表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

オーク,はじめました!?その1

 皆さんは,「オーク」と呼ばれるモンスターをご存じだろうか

ご存じでないという方に説明すると,オークというのは,でかくて強い化け物のことである


 今,雑な説明をしたことに腹を立てて,このページを閉じようと,あるいはブラウザバックをしようとしただろう.だが,もう少しだけ読んでほしい.せめてあと三行ぐらいまでは.


 さて,オークのことをもう少し詳しく説明すると,奴らは大抵筋肉質で,豚のような醜い容姿をしており,二足歩行をする.そして,次の説明が重要なのだが,奴らは大抵,人間やエルフの女性を捕まえては,なにやらいかがわしい・いやらしいことをして回るという習性があると言われている.


 ここまでの説明でお分かりの通り,オークというのは実にいけ好かないスケベ野郎の魔獣ということになる.


 さて,この小説は,そんな好色大魔王であるオークの姿に,ある日突然変えられてしまった一人の青年のお話である.また,この男は,こともあろうか職がない.つまり,無職のオークが主人公ということになる.


 もっと正確に言えば,この話は,そんな無職の青年が一人のエルフの少女と出会い,なんやかんやあってオークにされ,さらになんやかんやあって,国を揺るがす大問題と対峙するという構成になっている.


 ちなみにこのお話,舞台になるのは王様の住んでいるお城がボンと建っていて,その城下町には人間と少しのモンスターが仲良く暮らしているファンタジー世界だ.「なんでファンタジーの世界観で主人公が無職なんだよ」と思う方,いらっしゃると思うが,そこに深い理由は無いし,私は取り立ててこの設定に不満が無いので,そこは了承してほしい.

 

 ここまで読んでもらって,「ああ,俺が求めているものはこれじゃないな」と思った方,遠慮なくこのページを閉じるなり,ブラウザバックなりをしてもらうといい.そうでない方も,遠慮はいらない.「この文体が気持ちが悪い」だとか,「文章が読みずらい」だとか,あるいは「率直に面白くない」と思うことが,この小説を読んでいる間中に頻出するはずだ.


 さて,ここらでエピローグは終わりであるが,前述したように,次の章からはいきなり無職の主人公が公園で暇をつぶしている場面から始まる.正直,その描写は心躍るようなものでもないし,読むのが苦痛であろうと思う.だが,この場面の主人公の心理状態や行動だけは,かなり細部まで凝って書けていると自負している.(残りの部分は全て蛇足である)


 よって,どうか心折れないで一章の前半だけは目を通してほしい.先ほど「遠慮なく途中で読むのをやめて構わない」と言った気がするが,気にしてはいけない.


 また,さらに蛇足になるが,主人公が無職であることと,作者である私の個人的なプロフィールとには,何の関係もない.私は職が無い傍ら,暇つぶしの自己投影のためにこれを書いているわけでは,決してない.




―――――――――――――――――――――――――――

ああ…父さん,母さん


僕が何をしたって言うのでしょう


確かに,僕は無職です.働いていません


その上,あまつさえ働いていた時には,よく仕事から逃げ出しました

親方によく怒られたなあ

「お前のような根性なしは初めてだ」って


でもだからって


僕がオークにされてしまう必要はなかったじゃあないですか


――彼がオークにされてから,さかのぼること数分前



 仕事を失ってこれで15日目

ミクスの生活は,なんというか,目に見えて困窮していた


 もちろん,財政面では,曲がりなりにもこれまでの蓄えってものがあるから,後しばらくは生活の工面はできるだろう.しかし,そうした即物的な条件はぎりぎりクリアできるとしても,精神的な余裕といったものは,まったくと言って彼の両手から零れ落ちていくようであるのでした.


 まず,仕事を失って最初の数日,彼はとにかく,死に物狂いで次に雇ってくれるところを探した

ただ,このご時世,あるのは条件の悪い働き口か,よくても専門的な経験を必要とする所ばかり

見るからにひ弱で,仕事もできそうにないミクスを雇ってくれる所など,一つもないのだった


 その週の休日,彼はとにかく寝て過ごした.もとの仕事でたまった疲れと,この三日足を棒にして仕事を探し回った疲れが,一気にやってきたのだ.加えて,これまで頑張ってきた仕事を失ったという,精神的なショックも大きかったのだろう.それはもう,泥のような見事な眠りっぷりであった.




 さて,休日全て使って眠ってしまったら,起きたときにはもう,全てのやる気はなくなっている.

そこからの彼は,日中に人気のない広場を散歩しては眠るだけの日々を繰り返した.

もちろんご飯は三食レトルト・スゥプ(この世界の携帯食)ですませる.


 その間,仕事をしていない手持無沙汰さと焦りだけは,どんどん彼の中に募ってゆく.

