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非日常の始まり

……いってえええ!!



 いったい、何が起こったんだ。

 黒い煙に全身が覆われて、それから……。


 …うっ、なぜか頭が痛い。さっきの煙のせいだろうか。

 まるでこの痛み、なにか固いものに、思いっきり頭をぶつけたような。


 そう思っていると、誰かが走って近づいてくるような気配がする。


 あれ?もしかして誰かが俺の異変に気付いて助けに来てくれたのか?

 おーい、俺はここだー!助けてくれー!

 痛みで目が開けられない俺の頭上で、声がする。


「すみません、大丈夫ですか?」


 若い男性の声が、心配そうに言う。


 この人の言う通りだ。俺の体は無事なのか?

 あの変な煙に巻かれてしまったが…。


 しかし、誰かがすぐ助けに来てくれて本当に良かった。

 俺は一人暮らしだし、俺の部屋には鍵がかかっていたはずだから、すぐに発見してもらえたのは奇跡に等しい。

 きっとこの近くにいる男性が、大家さんに頼んで鍵を開けてもらったに違いない。

 この親切な人にお礼を言わなければ。


 そう思っていると、ふいに目を開けることができた。



 しかし、俺の目の前にあったのは、俺の小さなアパートの一室と成人男性ではなく、綺麗な洋風の庭と、俺を見下ろす外国人の少年だった。



 -----------


「大丈夫ですか?立てますか?」


 10代後半だと思われる黒髪の白人の少年は、俺のからだを支えながら、流暢(りゅうちょう)な日本語で俺の安否を確認してくる。


「え?ああ、ありがとう・・・」


 俺はそう言って、少年に支えられて立ち上がる。

 ここはどこだ。きみはだれだ。

 そんな言葉が口から出かかって、また頭痛がして口を閉じる。


「念のため、医務室に行きましょう」


 そんなことを言う少年に支えられて、色鮮やかな花々の並ぶ小道を歩いていくと、木々で見えなかった景色が見えるようになり、大きなお屋敷が現れた。


 なんだこのでかい家は・・・そもそもなんで俺はこんなところに?

 そう思った瞬間、自分の頭が割れるような頭痛がした。


 耐え切れなくなって、思わずその場に倒れこむ。

 隣では黒髪の少年が慌てている。

 少年の叫ぶ声が聞こえてきたが、今度はまともに返事もできなかった。



 ────俺の頭には、膨大な量の情報が入ってきていた。


 ここは、俺が住んでいた地球とは違う世界の地球。

 俺はこの世界では、まだ7歳の活発な少年、『ジョージュ』。

 目の前のでかい屋敷は俺がずっと住んでいる家で、目の前の黒髪の少年は俺の家の老執事の孫、ロイ・・・。

 そして俺は、この家の子供として生まれてから今までの、――7歳までの記憶全てを思い出して――再び意識を手放した。



 ----------------


 次に目を覚ますと、俺は、でかくて豪華な部屋の、無駄に広いベッドで寝ていた。


 ――ああ、夢じゃなかったのか。


 どうやら俺は27歳日本人の一般男性から、7歳のどこかの裕福な家の少年になってしまったようだった。

 驚くほどすんなりと、その事実が飲み込めた。

 しかし、なぜ俺がこんなことに……。


 寝ころんだまま考えていると、カタンと音がしたので、そちらに視線を向けてみる。


 俺のアパートの一室に置いたら、他の物が一切置けなくなるだろうと思われるほど大きいベッドのそばには、黒い執事服を着た初老の男性が静かに佇んでいた。


 この男性はセバスチャン。

 記憶を思い出す限り、7歳の俺が最も信頼する人で、俺にとっても甘い執事である。

 俺が寝ている間、ずっと俺の傍にいてくれたんだろうか。

 声をかけてみる。



「……セバスチャン」

「…!ジョージュ坊ちゃん、お目覚めになりましたか!

 坊ちゃんがなかなか起きられないので、じいは心配で心配で……!」

「もう大丈夫だよ、ありがとう」


ジョージュとしての言葉が自然に口から漏れてくる。


 セバスチャンと少し話をして、俺は、セバスチャンの孫であるロイとボール遊びをしているときに、ロイの投げたボールを頭に受けてぶっ倒れたということがわかった。

 もしかしたら、頭にボールがぶつかった衝撃で、忘れていた記憶を思い出したのか…?



 セバスチャンは大げさなほど頭を下げ、話を続ける。


「坊ちゃんに怪我をさせたロイには、厳しく注意し、後日改めて謝罪させます。申し訳ございません。」


 その言葉に慌てた俺は、

「い、いいよ、謝罪なんて!ボールを受け取れなかった俺が悪かったんだよ!ロイお兄ちゃんは悪くないよ!(あっ、お兄ちゃんとか久しぶりに言った)」

「し、しかし…」

「いいんだ!ロイにも気にしないように言っておいて!

 あっ、でも、俺はもうちょっと休んでおくね」


 俺は少し一人になりたくてそう言った。

 頭の情報を整理したい気分だったから。


 しかし、セバスチャンがいきなり抱きついてきた。


「坊ちゃん、ご自分がお怪我をなされたのに、怪我をさせたロイのことを思いやれるなんて、やはり坊ちゃんは素晴らしい方だ…!」


 セバスチャンは、おーいおーいと泣いて俺を強く抱きしめた。

 そうだった。セバスチャンは俺に関して心配性で感動屋。

 (ジョージュ)の記憶の経験上、こうなったセバスチャンは、なかなか離れない。

 抱きつかれて気恥ずかしさを覚える大人の俺と、安心する子供の俺の2つの心を感じた。

 なかなか離れてくれないセバスチャンに、俺は諦めて抱きつかれたまま、窓から見えた絵のように綺麗な庭を眺めるばかりだった。



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