表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

異世界からの招待状

 赤い液体が、床に広がる。

 目に刺激的なその色から、嫌でも視線をそらすことができない。

 広がってできた、赤い水たまりの中にいる愛しい人は、口を開けたまま(うつ)ろな目で天井を見ていた。



 ────全ては、遅かったのだ。




 ------------------------------------------------------



 空は黒いといっていいほどに暗く、足取りは重い。

 暗い夜道をチカチカと切れかかった蛍光灯だけが照らしている。

 今日も最終電車に乗り、アパートが立ち並ぶ住宅街の細い道を帰っていた。

 やけに重たく感じるコンビニの袋を持って家に着く。


「ただいまー」


 …ガチャリ


 玄関のドアを開けて、誰に言うでもなく、ぽつりとつぶやく。

 中に入ると、築35年らしい色あせた壁紙の小さな部屋が、今日も静かに出迎えてくれた。


「あー、今日も疲れた・・・」



 俺は、この古びたアパートに一人で暮らしている24歳の社会人、田中成就たなか まさなり

 学生時代からの友人には「ジョージュ」と呼ばれている。

 会社に入ってからは仕事が忙しくなり、友達と会う暇もなくなったので、そんな風に呼ばれることもあまりなくなってしまったが、俺はこのあだ名をけっこう気に入っている。



 靴を脱ぎ、手を洗い、かたっ苦しいスーツをハンガーに丁寧に掛けて。

 帰宅してからのいつもの流れを完璧にこなした俺は、背の低い机の前に置いた座布団にドカッと腰かけた。


 郵便ポストに大量に溜まっていた郵便物を、机にドサッと置く。

 しばらくポストを開けて見てなかったら、ポストの入り口から広告がはみ出すほど溜まっていた。


 疲れていたので、近所のスーパーなどの広告はほとんど内容を見ることなく、光熱費の支払いの紙などが入ってないかだけチェックする。


 チェックしていると、広告の束から、1通の真っ黒な封筒が足の上に落ちた。

 黒い封筒を拾い上げる。


「ん?なんだこれ・・・」


 宛先人は自分で、差出人は不明。

 真っ黒な封筒には、宛先以外の何も記載されてない。

 見るからに怪しかったが、なにが入っているんだろうと好奇心で開けてみる。



 開けると、黒い封筒からは黒い煙のようなものがでてきた。

 少し驚いたが、どんな仕組みになっているのか気になった。

 興味本位で封筒の中を覗いてみる…。



 ──そこにあったのは、…目だった。


 人のものと思わしき眼球が、瞳を動かしてこちらを見ていた。

 封筒の中にいる、どう見ても生きているとしか思えないそれは、闇を思わせるほど黒い煙の中に浮かんでいた。


 !!なんだこれ、気持ち悪い。おもちゃにしても性質が悪い。

 さっさとこんな封筒捨ててしまおう。もしくは燃やしてしまおうか。


 そう思って、封筒を持って移動しようと思った、のに。


 からだが、動かない。手も、足も。

 俺が唯一動かせるのは、目だけだった。


 なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ……!


 封筒を見ると、さっきの封筒から黒い煙がまだ出てきている。

 そして、恐ろしいことに、その煙は俺のからだに巻き付いてきたが、口さえ動かせない俺にはどうしようもなかった。


 黒い煙が、ゆっくりと、からだを覆いつくしていく。

 そんなことになっても、俺のからだは、固まったまま動くことはなかった。


 ついに、その煙が視界さえ覆い始めたとき、俺の意識はもうろうとしてきた。

 まずい。ヤバイ…どうしよう、どうしよう……



 そんなことを考えながら、真っ暗になった視界の中で、俺の意識は暗転した。





≪異世界の神からの招待状≫


突然、誰かの元に送られてくる、異世界の神からの『別世界への招待状』。

これを受け取った人間は強制的に、異世界の神のいる世界に攫われる。

連れていかれた後は、放置される。

招待状は、受取人が一番興味を引くような形で送られてくる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