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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第3章
87/209

menu80 薬草汁飯、実食!

いよいよ薬草汁ことカレー実食です。

今日もどうぞ召し上がれ!

 ユルバは蓋を開けた。

 ぐつぐつと煮えたぎった鍋の中から、白い湯気が立ち上る。

 ふわりと鼻腔を刺激する独特な香り。

 まるで砂金を溶かしたような豪奢な色彩に、思わず目が眩んでしまう。


「これがカレー……」


 ごくりと唾を飲んだ。

 実はユルバは、あまり食というものに興味がなかった。

 それは彼女が作る料理からも明らかだろう。


 そんな彼女が今、カレーを見て感動している。

 自分が作ったという理由もあるだろう。

 でも、「美味しそう」と思わず呟いた。


 カンカン……。


 と音が鳴る。

 ニャリスが机をスプーンで叩いていた。

 紫色の瞳を爛々と輝かせ、待ちきれない様子だ。

 行儀の悪いネココ族の娘は、母親に怒られる。

 頭を小突かれると、ヘレネイとランクに笑われていた。


「じゃあ、皿を出して盛ろうか」


 ディッシュが指示を出す。

 ネココ亭にある木皿を借り、余っていた麦飯の上に、カレーをかけた。

 お玉からは薬草汁だけではない。

 ゴロゴロとした馬鈴薯や人参が転がり落ちてくる。

 肉にも、よく火が通りカレーをかけられ、キラキラと輝いていた。

 玉葱もトロトロだ。


「うわぁ~」


 ニャリスとヘレネイは、同時に声を上げる。

 瞳を光らせた。

 反応が似すぎていて、姉妹のようだ。

 それを見て、ノーラとランクが微笑む。


 自分が作ったカレーを今から他人が食べる。

 数百年生きてきて、初めての経験にユルバは戸惑っていた。

 まるで裸にされたかのように気恥ずかしい。

 少し顔を赤くしながら、神狼の母は言った。


「どうぞ召し上がり下さい」



 いっただきま~す!



 手を合わせ、そして声を揃える。

 それぞれが好きな具材を口に入れた。

 熱々のカレーに舌鼓を打つ。

 ほっく……。ほっく……。

 まだまだ熱い野菜に、猫舌のニャリスが苦戦している。

 ヘレネイが一口食べると、顔を輝かせた。


「うま~~~いぃ!」


 感想を上げる。


「うん。僕はどちらかといえば、辛いのが好きだけど、甘いのもいいなあ。子どもの頃に食べたカレーを思い出すよ」


 ランクも続いた。

 熱々のカレーに苦戦していたニャリスも、ようやく飲み込む。


「ニャリスはどっちかというと甘い方がいいから、ちょうどいいニャ」


 ノーラも満足げだ。

 ユルバの方を向いて、「美味しいですよ」と笑顔で答える。


 今まで自信なさげに下を向いていたユルバは顔を上げる。

 ピンと銀色の耳を立て、モフモフの尻尾をグルグルと回転させた。


「ホントですか?」


「ウソなんてついてどうするんだよ。ほら、ユルバも食べろ」


 ディッシュ自ら、カレーをよそう。

 席を勧めると、ユルバの前にスプーンと一緒に置いた。


 ふわり……。


 独特な香りが鼻腔を突く。

 すると……。


 キュゥゥゥゥウウウウンンンンン……。


 腹音が鳴った。

 まるで子どもが乳を欲しているような。

 随分可愛げのある音だ。


 当然、顔を赤くしたのはユルバだった。

 慌ててお腹を隠すが、すでに遅い。

 数百年生きる神獣とは思えないほど可愛い音に、周りの人間や獣人たちは、ニヤニヤと笑った。


 しかし、羞恥心よりもこの漂ってくる殺人的な香りには抗えない。


 ユルバは人間の作法通り、手を合わせる。

 「いただきます」と呪文(ヽヽ)を唱えると、いよいよスプーンを握った。


 玉葱、人参、馬鈴薯に、お肉。そして麦飯。

 どこから食べていいのか迷ってしまう。

 みんなの食べ方を見ると、特に作法があるわけではないようだ。


 ただユルバが気になったのは、やはり薬草汁――つまりはカレーそのものだった。


 汁が溜まった場所にスプーンを沈める。

 多少とろみのある汁がスプーンの皿に載った。

 そのままパクリと口の中に入れる。


「はうぅぅぅぅぅうぅうぅうぅうぅうぅううううう……」


 ユルバは絶叫する。


 うまい!

