menu140 吸血鬼の王子
本日はコミカライズ更新日ですよ~!
吸血鬼族は、ルーンルッドでは比較的有名な種族である。
人族よりも遥かに力が強く、また賢く、獣の姿となれば、空も飛ぶことができる。そのためか、一般的には獣人族としてカテゴライズされていた。
そんなチートな能力を持った種族の1番の特徴は、血を栄養源としていることだ。
血を吸うという行動は、ルーンルッドにおいても恐ろしい行為として受け止められている。
そのため、数多くの伝奇や英雄譚に彼らは仇役として度々現れることがあった。
そのイメージが根付き、ひっそり暮らしていた吸血鬼族は迫害の対象となる。
かつてラニクランド王国という吸血鬼族だけの小さな国があったが、周辺諸国との対立により滅亡。
残った吸血鬼族は各地に散り、迫害され続けてきた。
辛くも逃げ延びたラニクランド王家も例外ではなく、各地を転々とした後、昔から昵懇の中であった当時のカルバニア王国国王を頼り、助力を請うた。
家臣、さらには民は、吸血鬼族を受け入れることを良しとしなかったが、先々代――つまりはアリエステルの曾祖父である国王は、すべての反対を押し切り、ラニクランド王家を国内で受け入れることを決める。
さらには領地を与え、吸血鬼族による自治を許したのだ。
こうしてカルバニア王国には、カルバニア王家とラニクランド王家という2つの王家が存在すると共に、唯一吸血鬼族が治める領地のある国となったのである。
「へぇ……。アリエステルの曾爺ちゃんって凄いヤツなんだな」
「凄いヤツなどと低俗に表現するものではない。今のカルバニア王国の発展は、妾の先々代の国王がいなければなしえなかったであろう」
吸血鬼族だけではない。
各国の種族待遇は様々だ。
人族だけの国もあれば、獣人族やエルフを奴隷として扱っている国もある。
その逆の国も存在し、種族格差の問題はどの国も頭を痛めている問題なのだ。
その中でも、カルバニア王国は様々な種族を受け入れて成功してきた優良国である。
種族格差問題を解消し、その融和策の基本路線を初めて取ったのが、先々代カルバニア国王なのである。
「そのラニクランド王家の王子が、どのような用件で来訪されるのですか?」
「さっきも言うたであろう。年の瀬の挨拶じゃ」
「それだけですか?」
アセルスが首を傾げるのも無理はない。
普通、年の瀬は祖国祭(ルーンルッドの正月)に向けての準備で、どこの領地も忙しいはずである。
そのため祖国祭に合わせて、国王に挨拶しに行くのが通例だ。
事実、祖国祭になると各国の領地からやって来た諸侯や貴族たちの馬車が、主門から王宮までずらりと並ぶ。
その光景は祖国祭における風物詩の1つとなっていた。
「祖国祭に来ると、他の諸侯や貴族を怖がらせてしまうからと、いつも年の瀬にやって来て、挨拶をしに来るのだ。妾は気にしなくていいとは言っておるのじゃが」
アリエステルは「はあ」と深いため息を吐くと、客車の窓が白く濁る。
実は、アリエステル、アセルス、ディッシュの3人はすでにカルバニア王宮を目指して、馬車に乗り込んでいた。
外を見ると、ウォンも付いてきている。
木枯らしが吹く今日は特に寒いのだが、神狼は物ともせず元気に街道を走っていた。
「種族間の不平等は解消されても、人の偏見はなくならないですからね」
「ああ……。俺も子どもの頃に聞いた英雄譚の中での吸血鬼族しか知らねぇからな」
「残念じゃが、王宮内でもいまだに吸血鬼族に対する恐れや偏見を払拭できているとは言いがたい。特にディッシュのように英雄譚で触れた若い世代は、見るだけで恐ろしがっている」
「子どもの頃に聞く吸血鬼族はトラウマものだからな」
