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☆☆ コミカライズ更新日 ☆☆
あけましておめでとうございます。
さて本日ヤングエースUP様で、『ゼロスキルの料理番』のコミカライズ最新話が更新されました。
是非チェックして、応援よろしくお願いします。
また1月10日にはニコニコ漫画&コミックウォーカーにて、11品-2が更新予定です。
過去のお話ですが、無料なのでそちらもどうぞ。
「ホットアップルサイダーじゃと!」
アリエステルは素っ頓狂な声を上げる。
アセルスも目の色を変えた。
特に2人が反応したのは、「サイダー」という文言だ。この言葉は、この世界の言葉では『泡水』という意味で特に麦酒などの表現に使われる。
しかし2人が思い出したのは、麦酒ではなく回復クラゲだ。口の中で弾けるパチパチとした刺激に、喉越しも最高だった。
それを想像して、思わず王女と聖騎士は涎を垂らしてしまう。
「残念だけど、今回は回復クラゲは使ってないぞ」
「「ええ……」」
アリエステルとアセルスの顔が奈落へ落ちたかのように沈む。
頭を垂れて、落ち込んだ。
「そんなに落ち込むなって、『泡水』ほどじゃないけど、こっちも刺激が強くて面白い味だぞ」
ディッシュは大きなお玉を使って、黄金色のホットアップルサイダーを木のコップに注ぐ。
ふわり、と漂ってきた香りを嗅いで、アリエステルとアセルスは反応した。
「まあ、ディッシュがそこまで言うなら」
「わくわく」
アリエステルは渋々受け取り、アセルスは期待に胸を膨らませる。
早速口を付けた。
「「おいしいいいいいいいいいい!!」」
2人は絶叫する。
「キングアップルジュースの濃厚な甘みに、檸檬や蜜柑などの酸味が加わり、さらに刺激的な味になっておる。なるほど。確かにこれは『泡水』の刺激によく似ておる」
「香りもいいですね。キングアップル、檸檬、蜜柑の芳香が口から喉へ、喉から体内へと充満していくようです」
「このカッとする熱気も良い。なるほど。こちらには、ショウガを入れたのか。それにこの独特の甘い香りは桂皮だな。よいアクセントになっておる」
「正解! さすがだな、アリエステル」
「ふん。これぐらい当然じゃ」
「おいしい。それに身体がポカポカしてくる。冬にピッタリの飲み物ですね、これは」
エーリクも絶賛した。ニャリスや、他に試飲した者たちも満足そうだ。
「さーて、試飲は済んだな。……待たせたな、お客様。これ飲んで、みんなで温まってくれ」
ディッシュは次々に木のコップに、ホットアップルサイダーを注いでいく。
温かいものに飢えていたお客たちは早速飛びついた。
白い湯気を上げるホットアップルサイダーに息を吹きかけ、慎重に口を付ける。
「うまい!」
「おいしい!!」
「身体が温まるわぁ」
「香りも最高ね……」
大絶賛だ。
先ほど怒声を浴びていた民衆たちが、再びエーリクの店に群がる。当然、先ほどのホットアップルサイダーはみるみるなくなっていった。
「まずいにゃ、ディッシュ。もうホットアップルサイダーがなくなっちゃうにゃ」
給仕を務めていたニャリスが半泣きになりながら、泣き言を漏らす。
代わりに応えたのは、エーリクだった。
この出店を通して、一気に成長した吸血鬼族の王子様は空を見ながら、グッと拳を握った。
「いえ。大丈夫です、ニャリスさん。間に合いましたから」
その瞬間、裏通りに大きな影が広がる。
ふと顔を上げると、翼を広げた吸血鬼族たちが降下しようとしていた。
何やら大きな荷物を運んできたらしい。数人がかりで木箱をつり下げたまま降りてくると、エーリクの前で着地した。
突然吸血鬼族襲来に、その場は騒然となる。だが、吸血鬼族たちは気にした様子もなく、エーリクの前に傅いた。
「エーリク様、お待たせして申し訳ありません」
「いや、ナイスタイミングだったよ。例のものを持ってきてくれたんだね」
「はっ!」
吸血鬼族たちは持ってきた荷物をほどく。
木箱の中に入っていたのは、できあがったばかりの赤い腸詰めが入っていた。
さらに持ってきた甕の中には、キングアップルジュースも入っている。
「こ、こんなに……!」
目を丸くしたのは、アリエステルだ。
「受け取って、アリエステル王女。ここにいる皆さんに分けてあげて下さい。これは、友好の証として……」
「エーリク、お主――――」
「今年はカルバニア王国の南で水害の被害があったんでしょ? だから国庫の解放もギリギリしか出せなかった――だよね」
「見抜かれておったか」
「カルバニア王国とラニクランド王家は一心同体。どちらかが困れば、それを支えるのは同然さ。君が僕に目をかけてくれたようにね」
エーリクは軽く目で合図する。
魅了の魔眼の力を抑える眼鏡をかけているのに、アリエステルの頬は赤くなっていた。
「むふふふ……。王女、もしかして照れてます」
「にゃにゃ! 顔が真っ赤にゃ」
『うぉん!』
ウォンまで加わり、ニヤニヤと笑う。
