SSSランクが勇者パーティから追放されるやつ
流行りに乗り遅れないようにとりあえず書きました。
勇者アラン率いる勇者パーティは、明日いよいよ魔王の城に乗り込もうとしていた。
その決戦前夜、アランはパーティメンバーである賢者マリクに呼び出されて酒場に向かった。
「勇者アランさん。あなたをこのパーティから追放します」
酒場の隅で待ちかまえていたマリクは、開口一番にそう言った。
あまりに唐突な物言いに、アランの口からは乾いた笑みが漏れる。
「笑わせるなマリク。なんだって俺が……」
「実はあなたが勇者ではないのではないか、という疑いがパーティメンバー全員からかかっています。あなたが勇者であるという証拠……勇者の証を見せてほしいんです」
いきなりなにを言い出すのかと思いきや、マリクの目はいたって真面目で、冗談ではないらしい。
アランは一度呆れた表情をしてみせると、お望み通り勇者の証を懐から取り出した。
「ほら、これでいいんだろ? これがなにか?」
「ああ、やっぱそれ違いますね。勇者の証じゃないですね」
マリクはよく確かめもせずに言う。ハナからそう決めつけてかかっている口調だ。
アランはやれやれ、と首を振って、勇者の証をマリクの鼻先につきつける。
「何のつもりかしらないが、言いがかりはやめてもらおうか。ここに『勇者』としっかり記されている」
「いや、書いてはありますけど……なんかそれ手書き感ハンパなくないですか?」
「手書き感というかそりゃ、書くからな。誰かが。文字って書くものだろ? 何かおかしいか?」
「なんかそれ、誰でも作れそうなんですよね。勇者の証っていうか、それあれじゃないですか? 手作りのお守りみたいな」
マリクの荒唐無稽さに思わず吹き出してしまう。
酒が入っているわけではなさそうだったが、これには酔狂だと言わざるを得ない。
「手作りのお守り……。この勇者の証に向かって、言うにことかいてそれはないだろう? おいおい、賢者ともあろうものが一体何を……」
「いやなんか縫い目とかスゴイ荒いですけど……あんまり慣れてないけど頑張って作った感がすごいんですけど」
「俺にそんなことを言われてもな。これが勇者の者の証だと言われて、渡されたものだから」
「え? 誰にですか?」
「それはもちろん王様……あぁ、母親だったかな? まあこの際どっちでもいいだろう」
「いやそこはっきりさせてくれないと。全然意味合いが違ってくるんで」
これだけ説明しても、信じがたいことにマリクはあからさまに疑っているようだった。
こうなるとさすがのアランも泰然と構えている場合ではなくなった。
ふつふつとこみ上げてくる怒りで、自然と早口になってしまう。
「いや、そういう顔するのはどうかと思うよ? はいこれ勇者の証よ、って言って渡されたらそう思っちゃうじゃん? だって書いてあるからねこれ、勇者って」
「わかりました、まあそれはもういいです。とりあえず勇者じゃないってことは認めるんですよね?」
「え? なんで認める? どうしてそうなる?」
「いやだってそれ偽物じゃないですか」
「いや、ニセモノっていう言い方もどうかと思うよ? 一応これ、一生懸命精根込めて作られてるわけだからさ。そういうのって気持ちじゃん? 本物とか偽物とかそういうことじゃないじゃん? ていうかいる? 証とかそういうの今さら」
「いや、勇者の証がないと魔王の城の結界が破れないんですけど……」
「あ? ああ、結界ね。まあそういうのもあるのかもしれないけど、今そういう話じゃないじゃん? 俺を追放するかどうかって話でしょ?」
「いやだから追放したいんですけど」
話はどこまでも噛み合わず平行線をたどる。
アランはこれみよがしにクソでかいため息をして、
「いやでもさ、ここまでやってきたんじゃん? まあ正直、俺もちょっとこれ違うのかな~? みたいなところはあったよ? 正直ね。でもなんだかんだでここまでやってきたじゃん? やってこれたじゃん? そしたらもうこれ、勇者じゃん? もはや勇者と言って差し支えないじゃん?」
「いやでもアランさんマジで弱いんで、いるとしんどいんですよ。これまで本当に大変でした。あなたがいなければもっとずーっと楽だったんですけど」
「え、なんで? なんで今? そしたらもう最後まで行こうよ、このまま魔王倒そうよみんなで。もうちょっと頑張ろうよ、最後だよ?」
「いや、最後だからこそもう遊んでらんないんです。マジ無理です。だいたい僕らの平均レベルは62で……勇者(仮)さんのレベルは23でしたっけ? ちょっとあまりにもレベル差が開きすぎているかと……」
「いやいやそもそも勇者ってレベル上がりづらいじゃん? 必要経験値が多いみたいな、基本そういうもんじゃん? レベルはみんなより遅れると思ってもらうのが間違いないんだけど」
「いや、そういう次元の差ではないですよね。ちゃんと戦ってないとやっぱ経験値って増えないんで」
「それはさ、俺がフォローに回ってるからみんな自由に戦えてるみたいなところあるじゃん? 汚れ役を全部俺が引き受けてるっていうか」
「勇者さんいつも背中は任せろ! って言って下がりますけどアレは意味があるんですか?」
「それは言葉の通りの意味だけど?」
アランはすかさずキレッキレに切り返し、マリクは完全に沈黙してしまった。