「かといって、創作物の表現規制は王族のイメージダウンに繋がるからの。それに吸血鬼族には悪役としての人気がある。あれが、登場人物で出るのと出ないとでは、売上が全く違うらしい。なんとも皮肉な話じゃ」
アリエステルは小さく肩を竦める。
再び窓を白く濁らせた。
いつも高飛車な態度を取り、自信満々な美食家王女はいつになく物憂げな表情を浮かべていた。
「ま――。心配するなよ、アリエステル。ようは、その吸血鬼族の王子様の舌を唸らせればいいんだろう?」
「う、うむ。できるか、ディッシュ?」
「任せろって。子どもの頃、ビビらせてもらった分、料理でお返ししてやるつもりだ」
ディッシュは腕をまくった。
その勢いに、アセルスは感心する。
「いつになくやる気だな、ディッシュ」
「ちょうど試したかった料理があったんだ」
「おお! それはどんな料理なのだ、ディッシュよ」
アセルスは目をキラキラさせて、ディッシュに顔を近づけた。
ディッシュはチッチッチッと指を振る。
「そいつはできあがってからのお楽しみだ、アセルス」
「むむむ……。それは楽しみだが、もうお腹ががががががが」
アセルスはお腹を押さえて蹲る。
ディッシュは「にしし」と笑った。
「その料理ならば、吸血鬼族のお腹を満たせるのか、ディッシュよ」
「もちろんだ。期待してくれていいぞ」
「うむ。その言葉は素直に受け取るとしよう」
ようやくアリエステルの表情に笑顔が戻る。
少し楽しそうに鼻唄を口ずさんだ。
◆◇◆◇◆
久々の王都はせわしなかった。
あちこちで祖国祭の準備や飾り付けが行われている。
中央通りには屋台が出て、すでに前夜祭が始まっていた。
おいしそうな匂いがディッシュたちが乗り込む客車の中にまで漂ってくる。
ディッシュの料理にしか反応しないウォンは普通だったが、食いしん坊騎士アセルスは窓に顔をくっつけて屋台を眺めていた。
その変な顔を見て、子どもに馬鹿にされる始末だ。
突如馬車が止まる。
客車にはカルバニア王家の紋章が付いているから、そうそう止まることはないはずだ。
気になったアリエステルは、小窓を開けて、御者に質問した。
「どうした?」
御者の答えが返ってくる前に、威勢のいい声が客車に飛び込んできた。
「帰れ! 吸血鬼族!!」
「カルバニア王国から出て行け!」
「我が国に悪魔はいらない!!」
激しい糾弾の声が聞こえる。
小窓から覗くと、群衆に囲まれた1台の馬車があった。
堅牢な客車には、ラニクランド王家の紋章が入っている。
「何事ですか、姫?」
「ちょうど王子様がやってきたらしい。それが街の民衆に見つかった――というところだろう。ちょっと妾が言って、諫めてくる」
「あ、危ないですよ!」
アセルスが止めるのも聞かず、アリエステルは客車を降りる。
小さな身体が足早に大人たちが集う群衆の中に入っていった。
「何をしておるか!?」
アリエステルの叫び声が響く。
すると、群衆はざわめいた。
綺麗にロールした金髪と、派手な桃色の服装。
鋭い瞳を視認した時、群衆は息を飲んだ。
「「「「アリエステル姫!!」」」」
一瞬にして民衆から殺気が失われていく。
驚き、王族の畏敬の念が小さな王女に注がれた。
「何をしているのか、と聞いておる?」
しん、と静まった。
聞こえるのはアリエステルの靴音だけだ。
「この馬車の中にいる者を、ラニクランド王家と知って、罵声を浴びせているのか、痴れ者め」
「し、しかし、姫! 恐れながら、そこにいるのは吸血――――」
「吸血鬼族だからどうしたというのだ」
アリエステルを守ろうと前に出たのは、アセルスである。
いつになく厳しい表情を、いつもは守るべき民に向けていた。
腰に下げた細剣はそのままだが、青い炎のような瞳は釣り上がり、油断なく群衆を睨み付けている。
見目麗しい金髪の女騎士を見て、民衆は息を飲んだ。
