menu69 油揚げのピッツァ
本日は作者のオススメ料理です。
今日もどうぞ召し上がれ!
「むほぉぉぉぉおぉおぉおぉおぉお! これは美味じゃのぅ!!」
山の中――ディッシュが『長老』と呼ぶ大樹の根本で、少女の声が響き渡る。
少々はしたない声を上げたのは、アリエステルだった。
揚げたての油揚げを食べながら、幸せそうな顔をしている。
サクサクという食音は、周りにいた者の食欲を増進させた。
「ディッシュ、私も1つくれないか」
「アセルスは散々食ったろ。もう豆腐は今ここにある分しかねぇんだ。揚げたてより、美味しいものを作ってやるから、ちょっと待ってろ」
「…………うん。待つ」
アセルスはちょこんと切り株の椅子に座る。
慰めるように彼女の横に座ったのは、ウォンだった。
1人と1匹は食べ物を乞う子どもみたいに、ウルウルとディッシュを見つめた。
ディッシュは首を振り、降参する。
「わかったわかった。1枚だけだぞ」
「やったぁぁぁああああ!」
ウォンとともにアセルスは飛び上がって喜ぶ。
サクサクと音を立てて、1人と1匹は食べ始めた。
それを見て、フォンとキャリルの獣人コンビが苦笑する。
さらにその横には、丸眼鏡を光らせたルヴァンスキーが立っていた。
「なんで、私まで……」
「いいじゃないですか、たまには。それにルヴァンスキーさんが、上に上申する前に私に報告してくださったから、今のディッシュさんがいるんです。私からもお礼をいいます、ルヴァンスキーさん」
フォンは頭を下げる。
ルヴァンスキーはまたもピキィンと眼鏡を光らせた。
「私は私の仕事をしただけです」
「お仕事で思い出しましたけど、どうしてこの辺りをウロウロしてたんですか? この辺りのチェックは先日は終わりましたよね」
途端、ルヴァンスキーの顔が赤くなっていった。
「と、匿名の通報があったのだ。ここに魔導士が違法な実験をしていると」
「ふーん」
フォンはジト目で睨んだ。
ルヴァンスキーはさらに動揺する。
眼鏡を吊り上げる指先が、若干――いや、結構震えていた。
「べ、別にあの者の料理が恋しいとか、そう言う風に思ったわけではないからな。か、勘違いしないでくれたまえよ」
「ふふ……。そういうことにしておきます」
顔を真っ赤にする可愛いルヴァンスキーを見ながら、フォンは笑った。
一方、ディッシュは王族に褒美としてもらった窯の蓋を開ける。
手を掲げて、熱を確認した。
「そろそろだな。よし。じゃあ、油揚げパーティーを始めるか」
ゼロスキルの料理人の仕事が始まった。
◆◇◆◇◆
ディッシュのやったことは、実にシンプルである。
まず油揚げにバターを塗る。
そこに具材を載せ、最後にキャリルに持ってきてもらったチーズをちりばめ、それを窯の中に入れた。
しばらく待つ。
すると、チーズの香ばしい匂いが漂ってきた。
反応したのは、アリエステルだ。
ディッシュと一緒に窯の中に入った油揚げを見つめる。
「ディッシュ、これはもしや……」
「にししし……」
ディッシュは笑う。
すると、油揚げの上に載ったチーズが溶け始めた。
ぷくぷくと気泡のようにうごめいている。
黄金色のベッドの上に、さらに黄金に輝くチーズ。
まるで窯の中に隠れた財宝のようだ。
「そろそろだな」
焼き上がった料理を皿に載せた。
油揚げのピッツァの出来上がりだ!!
「おお! ピッツァ!!」
アセルスが過剰に反応する。
皿に載った油揚げのピッツァを見ながら、涎を垂らした。
腹も鳴り、臨戦態勢は万端である。
「アセルス、ピッツァは好きか」
「アセルス様の好物ですよ。7日に1度は絶対に食卓に並んでいます」
ピッツァに夢中の主に代わり、キャリルが答える。
「食べていいか、ディッシュ?」
「お前は後の分だ。まず最初はフォンとルヴァンスキーのおっさんに食べてもらう」
「いいんですか?」
「2人には世話になったからな」
「ふむ。……で、では遠慮なく」
ディッシュは食べやすいように半分に切る。
それをフォンとルヴァンスキーがそれぞれ摘んだ。
すると、2人の間でチーズが糸を引く。
まるで赤い糸のようだ。
ただし、その糸は黄金の色をして、実に良い匂いを放っていた。
その神々しい姿を見て、他の者はごくりと唾を飲む。
アセルスとウォンは羨ましそうに見つめていた。
いよいよ実食。
フォンとルヴァンスキーは同時に食べた。
「こぉぉおおぉぉぉおぉおぉおぉおぉおおおんんん!!」
「むふぅぅぅぅぅぅうぅぅうぅうぅうぅぅうぅうぅう!」
2人は同時に叫んだ。
美味い!
