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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第6章
172/209

menu150.5 ゼロスキルの宣戦布告(後編)

挿絵(By みてみん)


本日(6月10日)、第3巻発売です。

書店にお立ち寄りの際には、どうぞお召し上がり下さい。

巻末のSSにもご注目くださいね。

 早速、エーリクは調理を始めてしまった。


 真剣な顔で赤い腸詰め(ソーセージ)を焼いていく。


 普通の腸詰め(ソーセージ)よりも大きい分、じっくりと長い時間をかけ、火を入れなければならない。


 くるくると回しながら、均等に熱を入れることが重要になっていく。


「ねぇねぇ。あれって吸血鬼の王子様なの?」

「らしいよ」

「マジ? ちょっとカッコよくない?」

「もっと怖い感じだったけど、どっちかというと守ってあげたいみたいな」


 王子様の真剣な顔は、見ていた女性客の胸を打ったらしい。


 ぽぅっと頬を染めながら、エーリクに熱い視線を送っていた。


「今のこの状況をアリエステル王女が見たらどういうかな?」


 アセルスはニヤリと笑う。


「ははは……。し、仕方ないですよ、アセルス様。エーリク様は実際綺麗なお顔をされてますし」


「ほほう……。キャリルの好みは、ああいう美少年かニャ」


 ニャリスはキャリルの肩をポンと叩きながら、ニヤリと笑う。


「ち、違います。からかわないで下さい、ニャリスさん!」


 むぅ、とキャリルは頬を膨らませた。


 犬と猫――路地裏の戦いは、吸血鬼が作る腸詰め(ソーセージ)の間で勃発しようとしていた。


「よーし。1皿目ができたぞ」


 ディッシュはできあがった腸詰め(ソーセージ)を渡そうとする。



「「「ちょっと待った!!」」」



 突如、胴間声が響き渡る。


 危なく赤い腸詰め(ソーセージ)を落としかけたが、ディッシュはなんとかキャッチした。


 顔を上げると、群がった客たちに割り込み、身体の大きな男達がやってくる。


 頭に捻り鉢巻きを巻き、腹巻きの前に小銭袋を下げていた。


 姿と着ている衣服から、この辺で商売している屋台の店主たちだろう。


 ブスッと唇を尖らせ、鋭い目つきで店主であるエーリクを睨んだ。


 アセルスは剣を構えようとしたが、それを止めたのはディッシュだった。


 様子を見ようと、アセルスに向かってアイコンタクトを取る。


「あんたが、店主かい?」


「はい。そうですが、何か?」


「お前、吸血鬼なんだってな」


 別の男が下から覗き込むように、エーリクにガンを付ける。


「俺たち困ってるんだよ。吸血鬼がこんなところで商売するから、人が寄りつかねぇ。周りの店が迷惑してるのわからねぇのか?」


「それは違うニャ! 自分たちのところにお客が来ないからって、変な言いがかりはやめるニャ!」


 ニャリスは腕を振り上げ、男たちに抗議する。


 すると、「それだけじゃない」と声を上げ、エーリクに向かってさらにクレームを入れた。


「しかも、売れないからって、ジュースを無料で振る舞いやがって……。その腸詰め(ソーセージ)も、無料で振る舞うつもりじゃないか? 吸血鬼の王家だかなんだか知らないけど、いいよな。殿様商売ができる坊ちゃんわよ」


 店主はエーリクの肩を押す。


 アセルスは仲裁に入ろうとしたが、それを制止したのはエーリク本人だった。


「ジュースを無料で振る舞ったこと、そして周りの屋台の皆さんに迷惑をおかけしたことはお詫びします」


「へっ! しおらしいじゃねぇか」

「吸血鬼って聞いてたから……。ビビって損したぜ」

「なら、とっととどけ! 王宮の中で、貴族にでも振る舞ってればいいんだよ」


 屋台の店主たちは「へへへ」と笑う。


 そこまで言われても、エーリクは引かなかった。


 集まった民衆の前にして、馬車の中で震えていた臆病な王子はいない。


 毅然と目の前の男たちを睨むと、首を振った。


「それはできません……」


「「「んだと!!」」」


「あなたたちも、この日の商売のために色々と準備してきたのでしょう。だけど、この晴れの日に店の命運を――――いえ、国の命運をかけていたのは、あなたたちだけじゃない。ここで僕が店を畳めば、ここまでお膳立てしてくれたディッシュさんや、アセルスさん、そのお友達の方々、何よりアリエステル姫に申し訳が立ちません!!」