 でも、なんだこれ――と疑問も大きかった。


 甘いには甘い。

 けれど、ただの甘みではない。

 肉の脂とも、果物の汁とも、野菜の甘みとも違う。


 端的にいえば、とても総合的(ヽヽヽ)な甘みだ。


 甘みの中に、ピリッと辛さもあり、独特な苦みもある。

 野菜や肉が煮込まれたこともあり、旨みもある。

 味がとても重層的なのだ。

 いくつもの味が舌の上を通っていく。


 まるで味の行進だ。

 とんとんと舌の上で、味が足踏みする。


 不思議だ。

 たった1つの料理なのに、いくつも味がする。

 今までユルバが作っていたものとは、まるで次元が違った。


 では、野菜と一緒食べたらどうだろうか。


 ユルバは恐る恐るスプーンに載せる。

 初めはカレーの定番ともいえる馬鈴薯だった。


 少し大きめに切った馬鈴薯にも、カレーがかかっている。

 熱々のシャワーでも浴びたかのように湯気が立ち、ユルバを誘っていた。


「ふー。ふー」


 息で冷ます。


 少し温度が下がるのを見計らい、ぱくりと口を付けた。


「ほっふ! ほっふ!」


 熱い。まだまだ熱い。

 でも、美味しい。

 馬鈴薯の甘みと、カレーの独特の苦みと辛みがよく合っている。

 甘めに作ったものの、決して馬鈴薯の甘みを邪魔していないのもいい。


 大きさもちょうど良かった。

 包丁で切った時は、大きすぎたのではと思ったが、食べてみるとそうではない。

 むしろ口の中で汁と溶け合うことによって、絶妙なハーモニーを生み出していた。


 ユルバは続けざまに人参、玉葱を食べる。


 こちらも美味い。

 癖のある人参の甘みにも、野菜の中でも取り分け強い甘みを感じる玉葱にも、カレーはベストマッチしていた。

 特筆すべきは、そのどれもが邪魔になっていないこと。

 どんな相手にも決して悪い思いをさせない。

 むしろ引き立てていた。


 まるで食材のプレイボーイのようだ。


「肉は麦飯と一緒に食べるのがいいニャよ」


 ニャリスはアドバイスを送る。

 器用にカレーがかかった麦飯とサイコロ状に切られた肉を掬う。

 豪快に3者をパクリと頬張った。


「にゃっは~~~~んんんんん……」


 ご機嫌な声とともに、喉をゴロゴロと鳴らした。

 幸せそうな表情を浮かべて、口の中のカレー、肉、麦飯を咀嚼する。

 その顔を見るだけで、美味しそうだ。


 ユルバもまたチャレンジする。


 まず麦飯を掬い、そこに肉を載せる。

 うまくバランスを取りながら、ニャリスと同じく一気に頬張った。


「うんまぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁあぁあぁあぁあいいいい!!」


 再びユルバは絶叫する。


 確かにニャリスの言うとおりだ。

 カレーと肉、そして麦飯が渾然一体となっていた。

 麦飯は若干パサパサしているが、カレーと一緒に食べると全然気にならない。

 どろっとしているから、逆に麦飯によく馴染み、汁だけで食べるよりも美味しく感じる。


 さらに、そこに肉の歯ごたえだ。

 一口サイズに切られた肉と一緒に食べることによって、より噛み応えが増す。

 噛めば噛むほど、肉の甘みが広がり、カレーの甘みとよく合った。

 それに心なしか、普通に茹でるよりも柔らかく感じる。

 噛むと繊維がほどけ、そこにカレーがどんどん染みこんでいく。


 麦飯と同じく咀嚼するたびに、味が深まっていくように感じた。


 ユルバは、そのまま麦飯と肉を一気に掻き込んだ。

 口の周りにカレーが付いても気にしない。

 いつの間にか夢中になっていた。


 こんなに料理に対して、熱中したのは数百年生きてきて初めてのことだった。


「良かったら、これもどうですか?」


 ノーラがユルバに差し出したのは、パンだ。


 ネココ亭の店主は温めたパンに切れ目を入れる。

 そこにカレーと具を流し込んだ。


 即席のカレーパンの出来上がりだ。


 カレーの匂いと色に、ユルバは魅了されていた。

 即答で頷く。

 ノーラはニコリと笑って、差し出した。


 どうやって食べようかと迷っていると、横でヘレネイがお手本を見せてくれた。

 大きく口を開け、パンの先端を押し込むように口に入れる。

 そのまま勢いよく噛みちぎった。


 ユルバも倣う。


「おいしいぃい!!」


 再び叫ぶ。

 カレーとは魔法の料理なのだろうか。

 飯だけではない。

 パンにも絶妙にマッチしていた。


 素朴な味わいに、カレーの甘み、或いは辛みが合っている。

 特にパンは味が滲みやすい。

 しかも、サクッとしていて、噛み応えも申し分なかった。


 これも一瞬で平らげる。

 気がついた時には、指についたカレーを舐めていた。


「どうでした、ユルバさん」


 ノーラは尋ねる。

 ユルバは満足げに頷いた。


「美味しかった。ノーラ殿のパンも……。もう1杯おかわりしたいぐらいです」


「それは良かった。でも、カレーって、明日食べる方が美味しいんですよ。だから、今日全部食べるのはもったいないんです」


「そ、そうなのか。それは楽しみです」


 ユルバが感心する。

 そこにディッシュが口を挟んだ。


「1日寝かせると、具材によく味が馴染むからな。でも、1日寝かせなくても、美味しくなる方法はあるんだぜ」


「え? 本当かニャ、ディッシュ」


「ああ。野菜や肉ってのは、冷たい時ほど味が馴染むんだ。だから、鍋ごと氷水で冷やすと、一気に味が染みこむぜ」


 ニャリスはポンと手を打つ。

 ノーラやヘレネイたちも感心していた。


「さすがディッシュにゃ!」


「だったら、私はね――」


 カレー談義が始まる。

 ノーラだけではなく、ヘレネイたちも参戦し、我が家の料理について語った。


 ユルバは感心しながら、話を聞く。


「色々な作り方があるのですね」


「そうだよ。家ごとに、それぞれのカレーの味があるからな。そこに答えなんてないんだよ」


「ディッシュ殿の家にもあるのですか」


 と訊かれ、ディッシュは黙る。


 少し困った表情を浮かべて答えた。


「実はあまり覚えてないんだ。カレーの味を覚える前に、母ちゃんは死んじゃったからな」


「そ、それはすいません。私ったら大変な失言を」


「いいんだよ。……だから、ウォンには覚えておいてほしいんだ」



 母親の味を……。



本当にカレーって家ごとに違いますよね。


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よろしければ週末のお供にお加え下さい!

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― 新着の感想 ―
[一言] カレーが食べたくなりました。今日はお鍋を用意してしまったので…… 明日作ります(笑) 家のカレーは辛口です。お家によっていろんなカレーがあって楽しいですね。
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