東方のテイストが強い油揚げに、まさかチーズが合うとは思わなかった。
カリカリの油揚げに、チーズが絡まり独特の食感をもたらしてくれる。
油揚げのカリカリに、チーズのトロトロ。
カリカリとチーズのダブル共演だ。
さらに、2つの味と食感に優秀な助演が現れる。
「サケだ!」
ルヴァンスキーはチーズの中に隠れたピンク色の身を発見する。
「サケの塩辛さとチーズの甘さが相まって……」
ああ……。このまま天に召されそうです。
フォンの顔は、まさにチーズのようにトロトロになっていた。
幸せそうな顔をする2人。
一方、顔を赤くする者たちがいた。
「ええい! 我慢ならん! ディッシュ、早く妾にも寄越せ!」
「ディッシュ、早く食べたいぞ」
「うぉぉぉおおぉぉおぉぉおおぉおぉおぉぉお!」
アリエステルが憤慨すれば、アセルスは半泣きになりながら懇願する。
ウォンは渾身の遠吠えを上げると、山が震えた。
キャリルは何も言わなかったが、尻尾がいつもよりも2倍ぐらいの勢いで回転している。
皆が皿を持って、ディッシュの下に集まった。
「仕方ねぇなあ」
ディッシュは早速窯の中でピッツァを焼き始める。
次々と差し出された皿に載せていった。
遅れてアリエステル以下、3名と1匹は油揚げピッツァを頬張った。
「うんまあぁぁぁぁああぃぃいいぃぃいいぃ!!」
「ぬほほほほほほぉぉぉおぉおおぉぉおぉお!!」
「うおおおぉぉぉおぉぉおおぉんんんんんん!!」
「悔しいですけど、おいしいぃですわぁぁぁあ!」
3名と1匹はあっという間に撃沈する。
サクサクと良い音を奏でながら、始めに気付いたのはアリエステルだった。
「む! ディッシュ、これはカリュドーンの燻製じゃな」
アリエステルは昔を懐かしむように咀嚼した。
「その通りだ、アリス。そっちにはカリュドーンの燻製を具材として使った」
「むむ……。しかし、まだ何かあるな。この塩気はもしや――」
「おお! ミソだ! ミソをいれたのだな、ディッシュ」
割って入ったのはアセルスだった。
根っからのミソファンは、油揚げに塗られたミソを的確に指摘する。
ただ食べるだけではない。
ちゃんと食材のことも思い浮かべながら、アセルスも食べられるようになったらしい。
カリカリの油揚げに、トロトロのチーズ。
さらにカリュドーンの燻製の肉厚。
とどめはミソである。
カリカリとトロトロの中に、食べ応えのある肉の弾力。
味もとっちらかっているようでまとまっていた。
チーズの酸味に、燻製肉の旨味。
そこにミソの塩気が入り、舌の上で暴れ回っている。
まるで油揚げを舞台にした味の三銃士の共演だ。
「ぷはぁぁあぁぁあぁぁぁああぁあぁあぁ……」
フォンは一服つく。
当然、皿は空になり、お腹がぽっこりと出ていた。
満足だ……。
という風に、思わずペンペンと叩いてしまった。
フォンの隣に座ったルヴァンスキーも満足したらしい。
澄ましているもののいつも大理石のようにカチコチな顔が、今日は随分と緩んでいた。
「どうだった、2人とも。満足してくれたか」
「ありがとうございます、ディッシュさん。はい。大満足です」
素直にフォンは感謝の意を述べる。
「ふん。なかなかだった。どうやら今日の具材の中身に違法な魔草はないようだしな。おいしかったと褒めてやろう」
素直じゃないルヴァンスキーもまた、感謝を述べる。
実はカリュドーンだったり、ミソやトウフの中に入ってる豆だったり、色々とグレーゾーンな材料はあるのだが、ギルドの外交員として指摘することはなかった。
むしろ、それらを忘れるほど、ディッシュの料理は美味しかったのだろう。
こうしてゼロスキルの料理人のお礼は終わる。
そして、ついにディッシュは冒険者デビューすることになるのだった。
油揚げのピッツァを作ってみました。
Twitterの方に写真をあげるので、もし良かったらチェックしてやって下さい。
写真では、納豆としらすを使いました。
油揚げがサクサクしてて美味しいので、
お酒のお供にも、軽く食べたい時にも合うと思うので、良かったら作ってみてくださいね。







