『呪いの予言』とオカルト探偵事務所の設立
半年の月日が流れた。
記憶を思い出してから半年経った今は、最初気にしていた顔は特に意識することなく、普通に過ごしている。
この世界にきて、なにか特別な使命を受けたわけでもない俺は、ジョージュとしての役割、この家の一人息子として勉強や習い事を頑張るだけの日々が続いていた。
ある日の昼下がり、いつも通りロイとボール遊びをしていた俺は、転がっていくボールを追いかけて走っていた。
遠くまで転がってしまったボールをようやく拾い上げて顔を上げると、屋敷の入り口から黒のスーツを着た男性が出てくるところだった。
俺の今の父親が会社を経営してることもあって、家にはよく営業の人が来る。
たぶん彼もそのうちの一人だろう。
そう思って、ボールをしっかりと両手で持った俺が駆けだそうとしたとき、その営業マンの男性に遠くから突然声をかけられた。
「ねえ、君、このおうちの子?」
突然のことで驚いたが、話しかけられたからには返事をしなきゃいけない、と思った。
「は、はい、そうです」
俺がそう答えると、スーツ姿の男性は近づいてくる。
近くで見ると、男性はかなり美形だった。
褐色の肌をした黒髪黒目の、はっきりとした眉や目鼻立ちが印象的な男性だった。
見慣れない美しさを持つ異国の男性に、ちょっとたじろぐ。
「君の名前はなんていいますか?」
そう質問する男性の黒曜石のような目が、まっすぐに俺の目を見つめた。
「僕、は、ジョージュです。ジョージュ・ヴァン・タイガーン」
俺がこの世界での苗字と名前を答えると、彼は少し微笑んだ。
「ジョージュ、ですか。君は、不思議な魂を持っていますね。
2つの魂が1つに混ざり合っているように見える」
そんなことを、平然とした顔で言い出した。
「…えっ?今、なんて……」
突然そんなことを言われて戸惑う俺に、さらに困惑する言葉が続く。
「きっとあなたは、この世界の神に呼ばれたのでしょう。ですが、気をつけてください。
あの方に呼ばれた人間は、たいてい、短命ですし、ろくな目にあいませんから……。
悪霊に憑りつかれたり、吸血鬼に噛まれたり、悪魔に魂を奪われたり、ね……」
「そ、それってどういう…」
「これ以上、詳しいことは話しませんが……。
…ですが、あなたが生きていれば、…近いうちに会いましょう、ジョージュ。ではまた。」
彼はそう言って突然話を切り上げ、出口の方に足を向けた。
「ま、まって……!」
俺は立ち去ろうとする男性の服を掴もうとしたが、服はスルリと俺の手から抜けた。
去ろうとする男性は歩いているだけだが、急いでいる様子もないのに異常に足が速く感じる。
どんどん離される距離。
もちろん俺は、走って追いかけたのだが、不思議なことに追いつくことはできなかった。
男性が出て行った門の外まで全速力で走ったが、なぜか男性の姿はどこにも見当たらなかった。
「う、嘘だろ……?」
さっき言われた言葉を思い出して、誰もいない門の前で、俺は一人呟くのだった。
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あの恐ろしい予言を聞いてから、俺はずっとビクビクしながら部屋に閉じこもっていた。
夜に眠ると、恐ろしいモンスターに襲われる夢を見て、何度も飛び起きた。
起きているときも、何か少しでも変わったことがあると、すぐに心臓や身体が飛び跳ねた。
心配する周りの人達には理由を話すこともできず、ただただ、怯えるだけの日常を過ごしていた。
しかし、俺の心配をよそに、あれから1年、2年と経ち、……そして何事もなく十数年経った。
長い年月が経過した今、俺は今年、無事に20歳になることができた。今は大学に通っている。
あのとき不吉な予言をした謎の男性は、家の誰に聞いても、そんな人は知らないと言うばかりで、あれ以来ずっと会うこともなかった。
しかし、あのとき言われた言葉は、20歳になる俺の今までの人生に大きく影響を与えた。
自分で戦えるように身体を鍛えたり、オカルト方面の研究をしたり、悪魔祓いができるという教会に足しげく通って魔祓いの方法を習ったりと、できる限り万全の準備をしてきた。
そして、この国の成人である20歳の節目を迎え、俺は長年計画していたことを実行した――――。
「坊ちゃん、椅子を置くのはこちらでよろしいですか?」
「うん、そっちで大丈夫」
俺は20歳になり、オカルト探偵事務所を立ち上げた。
なんでこんな奇行に走ったんだと思うかもしれない。
確かに俺は、あのときの予言にショックを受け、夜は悪夢ばかり見るようになり、何をするにもおびえる生活をずっと続けてきた。
しかし、ある日突然に気がついたのだ。
この世界に化け物がいるならば、退治すればいい!
そして、きっと俺以外にも、オカルト事件に巻き込まれて苦しんでいる人がいる。
その人達の悩みを解決してあげるのが、今生での俺の役割に違いない、そう確信したのだ。
十数年もの研究と魔祓いの訓練を続けてきた俺には、その実力があるはずだ。
そして今、近所の空き店舗に事務所を構えるため、事務所となる場所に机や椅子を運び込んでいる最中だ。
「ありがとう。セバスチャンが手伝ってくれたおかげで、良い事務所になりそうだよ!」
「いえいえ、坊ちゃんのお手伝いをするのはじいの喜びですから。
しかし坊ちゃん、旦那様が坊ちゃんのやりたいことを応援してくださって良かったですなあ~」
「そうだね!」
俺は、今の両親やセバスチャンに、俺が転生したことや、あのスーツ姿の男性に言われた恐ろしいことを相談しないでいた。
頭がおかしいと思われるのが怖かったからだ。
結果、傍から見て、突拍子もない「オカルト探偵事務所を立ち上げる」というこの奇行を、厳しい父から見てどう思われるのか不安に思っていたが、意外なことにすぐに許可された。
「学生のうちに、経営のことを勉強するのはいいことだ」と…。
正直、利益が出るとは思えなかったが…反対されないことは、俺にとって非常にありがたいことだった。
おそらく、小さいころ様子のおかしかった俺が、外に出て意欲的に活動するようになったことが、親として嬉しかったんだと思う(内容はともかく)。
今世での両親には本当に心配をさせてしまった。
事務所のホームページも、自力で作成して、更新する。
ホームページを自分で更新することは、問題解決に向けて一歩前進したような気がして、とても気分が高揚した。
『 オカルトハンター ジョージュの探偵事務所。
悪魔でも吸血鬼でもなんでもござれ。
ゴーストもゴーッとやっつけて、
吸血鬼もキュウッと絞めて、一気に解決! 』
こんな文章を書きあげて更新した後、事務所用に購入した新品のパソコンをパタンと閉じた。




