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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第3章
71/209

menu69 油揚げのピッツァ

本日は作者のオススメ料理です。

今日もどうぞ召し上がれ!

「むほぉぉぉぉおぉおぉおぉおぉお! これは美味じゃのぅ!!」


 山の中――ディッシュが『長老』と呼ぶ大樹の根本で、少女の声が響き渡る。

 少々はしたない声を上げたのは、アリエステルだった。

 揚げたての油揚げを食べながら、幸せそうな顔をしている。

 サクサクという食音は、周りにいた者の食欲を増進させた。


「ディッシュ、私も1つくれないか」


「アセルスは散々食ったろ。もう豆腐は今ここにある分しかねぇんだ。揚げたてより、美味しいものを作ってやるから、ちょっと待ってろ」


「…………うん。待つ」


 アセルスはちょこんと切り株の椅子に座る。

 慰めるように彼女の横に座ったのは、ウォンだった。

 1人と1匹は食べ物を乞う子どもみたいに、ウルウルとディッシュを見つめた。


 ディッシュは首を振り、降参する。


「わかったわかった。1枚だけだぞ」


「やったぁぁぁああああ!」


 ウォンとともにアセルスは飛び上がって喜ぶ。

 サクサクと音を立てて、1人と1匹は食べ始めた。


 それを見て、フォンとキャリルの獣人コンビが苦笑する。

 さらにその横には、丸眼鏡を光らせたルヴァンスキーが立っていた。


「なんで、私まで……」


「いいじゃないですか、たまには。それにルヴァンスキーさんが、上に上申する前に私に報告してくださったから、今のディッシュさんがいるんです。私からもお礼をいいます、ルヴァンスキーさん」


 フォンは頭を下げる。

 ルヴァンスキーはまたもピキィンと眼鏡を光らせた。


「私は私の仕事をしただけです」


「お仕事で思い出しましたけど、どうしてこの辺りをウロウロしてたんですか? この辺りのチェックは先日は終わりましたよね」


 途端、ルヴァンスキーの顔が赤くなっていった。


「と、匿名の通報があったのだ。ここに魔導士が違法な実験をしていると」


「ふーん」


 フォンはジト目で睨んだ。


 ルヴァンスキーはさらに動揺する。

 眼鏡を吊り上げる指先が、若干――いや、結構震えていた。


「べ、別にあの者の料理が恋しいとか、そう言う風に思ったわけではないからな。か、勘違いしないでくれたまえよ」


「ふふ……。そういうことにしておきます」


 顔を真っ赤にする可愛い(ヽヽヽ)ルヴァンスキーを見ながら、フォンは笑った。


 一方、ディッシュは王族に褒美としてもらった窯の蓋を開ける。

 手を掲げて、熱を確認した。


「そろそろだな。よし。じゃあ、油揚げパーティーを始めるか」


 ゼロスキルの料理人の仕事が始まった。



 ◆◇◆◇◆



 ディッシュのやったことは、実にシンプルである。


 まず油揚げにバターを塗る。

 そこに具材を載せ、最後にキャリルに持ってきてもらったチーズをちりばめ、それを窯の中に入れた。


 しばらく待つ。

 すると、チーズの香ばしい匂いが漂ってきた。


 反応したのは、アリエステルだ。

 ディッシュと一緒に窯の中に入った油揚げを見つめる。


「ディッシュ、これはもしや……」


「にししし……」


 ディッシュは笑う。


 すると、油揚げの上に載ったチーズが溶け始めた。

 ぷくぷくと気泡のようにうごめいている。

 黄金色のベッドの上に、さらに黄金に輝くチーズ。

 まるで窯の中に隠れた財宝のようだ。


「そろそろだな」


 焼き上がった料理を皿に載せた。



 油揚げのピッツァの出来上がりだ!!



「おお! ピッツァ!!」


 アセルスが過剰に反応する。

 皿に載った油揚げのピッツァを見ながら、涎を垂らした。

 腹も鳴り、臨戦態勢は万端である。


「アセルス、ピッツァは好きか」


「アセルス様の好物ですよ。7日に1度は絶対に食卓に並んでいます」


 ピッツァに夢中の主に代わり、キャリルが答える。


「食べていいか、ディッシュ?」


「お前は後の分だ。まず最初はフォンとルヴァンスキーのおっさんに食べてもらう」


「いいんですか?」


「2人には世話になったからな」


「ふむ。……で、では遠慮なく」


 ディッシュは食べやすいように半分に切る。

 それをフォンとルヴァンスキーがそれぞれ摘んだ。

 すると、2人の間でチーズが糸を引く。

 まるで赤い糸のようだ。

 ただし、その糸は黄金の色をして、実に良い匂いを放っていた。


 その神々しい姿を見て、他の者はごくりと唾を飲む。

 アセルスとウォンは羨ましそうに見つめていた。


 いよいよ実食。


 フォンとルヴァンスキーは同時に食べた。


「こぉぉおおぉぉぉおぉおぉおぉおぉおおおんんん!!」


「むふぅぅぅぅぅぅうぅぅうぅうぅうぅぅうぅうぅう!」


 2人は同時に叫んだ。


 美味い!