だが,取り立ててどうすることもできず,ミクスはこうして今日もお気に入りの人気の無い広場に来ては,たまに通りかかる鳩さんや猫さんとの交信のために時間を割いているのだった.


 そしてまもなく事件は起こる.それは,彼が実にその日4匹目となる鳩さんとの交信を試み,ついに警戒心を抱かせずに自分の足元におびき寄せることができそうな…できなさそうな…そんな時だった


「おい,そこの君」


 若い女の声がした.すかさず,驚いた鳩が「邪魔したかい?」と逃げていく.

ミクスは,「ああっ」といった情けない顔をした後,しょんぼりしながら声の主を探した


しかし,いつまでたっても声の主は見つからない.と,すかさず先ほどの声が彼をもう一度呼び止めた


「ここだ,ここ」


 それはミクスの真後ろから声をかけてきていた.

 振り向くと,人間でいえば10歳くらいの女の子の姿をしたエルフが立っている.

その佇まいはエルフ族らしく優雅であったが,同時にエルフ族らしく物怖じしない変わり者の風を漂わせていた.




正直に言えば,関わりたくないタイプのやつだとは,見た瞬間に分かった.

しかし他にどうしようもないので,仕方なくミクスは聞いてやる


ミクス「どうかされましたか?」

エルフ「王城に行きたい.ここから東で間違いないか?」


正確には,ここから東に進むだけでは城門には行けない.一度桟橋のほうから大回りして,上の道に出る必要がある.ミクスは,それを懇切丁寧に説明してやった.すると


エルフ「ふむ.よくわからんな.君,ついてきてくれないかね」


丁寧に説明してやったのに,この答えっぷり.まさしくエルフ族といったところだろうか,流石のミクスも,げんなりした非難の顔を彼女に向ける.しかし彼女はまったく気にしないといった風に


エルフ「どうせ暇なのだろう?さ,行った行った」


と,道案内を促してくる.とほほ,ミクスはこういった押しの強い人が苦手なのだ





王城のへの岐路にかかる桟橋に行くには,工場地帯(機械製ではなく,手製のものを指す)をまっすぐ抜けていくとよい.ミクスお気に入りの無職散歩コースでもあるこの道は見事なまでに人が少なく,それが工場の中の労働の活気と合わさって,妙なハルモニを生んでいた.


道すがら,何もしないのもあれなので,形だけの自己紹介などをする.

彼女の名前はセーラといった.歳は数え月で120.エルフにしては若いほうだろう.

仕事は薬売りをしているといっていた.

なんでも,「政府の密命を帯びながら,合間合間にこの仕事をしている」そうだ.なんとも胡散臭い.




さて,彼女は自己紹介をしようとするミクスを制し,「私が君について当てて見せよう」と言った

その後,彼女はまあ,不躾なまでにズバズバとミクスの経緯(いきさつ)について当てて見せた.


職がないこと,仕事ができなくて首にされたこと,親方と良い信頼関係を築けなかったこと,仕事が見つからず焦っていること…ミクスは,歩く途中でだんだん涙目になってきた.それぐらいにしておいてください


セーラ「なに,焦ることはないさ.仕事なら,私が紹介してやってもいいぞ」


彼女はそういってニッカリと笑った.

ミクスは,藁にも縋る思いで「ほんとですかぁ!」といった顔をしてしまい,すかさず首を横に振る.

そして,そんなうまい話があるものか,といった顔に,無理やりにでも作り替えた


セーラ「なに,本当さ.君みたいなひ弱で仕事のできない男に,ぴったりの働き口がある.コレだ」


彼女は,すかさず懐からニュッと,ドス黒い球を取り出した.それは彼女の薄笑いと相まって,妙な妖気を放っていた.


ミクス「こ,これ,なんですか?」

セーラ「ん?丸薬だよ」


薬屋なのだから,それはそうだろう.なんの薬かを聞いているのだ.そういったニュアンスを察してか,彼女はすぐに答えを言った.


セーラ「心配しなくても,ただの強壮剤さ.その辺の虫を煮詰めて作ったんだよ.栄養たっぷりだぞ」


聞けば,彼女は新薬を開発するのが趣味であり,その実験台となる治験のアルバイトを探しているのだという.


セーラ「どうだ,君.うちの薬は効くぞ?」


彼女がミクスに,ずい,と丸薬を差し出す.よく見れば,それは表面に甲虫の殻や足が埋まっていた.

遠慮します,ーも二もなく,ミクスは断った.




しかし,流石というかなんというか,セーラは持ち前のエルフ特有の図々しさを発揮して,食い下がった


セーラ「遠慮するな.ほら,私と君の仲だろう」

ミクス「今さっき知り合ったばっかりでしょう!やめてくださいその丸薬顔に近づけるの!」


ミクスはすかさずツッコむ.そうでもしないと,本当に治験をやらされてしまいそうだからだ.

