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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第6章
178/209

menu156 アリエステルのオススメ

☆☆ 本日コミカライズが更新されました ☆☆



「何をしておるのだ、アセルス?」


 聞いたことある声に、アセルスは振り返る。


 そこに立っていたのは、見窄らしい町娘。


 いや、違う。フードの奥から光る大きな緑色の瞳には、覚えがある。


 町娘みたいな服装でも、その白い肌と利発そうな雰囲気だけは隠せていなかった。


「あ、アリエステル王女!!」


 アセルスは声を上げる。自分の声で、顔を覆っていた仮面がズレる程だ。


「あ! 愚か者!!」


 アリエステルがアセルスの口を塞ごうとした時には遅かった。


 周囲が騒がしくなる。最初はわからなかった民衆たちも、次第にフードの奥にある可愛らしい顔にピンと来たらしい。


 たちまち騒ぎになり、護衛たちが集まって、守らなければならないという状況にまで陥った。


「す、すみません、アリエステル王女。つい――――」


「ええい! もう仕方ないのぅ!!」


 アリエステルはついにフードを脱ぐ。


 露わになったのは、綺麗にロールされた金色の髪だ。


 腰に手を当て、やや顎を上げる。


 それまで隠していた統治者の親族としての覇気を、存分に見せびらかす。


 不思議なことに、民衆の騒ぎは収まった。


 恐れ多いとばかりに、群がってきた民衆の方たちが自然とアリエステルから離れて行く。


 その光景に、さしもの聖騎士アセルスも息を飲んだ。


 カリスマ王女だからこそ、成せる技なのだろう。


「お忍びで来てみれば、この騒ぎじゃ。人気者も困ったものじゃのう。さて、少し声を出したら、喉が渇いた。美食家を名乗る者として、これはいかん。冬は乾燥するからますます困るわい。……おい、そこの仮面のメイドよ。妾にも1杯くれぬか?」


「え? あ……! は、はい! 是非1杯飲んで下さい」


「ふむ……。なかなか綺麗な色をしておる。香りはいかがか? うーん、よい香りじゃ。林檎の酸味が効いた香りが、つんと鼻を衝き、優しく喉の奥へと抜けていくではないか。さて、味は――――」


 アリエステルは躊躇することなく呷った。


 その大胆な行動に、民衆から声が漏れる。


 王女の健康を心配したが、飲み干した後のアリエステルの顔は実に満足そうであった。


「うーん! 甘い! 濃厚じゃ! こんなにも綺麗で美しいのに、果肉をそのまま食しているかのように濃い味じゃ」


 アリエステルの顔が赤くなっていった。


 すでにジュースのおいしさに酔ってしまったらしい。


 彼女自身、まさかこれほどとは思っていなかったようだ。


「酸味のパンチも効いておるな。故に喉越しの切れが良いし、甘みの強さも際だっておる。これを飲まぬとは、人生半分損してるものだぞ、チラッ!」


 アリエステルは密かに民衆の反応を見る。


「全くその通りでございます。弱りました。さっき行った場所では、それはもうたいそうに売れまして、ここにあるのを含めて、あと少ししかありません、チラッ」


 同じくアセルスも、下手な芝居を打ちながら、民衆の方を見つめた。


「それは運がいいのぅ。こんなにおいしいジュースが飲めて、妾は幸せだ。さて、次は誰がこの幸せを掴むかのぅ、チラッ」


 民衆たちは戸惑っていた。


 吸血鬼が作った魔物のジュース。


 そしてそれを薦めるメイドも、どこか不審げだ。


 けれど、それがアリエステル王女のお墨付きなら別である。


 王女が、美食家であることは、市中の人間もよく知る事実。度々王都の料理店で目撃されることもしばしば。


 つまり、自分たちより遥かに舌が肥えている相手が、目の前のジュースを認めている。


 しかも、もう残り少ないという。


 これで飲まずして、果たして後悔などないと言えるだろうか。


「1杯! 俺に!」

「わたしにもお願い!」

「じゃあ、わしにも頼む」

「こっちも!!」


 次々と手を上げる。


 あっという間に、トレーの上にあったキングアップルジュースがなくなった。


 その代わりに、聞こえてきたのは、民衆たちの嬉しい悲鳴だ。


「う、うまい!」

「おいしい! 何これ!!」

「これが魔獣の?」

「信じられないんだけどぉ」


 歓喜の声を上げる。


 皆が口々に感想を言い合い、魔獣料理をジャッジした。


 ここぞとばかりに動いたのは、アセルスである。


「今、ここで飲めなかった方も心配ご無用。ラニクランド王家公認の出店に来てみれば、まだまだジュースが飲めるからな。おいしい! おいしい! ラニクランド王家名物、赤い腸詰め(ソーセージ)もオススメだよ」


 アセルスは出店の場所を示したプラカードを掲げる。


「どうする? 行ってみる?」

「ママ! ジュース飲みたい」

「赤い腸詰め(ソーセージ)だって」

「面白そう!!」


 口上を聞いた人々が、足を向ける。


 アセルスはその先頭に立って、未来の客を先導した。


 その横には、ちゃっかりアリエステルが加わっている。


「助かりました、王女殿下。……あと、正体をばらしてすみません。お忍びなのに」


「良い。そもそもエーリクは妾ら王族の客人だ。それを公務優先するため、お主たちに任せたのは、妾だ。咎めはせんよ」


「ありがとうございます」


「しかし、まさか辺境の聖騎士たるお前が、そんな女給姿になるとはな」


 アリエステルは口角を上げて、早速メイド服姿のアセルスをいじる。


 面倒くさくなって、ついに仮面を取ったアセルスは、一先ず息を吐いた。


「慣れないことはするもんじゃありませんね」


「その恰好、ディッシュには見せたのか?」


「え? その……でぃ、ディッシュですか?」


 いきなり強()撃を食らったアセルスは、たちまち赤くなる。


「その様子だと……」


 アリエステルはニヤニヤと笑う。


 耳まで赤くしたアセルスは、最後には観念して頷いた。


「あやつはなんと言ったのじゃ? ほれほれ……。言ってみせよ」


「でぃ、ディッシュは、その…………か、かわ…………」



 可愛い、とだけ……。



 その瞬間、アセルスの顔は燃えるように赤くなるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] お久しぶりです。 今回も美味しく頂きました。 いや~、王女様と騎士を客引きに使うとは、なかなかのものですな。ま、旨いのが前提ですけどね。 アセルス様がメ、メイド姿とは、 あの見事な着こな…
感想一覧
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