけているのは3人か」
実際は、若干疲れた顔した殿下によるプチ講義である。
「有力株はランドールだろう。ランドール・ツー・フォルクス。あの赤毛の、妙に楽しそうなやつな。あんななりだが、騎乗での戦いにかけては右に出る者がいない」
顔だけはしっかりと覚えていた、前回の剣術指南に付き合ってくれた青年だ。
今も他の騎士たちとじゃれ合っているところから察するに、天真爛漫でやんちゃそうな印象を受ける。
赤毛の短髪に黒い瞳、体格は周りの騎士よりやや小柄っと。
その辺に落ちていた枝で、ろう板に名前と特徴を書きつけていると、隣から手元を覗きこまれる。
「何やってるんだ」
「忘れないように記録しているのですわ。わたくし、記憶力には自信がございませんの」
「……難儀だな」
それはもう、殿下の記憶力を分けてほしいくらいにね。
こんな風に場所を変えてこそこそせずとも、どなたがお強いの〜? と無邪気に聞いてしまえれば早いのだろうが、ろう板片手にだとそうもいかなくなる。
一気に取材感が増すわ。
「今ランドールの腕を掴んでいるやつがいるだろう。キース・ツー・ジェンティ。戦術に長けたやつだが、パワー型の御し方をよく知っている」
次に示されたのは、知的な菫色の瞳を持ち、長めの黒髪を緩く束ねた青年だ。
たしか、前回もランドール様のお目付け役とか言われていたような。
柔をもって剛を制すってタイプなのかな、槍にもいろいろあるらしい。
しょっちゅう2人でいるのなら、見つけやすいし互いの情報も引き出しやすいかもしれない。
「あっちで兄様と話しているのがコンラッド・フォン・リヴァーレ。西方の国から遊学中の者だが、トーナメントに参加するとあって先日から訓練に交じってもらっている。体幹がよく、棒術に秀でている。槍を突くことに特化するならコンラッドかもな」
……お父様から聞いたことがある。
好戦的な隣国を挟んだ向かいの国から、皇族の血縁を招いたと。
隣国へのけん制、もしもの際の挟撃、その友好の証として、こちらからも招聘されているはずだ。
たしか、国王陛下の弟君が。
コンラッド様は、明るめの茶髪に藍色の垂れ目、やけた肌に泣きぼくろと、セクシーな印象を受ける。
どことなく漂う気品が周囲とは一線を画していて、こちらも見つけやすそうだ。
特徴を掴もうとじっと観察していると、こちらに気づいたらしく手を振られた。
内心汗だらだらになりながらも笑顔で手を振り返し、失礼に当たらないようにとギルベルト殿下に視線を戻す。
そっと横目で伺えば向こうもファルス殿下との会話に戻ったらしい。
咎められなくてよかった……
さて、候補の騎士であるが、いずれも若手というだけあって、年は似通っているようだ。
だいたい17,8歳くらいか。
攻略対象ってくらいだから見目でもう少し絞れないものかと思ってはいたけど、見事に全員イケメンだな……
コンラッド様は外国の方だし、対象から外してもよさそうなものだが、はたして。
「この3人の中で、エレノア嬢に心惹かれていそうな方はいらっしゃるかしら」
「俺が知るか」
だよなあ。
3人に絞れただけでも御の字か。
あとはエレノア嬢が来た時の反応を見守るとしよう。
「エレノア嬢が来なくてがっかりしている奴なら、その辺に溢れているがな」
そういえば、呆けたように気の抜けた顔をしている者が何人かいたような。
訓練で疲れたというよりは、張り合いを失い心ここにあらずといった様子で。
さすがヒロイン。
ファルス殿下の婚約者とはいえ、あれだけかわいらしく華のある令嬢なら、もはやアイドル的存在なのだろう。
代わりに来たのが私では、華もなければ張り合いもないわな。
「来たら来たで訓練に身が入らなくなるからな、困ったものだ」
そうなのか、かわいいのも大変だな。
「えっと……まさかそれが原因で出禁になっていたりなどは……」
「それはない」
「ちなみに、いつからいらしてませんの?」
「おまえが来た次の日からだな」
どっと嫌な汗が出る。
王妃教育だと聞いて納得していたけれど、まさか、ファルス殿下を助けたのが私だとわかって、身を引かれたとかそういうのじゃないよね……?
こんなところでヒロイン退場とかホント困るんですけど。
ファルス殿下の愛情はすべからく受け止めていただきたいし、騎士もまだ見つけられてないし、これから先の難局を私一人で乗り切れる自信なんて全くないし。
そして何より、私の唯一の女友達なんだよ……!
こんな序盤で失ってたまるか!
「わ、わたくし、今日はもう帰り……」
「っ、おい」
殿下の制止を振り切り立ち上がったつもりが、目の前にいた誰かにぶつかる。
反動で後ろによろめいたのを、その人物に抱き留められ、なんとか踏みとどまった。
「失礼、怪我はないかな?」
焼けた肌に泣きぼくろ、藍色の垂れ目の──コンラッド様だ。
いつのまに、こんな近くに。
動揺のあまり、ろう板が手の中を零れ落ちた。
まるでスローモーションのように落下していくろう板を、衝撃とともに見送る。
いやいやいや……っ、さすがに本人に見られるわけにはいかんでしょ!
我に返るやいなや慌てて拾おうと腕の中から出たはいいのだが。
焦って逆に蹴り出してしまって心で泣いた。
私は今、サッカーがしたいわけでもおまえをボールにしたいわけでもないの!
カラカラと音を立てて地面を滑っていくろう板を追いかけ、あと一歩というところで、一足早く拾い上げられてしまったのだ。
コンラッド様とともにいらしたのだろう、ファルス殿下に。
この場合は────
セーフ?
アウト? ←
セ、セーフセーフ……っ!




