menu171 黄金色に光る料理
個人的に『ゼロスキルの料理番』の後継的な作品である
『公爵家の小さな料理番様』が『公爵家の料理番様~300年生きた小さな料理人~』と改題され、
Kラノベブックス様より発売することとなりました。
『ゼロスキルの料理番』に負けない飯テロ作品になりますので、是非ご賞味下さい。
「はわわわわ……」
今、まさにアセルスが持つ箸の先端には、黄金色に光る料理があった。
黄金色の液体にサッとくぐらせ、高温の油から上げたばかりの料理は艶々していて、かつ偶然生まれるその姿は美の極致を思わせる。
何より漂ってくる仄かな油の匂いが食欲をそそった。
箸を握っているだけで、その衣の程よい固さが伝わってくる。
そのアセルスの顔も輝いていた。
目は少し潤みを帯び、そして口から涎を垂らしている。
早く食べたいのだが、大きく反り返った姿は雄々しく、いつまでも見ていたいぐらいおいしそうに見える。
「いただきます」
意を決して、アセルスはようやくロケットフィッシュの天ぷらを口にした。
周囲が固唾を呑む中で、響いたのは――――。
サクッ!
脳髄が震えるような気持ちのいい音であった。
「うまぁぁぁぁああああああああああああああ!!」
ついに辺境の聖騎士と呼ばれるアセルスは雄叫びを上げる。
もはやその肩書きは遠い過去で、すっかり食いしん坊騎士の名が板についてしまったが、それでもご飯を食べるアセルスの姿は非常に幸せそうだ。
「衣もサクサク感。その後に感じる、プリップリの歯応えがたまらん!!」
アセルスは唸る。
「身は厚く、強いボリューム感を感じる。そこに染み出してくる芳醇な脂と、ロケットフィッシュの旨みがじわっと舌を侵略してきて」
う~~ん。たまらん!!
アセルスは滝を登るロケットフィッシュのように舞い上がる。
今にも地底湖に入って、泳ぎかねない様子だ。
アセルスの反応を面白がりながら、ヘレネイとのランク、ルヴァンスキー、フレーナにエリーザベトも口にする。
「「「「「うっっっっっっっっっまあああああああああ!!!!」」」」」
みんなが叫んだ。
「おいしい。これ、本当に魔獣なの?」
「おいしいね。衣サクッとして、中はプリッとして」
「ふむ。興味深い」
「アセルスが唸るのもわかるぜ。頬が落ちちまいそうだ」
「うふふふ……。じゃ~あ、フレーナの頬はわたくしが食べちゃいましょうかねぇ」
すっかりロケットフィッシュの天ぷらに魅了されている。
ウォンも気に入ったらしい。
バリバリと音を立てながら、大量のロケットフィッシュの天ぷらを食べている。
「ふむ。……人間の食べ物にしてなかなかだな」
ちゃっかり食べているマジック・スケルトンもご満悦な様子だ。
1人冷静なのはルヴァンスキーだった。
一口食べた天ぷらの断面を、しげしげと観察している。
「ロケットフィッシュの身の旨みや、身の締まり方もいいですが、しっかりぬめりを取って、揚げる前に塩を振って臭みを取っているところがいいですね。甲斐あって、川魚にある臭みが消えている」
「お。さすがだな、ルヴァンスキーのおっさん」
「ルヴァンスキーさんは、本当に博識ですね」
彼に憧れるランクが言うと、本人はちょっと照れながら、片眼鏡を吊り上げた。
ディッシュ、その他の人間たちも知らないことなのだが、ディッシュと出会った後、ルヴァンスキーは密かに料理のことを色々と調べていたのだ。
「つまり、魔獣食がおいしいのは、ただ魔獣がおいしいだけではなく、ディッシュ君の料理人としてのたゆまぬ研鑽があったからですね」
最後に締め括る。
突然のお褒めの言葉に預かり、ディッシュはキョトンとしていた。
その彼の背中を、アセルスは思いっきり叩く。
「良かったではないか。ルヴァンスキー殿に褒めてもらえて。彼は滅多なことでは褒めないと有名なんだぞ」
アセルスは我がごとのように喜ぶ。
我に返ったディッシュは、ようやくいつもの調子を取り戻した。
「ありがとな、ルヴァンスキーのおっさん」
「私はありのままを話しただけです」
さも当然といった感じで、ルヴァンスキーは片眼鏡を吊り上げた。
どうやら,いつの間にかディッシュの料理のファンがまた一人できていたらしい。
それを感じて、ランクとヘレネイは顔を見合わせて笑っていた。
憧れの人が、同じ料理が好きと聞いてシンパシーを感じたのだ。
「おーい。ディッシュ、こっちの鍋が吹いてるぞ」
振り返ると、フレーナが白い湯気を吐いてる鍋を指差していた。
それを見て、ディッシュはペロリと下を舐める。
「お。出来上がったな。俺の最終兵器」
「さ、さ……」
「最終?」
「兵器ですか~??」
アセルスたち3人組が、首を傾げる。
ディッシュは木でできた押し蓋を持ち上げた。
今度現れたのは、飴色に染まったロケットフィッシュの身だ。
「うん。いい色をしているな。頃合いだ」
「ディッシュ、それは?」
アセルスの質問を聞きながら、ディッシュは丁寧に両手を使って、木の皿に盛りつけていく。
ロケットフィッシュの煮付けだ。
ディッシュは嬉しそうに料理を紹介した。
本人はこの煮付けが楽しみだったらしい。
「捨てようと思っていたロケットフィッシュの骨から取った出汁を使ってるんだぜ、これ。つまり、そこにいるマジック・スケルトンと一緒だってことだ」
「おお。マジック・スケルトン」
アセルスは反応する。
きっと彼女の脳裏には、ディッシュが作ったラーメンが思い浮かばれていることだろう。
魔獣から取った出汁も、鶏ガラや豚ガラに負けず劣らず、素晴らしい旨みを出していた。
その再来かと思えば、いくら今までたくさん食べてきても、腹が鳴ろうというものだ。
「食うか?」
「もちろん!!」
アセルス、さらにウォンが頷く。
後ろのオーディエンスも同様のようだ。
みんなで食べることになり、ディッシュがそれぞれに配っていく。
色々食べたが、ロケットフィッシュはまだまだ大量にある。
魔獣は保存が利かないため、今食べなければおいしくないのだ。
「みんな、行き渡ったか? じゃあ……」
一斉に手を合わせた。
「いただきます!」
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