 東方のテイストが強い油揚げに、まさかチーズが合うとは思わなかった。

 カリカリの油揚げに、チーズが絡まり独特の食感をもたらしてくれる。

 油揚げのカリカリに、チーズのトロトロ。

 カリカリとチーズのダブル共演だ。


 さらに、2つの味と食感に優秀な助演が現れる。


「サケだ!」


 ルヴァンスキーはチーズの中に隠れたピンク色の身を発見する。


「サケの塩辛さとチーズの甘さが相まって……」


 ああ……。このまま天に召されそうです。


 フォンの顔は、まさにチーズのようにトロトロになっていた。


 幸せそうな顔をする2人。

 一方、顔を赤くする者たちがいた。


「ええい! 我慢ならん! ディッシュ、早く妾にも寄越せ!」


「ディッシュ、早く食べたいぞ」


「うぉぉぉおおぉぉおぉぉおおぉおぉおぉぉお!」


 アリエステルが憤慨すれば、アセルスは半泣きになりながら懇願する。

 ウォンは渾身の遠吠えを上げると、山が震えた。

 キャリルは何も言わなかったが、尻尾がいつもよりも2倍ぐらいの勢いで回転している。


 皆が皿を持って、ディッシュの下に集まった。


「仕方ねぇなあ」


 ディッシュは早速窯の中でピッツァを焼き始める。

 次々と差し出された皿に載せていった。

 遅れてアリエステル以下、3名と1匹は油揚げピッツァを頬張った。


「うんまあぁぁぁぁああぃぃいいぃぃいいぃ!!」

「ぬほほほほほほぉぉぉおぉおおぉぉおぉお!!」

「うおおおぉぉぉおぉぉおおぉんんんんんん!!」

「悔しいですけど、おいしいぃですわぁぁぁあ!」


 3名と1匹はあっという間に撃沈する。


 サクサクと良い音を奏でながら、始めに気付いたのはアリエステルだった。


「む! ディッシュ、これはカリュドーンの燻製じゃな」


 アリエステルは昔を懐かしむように咀嚼した。


「その通りだ、アリス。そっちにはカリュドーンの燻製を具材として使った」


「むむ……。しかし、まだ何かあるな。この塩気はもしや――」


「おお! ミソだ! ミソをいれたのだな、ディッシュ」


 割って入ったのはアセルスだった。

 根っからのミソファンは、油揚げに塗られたミソを的確に指摘する。

 ただ食べるだけではない。

 ちゃんと食材のことも思い浮かべながら、アセルスも食べられるようになったらしい。


 カリカリの油揚げに、トロトロのチーズ。

 さらにカリュドーンの燻製の肉厚。

 とどめはミソである。


 カリカリとトロトロの中に、食べ応えのある肉の弾力。

 味もとっちらかっているようでまとまっていた。

 チーズの酸味に、燻製肉の旨味。

 そこにミソの塩気が入り、舌の上で暴れ回っている。


 まるで油揚げを舞台にした味の三銃士の共演だ。


「ぷはぁぁあぁぁあぁぁぁああぁあぁあぁ……」


 フォンは一服つく。

 当然、皿は空になり、お腹がぽっこりと出ていた。

 満足だ……。

 という風に、思わずペンペンと叩いてしまった。


 フォンの隣に座ったルヴァンスキーも満足したらしい。

 澄ましているもののいつも大理石のようにカチコチな顔が、今日は随分と緩んでいた。


「どうだった、2人とも。満足してくれたか」


「ありがとうございます、ディッシュさん。はい。大満足です」


 素直にフォンは感謝の意を述べる。


「ふん。なかなかだった。どうやら今日の具材の中身に違法な魔草はないようだしな。おいしかったと褒めてやろう」


 素直じゃないルヴァンスキーもまた、感謝を述べる。

 実はカリュドーンだったり、ミソやトウフの中に入ってる豆だったり、色々とグレーゾーンな材料はあるのだが、ギルドの外交員として指摘することはなかった。

 むしろ、それらを忘れるほど、ディッシュの料理は美味しかったのだろう。


 こうしてゼロスキルの料理人のお礼は終わる。


 そして、ついにディッシュは冒険者デビューすることになるのだった。


油揚げのピッツァを作ってみました。

Twitterの方に写真をあげるので、もし良かったらチェックしてやって下さい。

写真では、納豆としらすを使いました。

油揚げがサクサクしてて美味しいので、

お酒のお供にも、軽く食べたい時にも合うと思うので、良かったら作ってみてくださいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] なん…だと…!?早速確認しながら作って来るぜ! と思ったけどそういや料理作れなかったぜ! (´▽`)ハッハッハッハッハッ……( ´・ω・`)
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