menu154 名物を広めるニャ!
☆☆ コミカライズ更新です! ☆☆
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吸血鬼族名物、レッドバーンの腸詰めは、飛ぶように売れていった。
予想以上の反響だったが、対策を用意していなかったわけではない。
こんなこともあろうかと、あらかじめ多めにレッドバーンの腸詰めを作っておいたのだ。
レッドバーンの鱗は建材などにも使われる。
加工業者は鱗しか使わないため、捨てられていた肉の中で使えそうなものをピックアップし、次々と腸詰めに加工していった。
加工業者にとっても嬉しい話だ。
これまでレッドバーンを焼いて処理するしかなかったそうだが、1体焼くだけでもかなりの燃料や薪が必要になる。その代金が丸々浮くと加工業者は色めき立ち、ほぼ無料同然でレッドバーンの肉を譲ってくれたのである。
さらに竜種の固い鱗は、業者が取ってくれているため、一石二鳥だ。
おかげで鮮度が命である魔物の肉をすぐ調理することができた。
「にししし……。もしダメだったら、みんなでやけ食いと思っていたけどよ。なあ、エーリク」
「ここまでうまくいくとは思いませんでした」
横で腸詰めを焼くエーリクの顔は実に清々しく、また額に汗をした姿は頼もしくもあった。
生まれ変わったエーリクを見て、ディッシュの顔も綻ぶ。
エーリクの覚醒こそ、ディッシュにとって1番の嬉しい誤算だったかもしれない。
吸血鬼名物と銘を打っているが、中身はまさしく魔獣料理。
これまで人間たちが忌避し、ディッシュしかその魅力を知らなかった。
それがアセルスたちと出会い、その後徐々に仲間を増やし、今や押しも押されるヒットメニューになりつつある。
「アイツが見たら、どう思うかな……」
ディッシュは空を見上げる。
自分探しの旅に出て行った偏屈な竜のことを思い出すのだった。
◆◇◆◇◆
「うんまぁぁぁぁああああああ!!」
声を上げたのは、アセルスだった。
手には、ようやく口にすることができたレッドバーンの腸詰めが握られている。
食べた瞬間、寒さと緊張で固まっていた顔が、氷のように溶けていった。
いや、普段ディッシュの前で見せる、食いしん坊のアセルスに戻ったといったところだろう。
「肉汁の味が独特にゃ。さすがは竜の肉ニャ」
「食感も面白いですね。粗挽きで引いていますが、普通の粗挽き腸詰めと違って、さらに食感のアクセントが効いてるような気がします」
ニャリスと、キャリルも驚く。
「そしてなんと言っても、不思議に身体がポカポカしてくることだ。辛さというよりは、熱さを味と表現した理由も確かにわかる」
大蒜やショウガを入れると、身体がポカポカするが、それと似て全身が温まっていく。
色々なものを食べてきたが、こんなことはアセルスも初めてだった。
これが魔獣料理の不思議なところだ。
そして、それをうまく制御するディッシュもさすがだった。だが、今回はエーリクたち吸血鬼族の協力がなければ、実現しなかっただろう。
「これは商売のしがいがあるニャよ」
ニャリスは一気に腸詰めを食べ、飲み込んだ。
そんなに急いで食べなくても、とアセルスは思ったが、彼女には彼女の使命があったらしい。どん、と胸を叩くと、アセルスとキャリルの前に立つ。
「もっとこの吸血鬼名物を広めるニャ!」
「え? それってまだ宣伝するってことですか?」
「もういいんじゃないか。これ以上、客を呼んでも」
アセルスが諫めるが、すでにニャリスの意志は固い。
「いいや。ダメにゃ! この場所は、実はそんなに立地はよくないニャ。大通りから少し離れているし、それに吸血鬼名物があって、今大ヒットしてることも周知することも重要ニャ。ちょっとでも、1人でも吸血鬼族に対するイメージを変えることが大事ニャ」
「…………」
「…………」
「ど、どうしたニャ? ニャリス、なんかおかしいこと言ったかニャ?」
アセルスとキャリルが、キョトンとすれば、ニャリスも2人に向かって目を瞬いた。
「いや、すまん」
「今日のニャリスさんが、まともすぎて」
「どういう意味ニャ!!」
ニャリスは地団駄を踏むと、自分の旅行鞄を2人の前に差し出した。
「これを着るニャ!」
2人は覗き込む。
鞄の中から取り出すと、1着の見慣れた服を取り出した。
「ちょ! これを私が着るのか、ニャリス?」
「ダメです! アセルス様に、これを着せるなんて」
「アセルスぅ、ディッシュのために何かしたくないかニャ」
「ディ、ディッシュのため……だと…………」
「今回のアセルスって、何をやったかニャ?」
「わ、私はディッシュの護衛を……」
「ほっほー。でも、ディッシュにはウォンがいるニャ。いざとなれば、任せることもできるニャ。だとしたら、アセルスいらないニャ。お腹を鳴らして、御飯を食べて、奇声を上げる要員ってだけニャ」
「そそそそそ、そんなことは――――あるかも」
アセルスは認めてしまった。
確かに王都まで案内したのは自分だが、かといってもディッシュの商売を助けることができたかと言えば、そうでもない。
むしろニャリスの方がいい仕事をしてるだろう。
こうやって指摘されてみると、アセルス自身も何か自分にできることはないだろうか、と考え始めた。
「あ、アセルス様! ニャリスの言葉に騙されてはいけません! アセルス様は十分ディッシュの役に立ってるとわたくしは――――」
「わかった。着よう!」
「いい覚悟ニャ。その潔さに免じて、アセルスにこれを進呈するニャ」
ニャリスはアセルスに仮面を差し出すのだった。







