彼の記憶と生い立ち
あれから3日経った。
この3日の間で、本を読んだりセバスチャンと話したりして得た情報から、俺がいる世界のことや俺自身が誰なのかがわかるようになってきた。
まず、ここは俺が生きていた世界じゃない。
日本という名前の国もないし、俺が知ってる名前の国も一つもない。
ただ、限りなく俺の知ってる世界、地球に近いことが分かった。
俺がいる国は、イギリス?ヨーロッパ?住んだことがないのでよくわからないが、そっち方面に近い。
見た目は華やかだが、日本と違い銃社会で、あまり治安はよくない。
そして、言語についてだが、俺が話している言語はもちろん日本語じゃない。
最初、黒髪の少年、ロイや執事のセバスチャンが流暢に日本語を話していると思ったが、そんなことはなかった。
目が覚めてから全く会話に支障がなかったのは、俺が体を受け継いだ、7歳の少年の記憶が、俺に言語を理解させてくれたからだ。
7歳の少年、まあ、今は俺の記憶なのだが、この歳にしてはいろんな言葉を知っているようで、それなりに勉強もできるようだった。
俺は彼の記憶に心から感謝した。
彼の記憶の中に、たくさん勉強した記憶の風景を鮮明に思い出す。
勉強のほかにも、サッカーみたいなスポーツを専属のコーチから習っていたり、ピアノやバイオリンを習ったり、有名な少年合唱団に入っていたり・・・。
こんなに習い事をしていたら、お金がめちゃくちゃかかるだろうと思って、庶民の俺は家計を心配したが、杞憂だったようだ。
自分の部屋の周りをウロウロしていると、この屋敷で雇われていると思われる使用人に何人も会った。
少なくとも、メイド服の女性を5人、執事姿の男性を3人、警備の人を5人見かけた。
この使用人の多さから、この家は相当裕福なのでは?と思う。
自分の家にいるだけなのに、たくさんの人に会う。
ただ、不思議なのは、これだけの人に会っても自分の両親とは全く会わないことだ。
父親は、よく海外出張に行っていて、外国土産を渡すため俺の部屋まで来てくれた記憶が、年に十数回あるが、母親は年に一回か二回くらいしか会わない。
まあ、ようするに、俺の両親はめったに顔を見せてくれなかった。
俺としては不思議だったが、もう一人の7歳の俺は全く疑問に思っていないようだった。
めったに揃うことのない両親であったが、俺が日本人としての記憶を思い出した次の日の朝は、頭をぶつけた俺のお見舞いに来てくれた。
父親は、ハンサムで背が高く、少し厳しそうなのが印象的な30代くらいの青い目の男性だった。
息子の俺に会うときでさえ、茶色の短い髪はいつもきっちりと固められていた。
母親は、とても美しい人で、長い銀髪の髪を綺麗にまとめた細身の女性だった。
この両親を見て、二人の息子である俺の容姿はどんなものだろうと、このとき初めて自分の容姿が気になった。
部屋にある大きな鏡の前に移動すると、鏡には銀髪で青い目のパジャマを着た少年が映っていた。顔はなかなか可愛らしい。
顔をペタペタと触ってみる。鏡の中の少年も同じように顔を触っている。
これが俺の顔か・・・この日本人離れした顔だが、慣れていけるだろうか……。
そんなことを思った。