「ここから引かないと?」


「はい……!」


「どうやら、(いて)ぇ目に合わなければならないみたいだな」


 男達がさらに1歩前に出てくる。


「やめろ! お前達! これ以上の狼藉は――――」


 アセルスはいよいよ剣を構えた。


 だが、男達は怯まない。


「やってみろよ。ここで騒ぎを起こしたら、吸血鬼と俺たちの声……。どっちを支持すると思う?」


 男たちはニヤリと笑う。


 それを聞いて、アセルスも構えを解かざるえなかった。


 男達はわかっていて、喧嘩を売っているのだ。


 仮に吸血鬼の屋台の前で騒ぎが起これば、ここにいるものは内情を知っていても、きっと新聞や噂で聞いた者たちは、吸血鬼が暴れたと考えるだろう。


 そうなれば、また元の木阿弥だ。


 迂闊に手を出すことはできなかった。


「まっ! そういうことだ! 意地でも出てってもらうぜ」


 バキバキと音を立てながら、拳を鳴らす。


 「フヘヘヘ」と不敵な笑みを浮かべながら、優顔の王子様に迫った。


「あんたら、それでも料理人かよ」


 その前にディッシュが立ちはだかる。


「なんだ、小僧! どけよ」


「どかねぇよ。――ったく。折角人が気持ちよく料理してるのに。なあ、あんたたち、1つ勝負しねぇか?」


「はあ? 勝負だと?」

「今から勝負してやるっていってんだ」

「調子に乗るなよ、小僧」


「腕っ節の勝負じゃねぇ。あんたらも料理人の端くれだろ? だったら、料理で勝負しようじゃねぇか」


「料理?」

「吸血鬼と?」

「ククク……」


「「「あははははははははは!!」」」


 男たちは一斉に声を上げて笑った。


「吸血鬼の料理と、俺たちの料理を比べる?」

「聞けば、魔獣を使ったとか言ってるじゃねぇか」

「そんな料理に俺たちの料理が負けるかよ!」


「なら、勝負は成立だな」


「は?」

「小僧、本気か!」

「泣きを見ることになるぞ」


「本気も本気だ。あんたらも本気になった方が良い。じゃなきゃ、あんたたち……」



 この赤い腸詰め(ソーセージ)に、焼かれて死ぬぞ。


無事、コミック3巻を上梓することができました。

実は、延野は今まで刊行してきた作品で、3巻以上続いた作品は、

こちらのコミックが最初になります。


これもひとえに漫画家の十凪先生と、キャラクター原案に携わっていただいた三登先生、そして買い支えていただいている読者の皆様のおかげです。

この場をお借りしてお礼を申し上げます。


書籍の『ゼロスキルの料理番』は2巻打ち切りとなりましたが、

後継作品として『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』という

作品が6月15日発売されます。


『ゼロスキルの料理番』で得た経験と打ち切られた無念を、この作品に込めた次第です。

どうか『魔物を狩るな~』も買い支えていただければ幸いです。

よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

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今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
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― 新着の感想 ―
[一言] 今回も美味しく頂きました。 料理勝負楽しみですね。 エーリク、男前になって。(泣潤潤) 他の亭主、一つ忘れてないかね? アセルス、確か貴族だったと思うけど? 不敬罪で痛い目にあうのはあな…
[良い点] あるある妨害! モブおじさん達参上! カリっと美味しそうなソーセージ実食は次回なあ? 楽しみです〜(≧▽≦) [一言] コミック買いました〜♪コミック版も楽しく拝読してます〜!
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