「まさか【光速】の聖騎士か」
「アセルス様まで……」
「SSランクの冒険者か」
「吸血鬼族もカルバニア王国にとって、大事な民だ。それに狼藉を働くことは、このアセルス・グィン・ヴェーリンが許さぬ」
「何よりカルバニア王家とラニクランド王家は、固い絆で結ばれた友人。それに罵声を浴びせ、追放を声高に謳うということは、カルバニア王家の友人を罵倒したということじゃ! 不敬罪に問われてもおかしくない。それを覚悟し、信念を以て我ら王族の友人を辱めたというなら、妾の前に出でよ。このアリエステル・ラスヌ・カルバニア自ら、そなたらに沙汰を下してくれよう」
アリエステルは来年で14歳になる――まだ少女と言っていい年頃である。
そんな王女を前に、誰1人として反論することはない。
皆等しく俯き、1歩も前に出ることなく黙り込んだ。
民衆の足が踵を返す。
通りを埋め尽くしていた群衆は、様々な方向へと散っていった。
だが、アリエステルの言葉を理解した者は少ない。
やはり偏見の目は払拭されず、中には唾を吐いて去って帰る者もいた。
「やれやれ……。困った連中じゃ」
アリエステルは首を振り、そしてため息を吐く。
すると、パチパチと手を叩く音がした。
遅れてディッシュが、アリエステルとアセルスの間に割って入る。
「2人ともカッコよかったぞ」
王女と聖騎士を称賛する。
「ふ、ふん。こんなことで褒められても嬉しくないわ」
アリエステルは金髪縦ロールを揺らす。
その頬は赤くなっていた。
ぎぃい……。
軋んだ音が鳴り、ラニクランド王家の紋章が掲げられた客車の扉が突然開く。
周囲は緊迫した。
そこから現れるのは、英雄譚でしか知らない吸血鬼族だからである。
ディッシュは思わずゴクリと喉を鳴らす。
同じく吸血鬼族の王子と初対面であるアセルスもまた、息を飲んだ。
2人の脳裏を巡ったのは、英雄譚に出てくる吸血鬼のイメージである。
逆立った髪。
血に染まったような赤い瞳。
青白い肌。
杭のように伸びた牙。
今も尚、子どもたちにトラウマを植え続けるお話の仇役が、ついに現実のものとなって、ディッシュたちの前に現れようとしていた。
黒のブーツが、ついにカルバニア王国の地を踏む。
心なしか、白い霧のようなものがかかっているように見えた。
やがて、ディッシュたちの前にその姿をさらす。
「え?」
「あら?」
「うぉん?」
ディッシュとアセルス、ついでにウォンが首を傾げた。
現れたのは、通常の吸血鬼族からかけ離れたものだった。
逆立った黒髪は、儚げな銀髪で、赤い瞳は丸く如何にも優等生じみた眼鏡の奥に押し込まれている。
肌こそ青白いが、そこにおどろおどろしい気配はなく、まるで病床で死を待つ少年のような切なさが込められていた。
背もさほど高くなく、アリエステルといい勝負だろう。
それ故に、吸血鬼らしい力強さは全くなく、むしろ真逆――教会学校の教室に絶対1人いるようないじめられっ子のような風貌をしていた。
「あ、あの……。助けて下さり、ありがとうございます」
少年は頭を下げる。
上目遣いで礼を言った。
ディッシュとアセルスは顔を見合わせる。
「あ、あなたがラニクランド王家の王子?」
「え? は、はい! ぼ、僕がラニクランド王家マルティア・ヘム・ラニクランドの名代として参りました。エーリク・ヘム・ラニクランドと申します。どうぞよろしくお願いします」
そして、再びエーリクは丁寧に頭を下げるのだった。
前週に続き、本日も『ゼロスキルの料理番』のコミカライズ最新話が、
ヤングエースUPにて更新されております。
秋の味覚のあの食べ物の実食回になります。
涎無しで読めない、漫画版『ゼロスキルの料理番』。
是非、応援の方をよろしくお願いします。