「う、うるさいわい! ホットアップルジュースのおかげで……か、顔が火照っただけじゃ」
ついには顔を背けてしまった。
だけど耳たぶまで真っ赤だ。
それでもやっぱりエーリクの事は気になるようで、最後には頭を下げた。
「カルバニア王家を代表して、礼を言う。ありがとう、エーリク王子」
「改まる必要なんてないよ。いつも通り、エーリクって呼んでほしい」
またエーリクが笑うと、またアリエステルの顔が赤くなった。だが、今度は真正面から受け止め、王女は笑う。
「エーリク王子!」
と声をかけたのは、一般民衆の1人だった。
他にも店の前に集まってくる。皆、エーリクの出店の料理を頼んだものたちだ。中には粗末なものを着ている人間もいる。
エーリクはそうした人間には無料で振る舞うことにしていた。
そんな彼らがエーリクに向かって頭を下げる。
「ありがとうございます」
「ありがとう、吸血鬼の王子様!」
側の子どもと一緒に感謝の言葉を告げる。
「ありがとう!」
「ご支援感謝します」
「あなたのような吸血鬼族もいるんだな」
「吸血鬼族の名物も、また楽しみにしてます」
「ラニクランド王家、万歳!」
「カルバニア王家、万歳!」
「ラニクランド王家と、カルバニア王国に栄光あれ!」
万歳! 万歳! と民衆が声を上げる。
そこにはラニクランド王家とエーリクを讃える言葉が並んでいた。
エーリクはその声を聞きながら、眼鏡を取り涙を拭いた。
結果的に祖国祭は大盛況に終わった。
その終わりに国王自ら声を上げて、ラニクランド王家から食糧支援を受けることを発表した。
むろん、それはエーリクや吸血鬼族たちが運んできたものとは別だ。
餓死者が出るかもしれないと頭を悩ませていた王宮の官僚たちが、ほっと胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。
アリエステル曰く、これで王宮内部にいる吸血鬼族に懐疑的な人間たちも大人しくなるだろう、ということだった。
一方、エーリクは惜しまれつつも閉店したラニクランド王家の出張店の前に佇んでいた。
あれほどいた人の姿はない。
ただ闇が佇んでいるだけだ。
空を見れば、星が出ている。所謂、吸血鬼族が好むとされる夜の時間だ。
一抹の寂しさを感じつつも、エーリクは店があった場所に頭を下げる。
来てくれた客や、働いてくれたアセルス、ニャリス、使った食材、そして調理を手伝ってくれたディッシュ。
何よりもそこで生まれた思い出や記憶に、エーリクは敬意を表す。
生きてきた中で最高の祖国祭だった。
そしてディッシュたちの方へ向き直る。
「ディッシュさん、アセルスさん、ニャリスさん、そしてお仲間の方々……。本日は本当にありがとうございました!」
エーリクは改めて頭を下げる。
その肩をポンと叩いたのは、ディッシュだった。
「こちらこそありがとな、エーリク。俺もいい経験をさせてもらったからおあいこだ」
「ディッシュさん……」
「頑張りましたね、エーリク王子」
「アセルスさんもありがとうございます」
「私は別に……」
「メイド服姿はとっても可愛かったです」
「そ、それは――――」
アセルスの顔が真っ赤になる。
今は騎士の姿に戻ったが、思わず手で身体を隠してしまった。
「オレたちも忘れないでほしいな」
「そうだそうだ」
「一緒に戦った戦友だろうが」
そう言ったのは、出店の店主たちだ。
出店が閉店するまで待っていてくれたらしい。
「ええ……。店主のみなさんもありがとうございました」
「あんた、王子様にしておくにはもったいないぐらいの料理人だ」
「また一緒に店を出そうぜ」
「今度は負けねぇけどな」
店主たちは「ニッ」と歯を見せる。
「なら、俺も出そうかな。今度はエーリクのライバルだ」
「そ、それは――――いいえ。もし、そうなっても負けませんからね」
「ということは、来年の祖国祭にも参加決定だな」
アリエステルが口を挟む。
「つまり、祖国祭の前にコソコソと挨拶することはしない。それで良いか?」
念を押した。
エーリクは少し考えてから、首肯する。
「うん。もうコソコソと隠れたりしないよ。今度は、正式にご挨拶に向かわせてもらう。父と母を伴ってね」
「うむ。良かろう。楽しみにしておる。お主と、お主が考える吸血鬼族名物をな」
「楽しみにしておいて。君の舌を唸らせるぐらい凄いのを作るから」
そう言って、エーリクは腕まくりをする。
細い腕を見せながら、ふんと鼻息荒くして、やる気を見せた。
エーリクは迎えの馬車に乗る。
そこにはラニクランド王家の家門と旗が靡いていた。
表通りを堂々と馬車が進む。
しかし、そこに石をぶつけるものはいない。
中にはその馬車に向かって、頭を下げる者さえいた。
こうしてカルバニア王国とラニクランド王家にあった深い差別の歴史は、少しだけ解消された。
『その間を取り持ったのは、ある少年の料理であった』
これは後に編纂された王国後記に記された1文である。