だが,彼女は「ホレ,ホレ」とこちらの顔に丸薬を擦り付けてくる.どうやら,ミクスが嫌がっているのを楽しんでいるようだ.


結局,工場の最端部が見えてくるまで,治験のアルバイトをする,しないという議論は続いた.途中,彼女が「じゃあこの丸薬を試しに飲んでみろ,金ならいらん」という恐ろしいことを言いだしたが,ミクスも涙目になって全力で拒絶したせいで話はうやむやになり,結局ミクスが丸薬を半分に割って飲む,ということで話が落ち着いた.


ミクスは道すがら,渋々水筒からお茶を口に含み,なるべく味わわないように丸薬を飲み込んだ.喉につかえ,ゴホゴホと咳をする.しかも,丸薬は水溶性がつよく,喉に虫たちの香りがつーっとたちこめた.ミクスはさらに咳き込む.


そうして深刻なダメージを受けたミクスに,セーラが追い打ちをかけるように治験のアルバイトの概要についての説明を始めるのであった.





さて,そろそろ工場再端部に着くという所で,ふいに眼前に3,4ほどの人が現れた.

珍しいな.工場労働者だろうか.ミクスはふいに思う.

だが,近づいてくるにしたがって,彼らがどうやら3人連れの男であり,さらにどうやら不良(ならず)者らしいこともわかってきた.ミクスは,嫌だなあ,という面持ちで,工場のまわりに迂回路をさがした.


すると,ふいに3人がこちらの顔を見るや,つかつかと肩をいからせて歩み寄ってくるではないか.

ミクスは,しまった.早く逃げなければ.と思ったが,目標(えもの)を定めた彼らから逃げることは,既に不可能だった.


不良者たちが口をひらく.


「おおう!さっきのエルフの嬢ちゃんじゃねえか!」

「さっきはよくもコケにしてくれたな!ええ!」

「ちょっとツラ貸せや?オゥ?」


ほっ…,と,ミクスは思う.その時の彼は,「よかった.どうやら,この人たちは自分に絡んできたんじゃないみたいだぞ」という安堵と,「セーラさん,あなた,何したんですか」という呆れが半々.


試しに「お知り合いですか」ときいてみたところ,セーラは「知らん.誰だあいつら」と返した


「おい嬢ちゃん!聞こえてんぞオゥ!」

「そりゃあねえだろ!オイ!」


不良たちがが返す.セーラさん,聞こえてたみたいですよ.

しかしセーラは相変わらず無関心といった表情を崩さず,ともするとあくびなんかをしている.

このままだと埒が明かなそうなので,そのうちに不良の一人がこちらににじりより,お決まりのセリフを吐いてきた


「さっきはよくも俺たちにぶつかっといてシカトこいてくれたなオウ!」


ああなるほど.ミクスは納得する.それで因縁つけられちゃったってわけか.

よくあるお決まり.いかにも不良者達らしい常套句といったところか.

しかし,それだけでわざわざ,こんな辺鄙(へんぴ)な工場地帯まで追いかけてくるものだろうか

そう思っていると,次に彼らから発されるのは意外な言葉だった.


「しかも,今みたいに因縁つけた俺たちに『すまなかったな.コレはお詫びの品だ』とか言って変な薬をよこしたな!」

「あれ虫が練りこんであっただろ!スゲー味したぞオイ!」

「一つ丸ごと飲んじまったじゃねえか!!」


ミクスはずっこける.何,あんたアレを手当たり次第に人に飲ませてんの!?

そして,思わず不良たちに「あなたたちも飲まされたんですか…?」と話しかけてしまう.

その瞬間,ミクスと不良たちの間には,妙な相互理解,あるいは一体感のようなものが生まれた


「え?お前もぉ? あれヤベーよな…まだおれ喉に味残ってるもん…」

「俺なんか噛み砕いちゃったよぉ…」

「歯に虫の足が挟まってさ…うぇー…」


次々に,例の丸薬がいかに激マズだったかの話について花が咲いていく.

彼らは,こんな状況でなければ,今すぐに友達になれたであろう.

そして,ひとしきり尽きない話をしたあと,セーラに向かって,四人一斉に振り向いて彼女を睨む


セーラ「ええっと…」


流石の厚顔無恥も,これだけの人数にすごまれると焦ったのか


セーラ「なんだ,君たち.私が全部悪いみたいな雰囲気を出してきちゃってさ.はは」


などと笑っている.すかさず四人は,


「「「「お前が全部悪いんだよ!!!!」」」」


と大合唱した.そうして,ひとしきりセーラに対して4人で悪口を言ったり,彼女を睨んだりしたのでした


To be continued


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