ならばとアランは攻勢を逆転し、畳み掛ける。
「そもそもレベルとかそういうのいらないと思うんだ。人を見た目で判断するなってのと同じように、レベルで判断するのも良くないと思うんだ。当然のように言ってるけど、逆に聞くけどレベルって何?」
「逆にの意味がわからないですけど……。強さの指標みたいなものですよ」
「なに指標とか、もう意味わからんわ。いきなりレベルとかわけのわからん横文字使うなって話。だいたい勇者パーティから勇者追放したらこれなによ? 何パーティよ?」
「何って言うか別に……普通の魔王討伐パーティですけど」
「普通の~? ふ~ん……まあそれで恥ずかしくないんならいいんだけどさ……困るよ? たぶん。勇者いないと魔王も困るよ? よくぞ来たな勇者め! って言うけど勇者いないけどどうするの? 絶対待ってるよ勇者を。ないじゃん? 勇者いないとか思わないじゃん?」
「いや別に魔王がどう思うとかそういうの関係ないです。ていうかそもそもあなた勇者じゃないんですよね?」
「勇者じゃないっていうかさ……う~ん、なんて言うんだろうな。仮に、まあ仮にだよ? 勇者じゃなかったとして……するとこのパーティに今まで勇者がいなかったことになるわけだけど、ってことは別に勇者いらないんじゃない? 勇者じゃなくてもよくない?」
「え? 勇者いるんだかいらないんだかどっちですか?」
アランの論理が高度すぎてマリクには理解できないらしい。
賢者といえどしょせんは人の子。ならばわかりやすくこちらも指標、とやらを示してやろうとアランは告げる。
「実はずっと隠してたんだけど、そもそも俺SSSランクよ?」
「何がですか?」
「いやだからSSSランク」
「いやいきなりSとかランクとか言われても……さっきわけのわからん横文字使うなとか自分で言っといて」
「SS級のスキル持ってるから」
「SSS? SS? どっちですか? スキルとは何ですか?」
「いやいや、俺を追放しようってことは、いわばもう赤の他人なわけじゃん? そういう人には教えられないよね普通に考えて」
「別に教えてくれなくていいですけど……どうせ嘘でしょう? そんなものがあるのならどうして今まで使わないのかと。ていうかSSSとかいきなり言い出しましたけどそれはなんですか? どういう意味ですか?」
「え? 知らない? なんか超すごいみたいなそういう意味だと思うんだけど。SSSとかまあなんでSが3つなのかはよくわからんけど」
とりあえず言ったもん勝ちとチラチラするが、マリクは一向に意思を覆す気配はない。
「もういいわ。自分あかんわ、ぜんっぜん話にならんわ。俺からしたら、勇者パーティから追放されるの君らだからね? こっち勇者側だから。わかる?」
「ああ、もうなんでもいいですよ。それじゃ、ありがとうございました今まで」
そう言ってマリクはあっさり立ち去ろうとする。
アランは腕組みをしてその後姿を眺めていたが、マリクが本当にいなくなろうとしたので慌てて追いかける。
「あーわかったわかった。俺もちょっと感情的になってたわ。まあ俺にも全く非がなかった、とは言えなくもないからさ。あのーなんだ。荷物とかだったら持てるから。全然、やるよ? それは」
「いや荷物持ちとか別にそういうのいらないんで」
「あ、わかった。そういうこと? じゃこれ渡すわ。ね? 勇者の証。これからマリクに勇者やってもらって、んで俺が賢者やるわ。それいいわ、それでいこう」
「ちょ、ちょっとやめてくださいよ、なんですかそんなのいらないですよ」
マリクは勇者の証を無理やり押し付けようとするアランの手を振り払うと、テーブルの上にどん、と金貨の入った布袋を置いた。
「わかりました。こちらもここで、いきなり一方的に追い出すのもさすがに悪いと思っています。なので手切れ金として、一万ゴールド置いていきます」
「えっ、結局金なの? 手切れ金とかそういう? 俺たちの関係って、金でどうこうできるような話? なんだかんだ言ってもさ、俺たち仲間じゃん?」
「さっき追放するならもう赤の他人とか言ってませんでした? まあいいです、じゃあこれに宝玉をいくつか足します」
「いやモノとかでもないと思うんだけどさ。……まあ、これは一応もらっとくけどさ。それで切れたりしないから。そういうので切れたりしないと思ってるから俺たちの関係は」
そう言ってアランは素早く金貨袋と宝石を懐に入れると、
「じゃ今日はとりあえず帰るけど、全然呼んでもらっていいから。すぐ行くからそしたら。あ、魔王倒したら挨拶行くから。じゃ、おつかれ」
親しげにマリクの肩をたたいて、酒場を後にした。
その後、賢者マリクは仲間の待つ宿屋の部屋に戻った。
戦士のギルバートがそれを出迎える。
「すまないなマリク。嫌な役割を頼んでしまって」
「いえいえ大丈夫です、バッチリ追放してきましたんで。なんかしつこく言ってくるかもしれませんが、今後一切無視で」
「そうか……ご苦労だったな。ところでマリク、お前にもちょっと聞きたいことがあるんだが」
「はい? なんでしょう」
「実は僧侶のカレンが、お前が賢者ではないのではないかと言って聞かないんだ。そこで済まないが疑いを晴らすためにも、賢者の証である賢者の書、を今ここで見せてほしいんだが」
以下ループ。